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4話

公爵家へと訪れた2人は、出迎えた老紳士もとい、ソルネチア家の執事長であるファルティスに案内されて本邸へと足を運んだ。

婚約者になったユリウスのいる別邸ではなく、こちらに案内されたのは現領主であるリュシュリシュ・ソルネチア公爵が2人に挨拶をしたいとのことだった。


「旦那様、サイラス様とセレーネ様をお連れしました」

「入れ」


ゆっくりと扉を開き、ゆっくりと応接室へと足を運ぶ。

来客用の応接室は装飾品が少なく、その代わりに壁紙や床の模様が繊細で細かく、まるで装飾品を埋め込んでいるようなデザインだった。


「ようこそソルネチア家へ」


出入り口の向かい側。

窓を背にして座っている男性と女性。そしてその後ろに立つ男性。

杖をつきながら立ち上がる男性を、傍に座っていた女性が支えながら2人に挨拶をする。


「私はリュシュリシュ・ソルネチア。こちらは妻のアニエス。で、後ろのが息子のルキウスだ」

「サイラス・ルーンナイトです。こちらは妹のセレーネです。本日は突然の申し出、感謝いたします」

「いや、こちらこそ息子の婚約を受け入れてくれて感謝する」


リュシュリシュに座るように言われ、サイラスとセレーネは彼らの向かい側に腰を下ろす。そして、セレーネはリュシュリシュの足に視線を向ける。ズボン越しからではわからないが足が悪いのだろうかと考えていた。

その視線に気付いたのか、彼は自身の足を少しだけ乱暴に叩く。しかしその音は、足を叩いているようにはセレーネの耳には感じなかった。


「数年前に怪我をしてしまってね。今は杖がないとまともに立ったり歩いたりできない」

「治らないのですか?」

「まぁそうだな……しかし、そろそろ爵位を息子に譲ろうと思っていてな。それならこのままでもと考えている」

「……公爵様の武勲は聞き及んでおります。とても優秀な騎士だったと」

「昔の話さ。今は机に座って書類整理している方が気が休まるというものだ」


そう口にするものの、浮かべる笑顔には悔しさが滲み出ていた。

現国王の剣として数年前までその隣に立っていた彼は、怪我をきっかけに引退。今は息子の次期領主としての教育を行なっていることは有名な話だった。

当然セレーネも知っているが、長年剣を握っていた男が、そう簡単に剣を手放せるはずがない。浮かべるその表情が、セレーネには助けて欲しいと訴えかけているように見えた。


「公爵様。もし、今すぐ治せると言ったら、どうされますか?」


セレーネの言葉に、3人は呆然するが、公爵は大笑いをする。

彼女が優秀な人物。魔法の才に恵まれていることは有名な話だった。

公爵もそれは承知だった。だが。と彼は自身が履いていたズボンの裾を破いた。


「……義足ですか」


人の生身の足ではなく、人工的に作られたものだった。

しかし、これをつけていながらも杖が必要ということは、彼と義足は相性が悪いのだろう。


「無くなったものは戻らぬ。これでも、無いよりはましとつけているだけだ」

「……公爵様、私の質問は変わりません。今すぐ治せると言ったら、どうしますか?」


公爵は言葉を返そうとしたが、彼女の表情を見て言葉を止めた。

セレーネは全く表情を変えず、ただただ真剣な顔をしていた。それはまるで「だからどうした」と言わんばかりだった。

公爵は自身の足を見つめる。そして、冷たいその足を優しく撫でる。


「もし本当に治せるなら、治して欲しい……叶うことなら、地面を踏み締めて剣を振り下ろしたい」

「……わかりました」


立ち上がったセレーネは、リュシュリシュの前で跪き、義足に手をかざして魔法を発動させた。

義足はゆっくりと光の粒に変わっていき、全てが光の粒に変わると、今度は光の粒が集まっていき、徐々に足を生成し始めた。

そして、すべての光の粒が消えた時、リュシュリシュの足が戻った。生身の、温かい血の通った足が。


「そんな……」


驚いたリュシュリシュはそのまま立ち上がり、軽く屈伸運動をした。

セレーネが具合はどうか尋ねれば、しっかりと思うように動き、力も入る。本当にリュシュリシュの足が彼の元に戻ってきた。


「驚いた……どんな治癒師でも治せなかったというのに……」

「今使った魔法は治癒ではなく再生です。治癒とは少し異なる魔法になります」

「……優秀とは聞いていたが、まさかここまで」

「妹は、ただ(・・)魔法に長けているのではなく、本当(・・)に魔法に長けているのです」


元の席に戻ったセレーネは、出された紅茶を口にする。彼女は特に大したことはしてないように振る舞っているが、目の前の3人も、隣にいるサイラスでさえ、彼女の魔法には驚いていた。


「なるほど……確かに君ならば、息子の……ユリウスの呪いも解くことができるだろう」


リュシュリシュとアニエスはそのまま部屋を出ていき、残ったルキウスが2人を別邸へと案内することになった。


「改めてセレーネ嬢、父の足を治してくださり、感謝します」

「いえ。私はただ、好きなことができないことの辛さを知っていたので、手を差し伸べただけです」


どこか寂しそうに、そして苦しそうな表情を浮かべるセレーネ。そんな妹の顔に、隣を歩いていたサイラスは奥歯を噛み締める。

2人の様子に何かを察したが、ルキウスは追及することはなかった。


「父はいつも寂しそうに訓練場をみていました。叶うことなら、父にはまた剣を握って欲しかったのですが、どうも気持ちが燃え尽きていましてね。きっと今頃、訓練場で剣を振ってることでしょう」



◇ ◇ ◇



本邸を抜け、少し離れた場所にある別邸は本邸に比べて少し薄汚れていた。

数名のメイド達が出迎え、軽く挨拶をして、そのままユリウスがいる部屋へと向かったが、セレーネは思ったことを口にする。


「若いメイドがいないのですね」

「……お気づきになりましたか?みな、兄上を見て逃げ出したのです。数名逃げ出さなかったものもいますが、陰口を言ったりと、とにかく兄に対してマイナスな感情を抱くものはすべて追い出しました」


結果として残ったのは、長年ここに勤め、呪われる前の彼を知っているものだけ。そのせいで、年配のメイドばかりが残り、屋敷の掃除も一部手が回らない状態になっていた。


「兄の部屋付近は優先的に掃除してもらってるので問題ありません」


彼のいう通り、奥に進めば進むほど、部屋がどんどんきれいになっていき、2人は少し不思議な気分になっていた。


「ここが兄上の部屋です」


他の部屋に比べて一際大きく、一際凝った装飾がされた部屋。

その扉をルキウスが軽くノックし、中にいる人物に声をかける。


「どうかセレーネ嬢。兄を見ても怯えないでください」


ゆっくりと開かれる扉。同時に、中から眩いほどの光が溢れ出てきて、セレーネは思わず目を閉じてしまった。


「兄上、ご紹介します。今回、兄上と婚約することになった、セレーネ・ルーンナイト伯爵令嬢です」

「あぁ君が……初めまして、ユリウス・ソルネチア。今日から君の夫になる男……いや、蛇の名だ」


ゆっくりと目を開けた先。そこにいたのは、たくさんの光を部屋中に反射させるほどに輝く鱗を持ち、まるで宝石を埋め込んだように美しい赤い瞳をした、白い一匹の大蛇だった。


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