33話
ルーンナイト伯爵家からもどったメルフィーは荒れていた。
声を上げながら部屋の中のものを次々に壊していく。そんな様子を、唯一彼女の本性を知っているメイドは、黙って見つめていた。
「セレーネ、本当にムカつく!欠陥品のくせに、この私にこんな屈辱的なこと!あんただって!魔法以外に価値なんてないじゃない!!あぁそうよ。あんたみたいな人間には、同じ人間より蛇の方がお似合いよ!生まれてくる子供は、きっとひどく醜いものでしょうね!あはははは!」
今の彼女に妖精姫の姿は見る影もない。
一通り暴れたメルフィーは、唯一壊れてない椅子に腰掛けると、メイドに元に戻すように命令をする。
メイドは魔法を使用して、壊れていたものを全て直し、最初と変わらない姿にした。
「………セレーネ……あんたが私よりも幸せな生活を送るなんて許せない。どうして私より身分の低いあんたが、そんなにも愛されるのよ……」
「今後はいかほどに」
「そうね…………白蛇公爵が死んだらどうなると思う?」
「大問題でしょうね」
「そうよね。もしそれを、セレーネがやったってことになったらどうなるかしら」
「……罪人になるでしょう。しかも相手は公爵家の子息。処刑は免れないかと」
その言葉に、メルフィーは「そうよねそうよね!」と声を上げ、立ち上がって一人で踊りを踊る。
高揚した彼女は、脳内でシナリオを描く。
「その処刑を私が助ける。だって、私は親友だもの。そして、そんな罪人に嫁の貰い手はない。だから今度こそハーヴィスト男爵に嫁がせる。だって、罪人に選択権なんてないでしょ!」
沈んでいた感情は徐々に薄れ、メルフィーはセレーネに訪れるであろう絶望に、歓喜の声あげる。
彼女がどうしてここまでセレーネに固執するのかは誰もしらない。
それは彼女本人も。
自分よりも身分が低く、自分よりも醜い彼女が、自分よりも評価されることが許せなかった。それだけの理由ではない。黒くどすぐらい何かが、セレーネに固執する本当の理由だと。
「すぐに準備して。もちろん、お父様にバレないように」
「かしこまりました」
しかし、メルフィーはこの時微塵も思っていなかった。
セレーネの手によってユリウスの暗殺は失敗に終わってしまうことを。
彼女は理解していないのだ、セレーネという人間が異常なほどまでに魔法の才能に恵まれていることに。
彼女がいる限り、彼女の大切なものを傷つけることができないことに………
◇◇ ◇
翌日、セレーネはソルネチア家に戻ることにした。
あまり長居しすぎるのも良くないというのもあるが、彼女の場合は最愛の人に会いたいという気持ちが大きいのだろう。
父親と兄夫婦と可愛い甥っ子が彼女の見送りをするために、わざわざ外まで足を運んでくれた。
「体に気をつけるんだぞ」
「はい。お父様もお元気で」
「何かあればすぐに連絡しろよ。今回みたいに、いきなり家に帰ってくるんじゃなくて」
「手紙を書いて届けるよりは、そちらの方が早いかと」
「スウェン、バイバイって」
「ぁ、う……」
エフィニアの腕の中で、腕をバタバタさせる甥っ子スウェンの手のひらに指を持ってくると、彼はぎゅっとそれを握った。逆の手で優しく頭を撫でてあげれば、彼はとても満足そうな表情を浮かべていた。
「公爵様によろしく伝えてくれ」
「わかりました」
「こちらでも、何か呪いに関する文献が見つかったらすぐに連絡をする。だから、無理をしすぎるなよ」
「わかっています。私が無茶をすれば、ユリウス様に怒られてしまいますから」
もうすでに何度かその経験をしているため、セレーネは苦笑いを浮かべる。
最後に、一人一人に抱擁をし、セレーネは「いってきます」と口にした。
瞬きを一つすれば、そこにセレーネの姿はなかった。
その理解し難い魔法に、リュカードとレオンは深いため息をこぼした。
セレーネがいなくなった場所に向かって、スウェンが腕を伸ばし。それをみたエフィニアが「また来られるから」と言って、泣き出しそうにする我が子を慰める。




