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35話

アンジュが怒鳴った瞬間、見えない何かがセレーネの首を絞める。

怒り狂うアンジュ。自分の愛を否定されたことに怒りを感じているようだった。


「あぁ……そうだった……貴方は、愛した男、以外に……興味がないのですよね……だって、愛しい人の魂は、壊れ…‥二度と会うこと……愛することができなく、なった……悲しみと、絶望を感じ、ながらも……自分を、愛さなかった、彼を妬み、その妬みの捌け口に……彼の子を……」

「黙れと言っているのが聞こえないの?」

「がっ!」

「そうよ。私は彼を死なせてしまった。永遠に!ただ私は彼に愛されたかっただけなのに……彼は自分を拒絶する女を愛し、自分を愛した女を拒絶した!」


首を閉めていたものは徐々に緩まっていき、解放されたセレーネは床に膝をついて激しく咳き込んだ。

そんな彼女のことを無視し、アンジュの視線はそばにいる白蛇に向けられる。


「彼は言っていたわ。どんなに拒絶されても、僕は彼女を愛してるって……貴方もその口かしら」

「……えぇ。たとえ彼女が僕を拒絶しても、僕は彼女のことを愛してます」

「そう……そうなの……じゃあ、本物の化け物になっても、彼女は貴方を愛してくれるかしら」


セレーネは何かを感じ取って、すぐに顔を上げた。

ニヒルに顔を歪ませる魔女の顔を見て、ユリウスに何かしたのではないのかとそう察した。

振り返り、彼の名を呼ぼうとした時、白く美しい尾が、セレーネの体を壁に叩きつけた。

衝撃で、体の中の空気が一気に外に吐き出される。

何度も咳き込み、ゆっくりと顔を上げる。


「ユリ……様?」


ぎろりとセレーネを見るそれは、獲物を見つけたと言いたげな、獣のような瞳だった。すぐにわかった。今の彼に、人としての理性はない。


「ユリ様!目を覚ましてください。ぐっ!」

「無駄よ。今の彼に理性はない。獣としての本能で貴方を襲ってるの。そう、今の彼はただの化け物そのもの。外見も中身も蛇そのものなのよ。さぁそんな相手を愛せる!?愛せるわけないでしょ?だったらさっさと殺されて、この子を私にちょうだい」


魔法を使えば、簡単に制圧はできる。でも、相手はユリウス。魔法を使って彼を傷つけることはセレーネにはできなかった。

ただ襲われるがまま、彼女は本能のままに動く彼にボロボロにされていく。


「はぁ……はぁ……」


体はもう動かない。仰向けになったセレーネの目には、口を開けたユリウスの姿があった。

ユリウスはそのままセレーネにガブリと噛みつき、その鋭い牙で、彼女の体を貫いた。


「ユリ……様……」


弱々しく、彼の名前を呼んだ時、ぴくりと体が反応する。

ゆっくりと口が開かれ、牙が抜けていく。

倒れるセレーネを見つめるその顔は、ひどく困惑しており、彼の口からセレーネの名前が溢れた。

元のユリウスが戻ってきて、安堵の笑みを浮かべる彼女。


「ふふ、かわいそうに。貴方のせいで彼女は死んでしまう。でも安心して。私だけは貴方を受け入れてあげる。化け物になっても、私だけは愛してあげるから。だから、私を受け入れて」


ユリウスの身体中を()いが駆け巡る。それは、ズブズブとユリウスを黒い沼へと引きづり混んでいく。

その時ユリウスは初めて後悔した。自分が呪いを受け入れなければ、こんなことにはならなかった。

セレーネは死なずに済んだと。彼は己の自己犠牲を恨んだ。


「大丈夫、です……ユリ様……」


ゆっくりと、セレーネの手がユリウスの頬に触れる。

体はボロボロで、口から血を流し、目は虚。だと言うのに、彼女は変わらず彼を愛しげにみつめていた。


「セ、セレーネ……ぼ、僕は……」

「大丈夫、です……私は、死にません……だから、他の人の()いに溺れないで……私だけを愛し(のろっ)てください。


嵐だった外は、いつの間にか穏やかになり、分厚い雨雲が晴れて、月光が顔をのぞかせる。

薄暗い部屋に光が流れ込み、セレーネの髪が赤く染まり、彼女の瞳が宝石のように美しく輝く。

そして、彼女の周りを魔力が巡り、徐々に彼女の体に空いた穴が塞がっていく。


「ユリ様……どんな貴方でも、愛しています……」

「……僕も……レーネを愛しているよ」


二人は口づけを交わす。

空気は震え。魔力が巡る。

そして、何かが壊れる音ともに、アンジュの絶叫が部屋に響き渡った。


「はぁ……え……?」


口づけを終え、セレーネが目を開けた時、彼女は目の前の光景に驚愕をしていた。


「レーネ?どうした?」


言葉が出なかった。

先ほどまでそこにいたのは、確かに白い蛇の姿をしたユリウスだった。

だけど、今彼女の目の前にいるのは、見目麗しい男性だった。


「ユリ、様?」



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