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42話

王城に書状を送って数日後。陛下から返事が届き、セレーネとユリウスの二人はお城に足を運んだ。

案内されたのは、初めてラベンダーと出会った宮殿。

ベッドの上に横たわるラベンダーはやつれ、顔も青白い。いつ命を落としてもおかしくない状態だ。


「それで、ルーンナイト嬢。本当なのか。妹の呪いを解くことができるというのは」

「はい……ただ、一つお願いをしたいのです」


今この場に同席しているのは、セレーネとユリウス。そして国王陛下とアルヴィスの4人のみ。目撃者を必要最低限にするため、使用人も護衛騎士も誰一人入手は許可されていない。

万が一のために、セレーネの魔法で宮殿内に入室禁止の結界。盗聴防止の結界。透視防止の結界を張ってある。普通の魔法使いでも破ることができない、セレーネオリジナルの魔法。


「ここであったことは一切公害しないでください。誰かにラベンダー様の具合が良くなった理由を聞かれても、事実は異なることを話されてください」

「それは……なぜだ。もし本当に成功するのであれば、素晴らしい功績になる。君の噂も払拭されるだろう」

「確かに私の噂も払拭されるでしょう。しかし、同時に私は狙われる対処になります」

「狙われる?どういうことだ」


セレーネは一度目を伏せ、ゆっくりと目を開ける。

先ほどまでの目とは違う。まるで、宝石が埋め込まれているかのように輝く瞳。それを見て、陛下とアルヴィスが驚愕する。


「セレーネ嬢……君は、宝石眼保有者だったのか……」

「しかもただの宝石眼ではない。二色の色を持つ、アレキサンドライトの宝石眼」

「はい。最も価値のある瞳です。このことが公になれば、私は多くのものに狙われます。お金のため、信仰のため。そんな彼らにとって私という人間は商品であり道具でしかない」

「……話を戻しましょう。ラベンダー様の呪い。いや、一般的に呪いと言われるものは、普通の方法では解除ができません。かくゆう僕の呪いも、セレーネがどんなに手を尽くしても解けませんでした」

「……つまり、呪いは宝石眼でなければ解けないということかい。ユリウス」

「おそらく。南部の絵本にも、ライオンになった王子が宝石の瞳の少女の口付けで呪いが解けたと書かれていた。関係ないということはないと思うよ」

「……わかった。確かに宝石眼は貴重な存在だが、その分命の危険があるのは確かだ。まずはラベンダーの呪いを解いてくれ。ルーンナイト嬢の今後については、その後考えよう」


陛下も納得してくれたようで、セレーネは早速呪いを解くために準備をする。

ユリウスの時は口付け。おとぎ話でよくあるような呪いの解き方だった。

ただ、呪いにいろいろな種類があるように、解き方にも色々と種類があるのだろう。

まずは、ラベンダーの体の中に魔力を流し込む。

宝石の瞳が輝き、同時にセレーネの体から魔力が溢れ、ラベンダーに流れていく。


「セレーネ、平気かい」

「はい。大丈夫です」


徐々にラベンダーの顔色が良くなっていく。

予想は的中した。そう喜んでいるのも束の間。ラベンダー様が血を吐き、その一部がセレーネの顔にかかる。


「セレーネ!」

「平気です。このまま続けます」


口元についた血液をペロリと舐めて再び魔力を注ぎ込む。








「え?」








気がつけば、そこは真っ白な空間だった。

先ほどまで宮殿の中で、目の前にはベットに横たわるラベンダーの姿。そばにはユリウスの姿があった。

誰もいない。いや、セレーネには既視感があった。この状況、まさか……。


《招かれざる客が来たようだな》


不意に聞こえた声に、セレーネは勢いよく振り返った。

そこにいたのは、天に届くのではないかと思うほどの巨体。

硬い鱗に鋭い牙と爪。口から僅かにこぼれす炎。

軽く動かしただけで大地が揺れる尻尾。竜巻を起こしそうな大きな翼。


「貴方は」

《ようこそ招かれざる客。我は古龍アルファルト。人間の女に殺された哀れなドラゴンだ》


太々しく、哀れなどと微塵も思ってなさそうな声音で、古龍アスファルトはセレーネを見下ろす。

以前、ユリウスの血を飲んだ際に感じた呪いとの接触。おそらくこれもその一種だろう。セレーネは今、ラベンダーを呪った古龍の血。呪いと相対している。


《まさか我が血液と共鳴する人間がいるとは思わなかった。人間、貴様は今この体に何をしている》

「呪いを……貴方の血液を全て浄化し、この体を助けようとしています」

《なるほど。治療中というわけか。しかし、たかが人間の魔力で我の呪いが消えると思っているのか》


息をするだけでもこぼれてしまう炎は、きっとどこまで逃げても防ぐことはできないだろう。

ラベンダーはこんな存在と相対したのかと、セレーネの体が僅かにすくむ。でも、彼女を助けると決めた以上、ここで引くことはできない。セレーネは一歩近づき、アスファルトに対峙する。


《ほぉ、怖気を震えず、我に近づくか人間の娘よ。……ん?お前その眼……》

「っ!」

《………なるほど。俺と共鳴したのはその目のせいか。貴様「使徒」だったか》

「使徒?」

《その眼を持つ人間のことだ。その様子では、廃れた言葉のようだな。使徒は神に力を与えられた者のことだ。宝石のように輝くその瞳は、神の一部を持っている。つまり「神力」だ》

「私が、その使徒ということですか」

《あぁ特に二色の瞳は神の寵愛の証だ。はぁそんな人間に神力つかわれりゃあ、俺はこれ以上この体を蝕むことはできねぇな》


興が覚めたように、古龍は深々とため息をこぼす。

つまりと、セレーネは今の会話から答えを導き出す。自分の力で、ラベンダーを助けることができると。


「そっか……よかった」

《そろそろ呪いの浄化も終わるだろう。もう死んでるが、最後に使徒と話せてよかった》

「……なぜ、呪ったのですか?」

《悪あがきだ。このまま死んでたまるか。死ぬなら道連れだ。ってな。お前たち人間もやるだろう》

「……そうですね」


徐々にアスファルトの体が薄く、星屑になって消えていく。

セレーネはその様子をじっとみつめ、彼が消えるまで見守った。


《人間。名はなんという》

「……セレーネ=ルーンナイト」

《そうか。長生きしろよ。目の力を使いすぎると、生命力も持っていかれる。だから使徒はいつも短命だ》

「どうしてそんなことまで教えてくれるんですか!!」

《気まぐれだ。……いや、寂しかったんだ。だから、消える前に誰かと話して、誰かに見送られて満足だ。じゃあな人間……セレーネ》


アスファルトの姿は完全に消えた。

セレーネは消えたアスファルトに祈りを捧げる。


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