41話
読み終わった後、拍手が響く。少女だけではない。
いつの間にかたくさんの人が集まっており、聴いていた人たちが拍手をしてくれた。
途端に恥ずかしくなり、セレーネは顔を真っ赤にし、それを本で隠した。
「ばいばーい!」
しばらくすれば少女の母親が迎えにきて、仲良く手を繋ぎながら帰っていった。
日も傾きだし、そろそろ屋敷に戻ろうとユリウスに手を握られて、セレーネは一緒に屋敷へと戻る。
「さっきの絵本」
「え?」
「僕らのによく似てるね」
ユリウスの言葉に、セレーネはびくりと体を震わせた。
ぎゅっと握っている手に力がこもり、彼女はわずかに顔を逸らした。
「まぁ流石に意地悪がすぎるかな。セレーネのその反応は答えを言ってるようなものだからね」
「………」
「呪いを解く方法は【宝石眼】なんだね」
「……はい」
元々宝石眼は魔力が凝縮された瞳。
一部の書物には、賢者と言われていた人の瞳が宝石眼だった。世界を滅ぼすほどの魔道士の瞳が宝石眼だったと書かれていた。
人智を超えた力を持つ人はみな、宝石眼を持ってると言われている。
そして、一番有名なのが聖女だった。
聖女は宝石眼を持っており、人々の悪を浄化したと言われている。
だから、宝石眼で呪いが解けるというのはあり得ない話ではなかった。
だた、セレーネがそのことを口にしなかった理由は、彼女が今まで自分の眼を隠していたのと同じ理由。
「宝石眼持ちはとても貴重な存在で、人身売買では高値で売買される。特に、昼と夜とで色の変わる二色を持つアレキサンドライトの眼はその中でもかなり希少。通常の何倍もの値段がつく」
「はい。それに売買以外にも、神殿は宝石眼を神聖視しているので、見つけ次第保護しようとします。特に、昼と夜の双子の女神の祝福を受けていると言われるアレキサンドライトは最優先保護対象」
「自由はないだろうね。一生鳥籠の中で、死ぬまで飼い殺しにされるだろうね」
だからこそ、瞳のことを話す相手は慎重に選んでいた。
家族はもちろん生まれた時から知っている。しかし、元婚約者であるセドリックは性格に難があり、口にすれば、金のために動く可能性があった。
もし本当に宝石眼で呪いが解けるのであれば、セレーネもラベンダーの呪いを解きたいと思う。しかし、元々宝石眼は王族に現れており、王の証とも言われた代物だ。
このことが王族にバレてしまったら、強制的に王にされるか、アルヴィスの婚約者がクローディアからセレーネに変わる可能性もある。
「だから、言えなかったんだね」
「はい。他に方法はないかと思い、今の研究を行なってます」
「確かに、僕にとってもそんなリスクを負うぐらいなら、その目で呪いを解かない方がいいと思う」
「…………」
「でも、救われた側から言わせてもらえれば、レーネが嫌がることは絶対にしないよ。君が嫌だというなら、僕はそれに答えるよ」
「ユリ様……」
「とはいえ、あまり時間もないだろう。日に日にラベンダー様の容体は悪くなってるって、アルヴィスが言っていたし」
「……そう、ですよね」
「……ねぇレーネ。君は、ラベンダー様を救いたい?」
真剣な視線を向けるユリウス。その目を見ると、素直に言っていいんだという気持ちになってしまい、セレーネは小さく頷いた。
「わかった。じゃあ、明日お城に行こうか。大丈夫。僕がそばにいるから」
ぎゅっと強く握られた手が安心する。
セレーネはユリウスにお礼の言葉を口にした。
◇◇ ◇
「というわけです」
時刻は深夜。セレーネも眠っている時間帯に、ユリウスはリュシュリシュに話をしていた。呪いを解く方法が宝石眼であり、そこから生まれるリスクを考えて、セレーネがなかなか口にできなかったこと。
そして、ラベンダーの治療をするにあたっての頼み事。
「……確かにリスクが高すぎるな。最近、一部の貴族の間で宝石眼を保有している人間を探しているようなんだ」
「宝石眼を?売買、でしょうか?」
「わからん。だが、宝石眼に関する内容については、一般的に出回っている。それを元に、該当しそうな相手に目星をつけている可能性はある」
「じゃあもしかしたらレーネも」
「あぁ。すでに目星をつけられているかもしれない」
そんな状況でラベンダーの治療をするのは確かにリスクが高かった。
だけど、ユリウスはレーネの救いたいという気持ちを第一に考えてあげたかった。
「まぁとはいえ、それでも行くのだろう、お前たちは」
「……そうですね。レーネのためにも、僕は僕のやるべきことをやりたいと思っています」
「……わかった。私がまだ当主でいる間は、しっかりとサポートをしてやろう」
「ありがとうございます」
「さて、話は変わるがユリウス」
先ほどよりも空気は重くなり、真剣な表情を浮かべるリュシュリシュに対して、ユリウスも同じように真剣な表情を浮かべていた。
「お前、ソルネチア家を継ぐ気はあるか?」




