34話
あれから時間は過ぎ去り、雨が降る量が多くなった時期。
セレーネたちはいつもと変わらない日常が続いていた。しかし、それは逆に言えば、呪いに関する進展はないということだった。
セレーネも色々と思いつくたびに実験を行なっているが、どれも解決にはつながらず、時期のせいもあるのか、ここ最近はあまり元気がない。
「セレーネ、少し休んだらどうだい?」
ユリウスの体の中、新聞を読む彼女に声をかける。
いつも通り一緒にいる時間を過ごしているが、さすがのユリウスも彼女の元気のなさには気づいていた。
みていた新聞から目を話し、ユリウスに向ける顔は幼い少女のようだった。
不機嫌な彼女の姿に可愛いと思いながら、頬に顔を近づければ、セレーネも甘えるように擦り寄る。
「ユリウス様も一緒に寝ますか?」
「セレーネがそれを望むのであれば」
嬉しくて、セレーネの顔は緩み、ユリウスの頭に腕を回し身を寄せる。
不意に、激しい雷が落ちた。白く光、自分近くで落ちたなと思った時、不意に赤い何かが見えた気がした。
なんだろうと、じっと窓を見ていた時、勢いよく窓が開け放たれ、激しい風とそれによって雨粒が室内に入ってくる。
「え、な………え?」
何事かと顔を上げた時、セレーネは思わず声を漏らした。
窓の外、空中を浮遊している女性の姿があった。
ルビーのような真っ赤な髪と瞳をし、男が好きそうな凹凸のある体。スカートのスリットから伸びる白く長い足。
初めて会うはずなのに、セレーネは彼女が誰なのかすぐにわかった。
「アンジュ・ルージュ・アムネシア……」
魔女はじっとセレーネと、そばにいる白蛇の姿を見つめる。
ぷっくりと色気のある唇が震え、薄く開かれた口に空気が流れていく。
「呪いの痕跡を追ってみたら……これはどういうことかしら」
ただ言葉を発しただけだった。だけなのに、ゾッとするほどの魔力を感じた。
間違いない。目の前にいる女性は紛れもない、話に出てくる魔女本人だ。
「私の呪いは、この国の王族に引き継がれるのに、それはなんなの」
「……彼は、この家の人間です。王族の血は受け継いでません」
「ふーん。どうやったかは知らないけど、あんた。なんでそれと一緒にいるの?」
おかしいと言いたげに、アンジュはセレーネのことを見下した。
それは紛れも無い嫉妬だった。それならと、セレーネはまっすぐな気持ちをアンジュに伝える。
「彼を愛してるからです」
「愛してる?ずいぶん軽々しくいうのね。重みを感じない。どうせ、今までの女と同じよ。愛してると言いながら、本当は愛していないんでしょ」
「いいえ、私はこの方を心の底から愛しております。たとえ生涯、彼がこのままだったとしても、私は彼を愛し続けます」
アンジュは奥歯を噛み締める。まるで、そんなことはあり得ないと言いたげな表情だった。漂う魔力はどんどん上がっていき、セレーネの額にも汗が滲む。
「そんなに愛しているのに、どうして妬ましくて仕方ない女の腹の子に呪いをかけたのですか」
魔女の動きが止まり、徐々に魔力が低下する。
一種のかけだった。王城の書庫で考えた魔女の可能性。
セレーネはじっとアンジュの出方を伺う。
彼女は深い深いため息をこぼした後、窓部に腰を下ろしてセレーネのことを見つめる。
「あんた、知っているの?私がどうしてあの女の腹にいるあの人の子に呪いをかけたのか」
「……あくまで予想ではありますが、彼の魂を呪おうとして失敗したからでは無いかと」
「あはははは!すごいわね。その答えに行き着いた人間は、今の今までいなかったわ。なるほど、今代の泥棒猫は、ずいぶん賢いようね」
妖艶に笑う魔女をセレーネはじっと見つめる。
魔女がどうしてここにきたのかはわからない。さすがに、呪いを解くためでは無いことは、セレーネにもわかる。
呪いを追ってきたと彼女は言っていた。たどり着いたのは公爵家で、しかも呪いが発動してる者と愛おしげにそばにいる女の姿。
自分の呪いが、愛が、壊されようとしていると思ったのだろう。
「ねぇ、どうしてあんなにも醜い姿なのに、あなたは愛せるの?」
「醜くありません。とても美しい姿です」
「何言ってるの?相手は蛇、化け物よ?それをあなたは愛してるというの?」
「……はい。私は愛してます。あなたと違って」
「は?」
「さっきから気になってました。あんなのとか醜いとか化け物とか。愛してる相手に言う言葉では無いかと思います。あなたは本当に愛しているのですか?」
「黙れ!」




