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40話

婚約パーティーから数日後。

二人の日常は以前よりも少し異なっていた。


「あ、ユリウス様にセレーネ様」

「ユリウス様」

「セレーネ様だ」


人の姿になったことで、よく外に出るようになった。

最初は屋敷内だけだったが、視察という名目で、街の方にも足を運んだ。

最初こそ、みんなユリウスの姿に戸惑ってはいたが、何度も来るうちに慣れていき、見かけるたびに声をかけてきた。


「お二人とも、こちら新作です」

「まぁ、ありがとうございます」

「もらっていいのかい?」

「えぇ。以前お二人がここで食事をされてから、街の人たちがよくきてくださってね。商売繁盛してるんです」


すでに、二人の仲の良さは領土公認状態になっており、住んでいる女性たちは二人のような関係に憧れるようになっていた。

二人が仲睦まじい姿をみれば、ご利益がありますようにとよく拝んでいるものもいるぐらいだった。


「レーネ。あーん」

「じ、自分で食べられます」

「いやかい?」

「うぐっ……それずるいです。あ……ん」

「おいしい?」

「………ん!はい!脳に糖分くる感じが!研究中の糖分摂取はこれがいいな。手軽だし」

「……研究は進んでるかい?」


口の周りについた食べカスをハンカチで拭ってあげながら、ユリウスは尋ねる。

ユリウスの呪いが解けたことで、陛下の頼みでラベンダーの呪いを解く方を探すことになった。

ユリウスの時とはまた違った呪いの種類のため、以前と同じで苦戦している。


「呪いっていうのは本当に厄介だね」

「はい。それに、ドラゴンの呪いは魔女の呪いよりも厄介なので」

「どうして?」

「術者が死んでるからです。通常呪いは術者が解くか、解除の条件を満たすかのどちらかです。ユリウス様の場合は後者で、ラベンダー様の場合は前者が不可能なので、自然と後者に」


足元にやってきた小鳥にお菓子を与えながら話をするセレーネ。

そんな彼女の様子を隣で見つめるユリウスだったが。彼女の頬を優しく撫でながら尋ねた。


「ねぇセレーネ。本当はわかっているんじゃないのかい。呪いを解く方法を」

「………」


ユリウスの言葉に、セレーネは反応しなかった。

婚約パーティーでもクローディアに同じような質問をされたが、セレーネは知らないと口にした。しかし、おそらく彼女も察していたのだろう。セレーネが、呪いを解く方法を知っていることを。


「僕にも言えないかい?」

「それは……」

「あの」


バサバサと餌を食べていた小鳥たちが飛び去り、二人の前に幼い少女がやってきた。

手には、その少女には大きすぎる本が抱き抱えられていた。


「どうかしたかい?」

「ユリウスさま、セレーネさま。ごほん、よんでください」


少女は抱き抱えていた本を二人に差し出す。

迷子だろうかとセレーネは辺りをキョロキョロし、ユリウスがその本を受け取った。

その本は、南部の文字で書かれているもので、あまりこの国には馴染みのないものだった。だけど、絵柄からして絵本であることには間違いなかった。


「読んで欲しいのかい?」

「うん」

「親御さんは?」

「おかあさん、おしごとちゅう。まってるの」

「そっか。じゃあお迎え来るまで僕らといようか」

「うん!」

「というわけだからセレーネ、これを読んでくれないかい?」

「え、私ですか?」

「うん。まだ僕、南部の言葉は読めないんだ。セレーネは魔法の研究で色々なところの言葉の読み書きできるだろう」

「そうですけど……」


不意に視線を感じて下を向けば、少女が目をキラキラと輝かせて、本を読まれるのを待っていた。

こんな視線を向けられては、断ることもできない。

セレーネは本を受け取ると、ページをめくって物語を口にした。



◇◇ ◇



その昔、ある王子様がいました。

王子様はとてもカッコよくて勇敢な人で、国のみんなから愛されていました。

そんな王子様に求婚した一人の女性がいました。

だけど王子様はその求婚を断りました。彼にとって愛すべき存在は国民たちだったからです。

しかし女性はそれを許すことができませんでした。

女性は王子に呪いをかけ、ライオンの姿に変えました。

そう、女性は魔女だったのです。

ライオンの姿になった王子を国民は王子と気づかず、彼を国から追い出しました。

どこに行っても、ライオンの姿の王子は、人々に嫌われました。

王子はポタポタと涙を流しながら、近くの森で生活を始めました。

そんなある日、王子の元に少女がやってきました。

宝石のような美しい瞳をした少女は、王子のそばに来ると、きのみを置いてその場を後にしました。

その翌日は果物を。そのまた翌日はキノコを。少女は毎日王子の元に食べ物を持っていきました。

ある日、王子は少女に尋ねました。


「お前は俺が怖くないのか」


少女は答えました。


「何もしてない相手を怖がるのはよくない。ライオンさんは私に何もしてない」


それから、王子と少女は会話をするようになりました。

持ってきた食料がどこにあったものなのか。

街ではどんなことが起きているのか。

そんなたわいもない話だった。

自分の見た目に怖がりもせずいつも笑って隣にいる少女に、王子は惹かれていきました。

しかしある日、少女がライオンに襲われていると勘違いした猟師が、王子を撃ち殺しました。

少女は王子を抱き抱え、涙を流しました。

まだ少しだけ息のあった王子は少女に気持ちを伝え、少女もまた王子に気持ちをつたえ、口づけを交わしました。

すると、少女の瞳がきらりと輝き、王子の傷が塞がり、ライオンの姿から王子の姿に変わりました。そう、王子の呪いが解けたのです。

こうして、呪いの解けた王子は少女を王妃に迎え、二人は末長く幸せに暮らしましたとさ。


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