31話
便りもなく、突然屋敷を訪問したセドリックとメルフィーは悪びれたそぶりも見せずにいた。
ルーンナイト家は先日の二人の婚約パーティーには参加していないため、二人がどんな扱いを受けたのかを知らないと思っているのだろう。
しかし、リュシュリシュ大事な娘のことだからとすでにルーンナイト家にパティーのこと、二人が何をやろうとしていたのかも話していた。それ以前に、元婚約者の家に我が物顔でくる時点で常識がない。
だが、それを面と向かって口にすることはせず、出迎えたレオンと妻であるエフィニアは二人に笑顔を浮かべる。
「遠いところ我が家まで足を運んでくださり、感謝いたします。セドリック殿、メルフィー嬢」
「突然の訪問申し訳ない。子が生まれたと聞いて、お祝いをしたいと思い、足を運びました」
「それはそれはありがとうございます」
「夫人、お子様はどちらに?私、顔を見たいですわ」
「息子は今、義妹であるセレーネちゃんが面倒を見てくれています」
「まぁ、セレーネもいるのですか?是非ともお会いしたいわ」
いつもの愛らしい表情を浮かべるメルフィー。
二人は内心思った。この二人はいつまでセレーネのことを苦しませるのか、と。
直ぐにでも追い出したいが、一応二人の方が身分が上ということもあり、横暴なことはできない。満足するまでいさせるしかないだろうと思い、話を進める。
「そうだ。実は出産祝いを持ってきたんです。よければどうぞ」
メルフィーがテーブルに出したのは、はちみつだった。
特に怪しいものではなく、ごく一般的なものではあるが、メルフィーが用意したのは高級なはちみつ。公爵家だからこそ手に入る品だった。
「ぜひ召し上がってください。はちみつは需要にいいと聞きましたので、お子様にもぜひ」
「……ありがとうございます、メルフィー様。こちらの品は、私たちの方でいただきます」
静かに微笑むエフィニア。同じく笑みを浮かべるメルフィー。
その場に漂う重い空気に、レオンは気づいているが、セドリックは全くと言っていいほど気付いてない。
「申し訳ありませんがお二人方。足を運んでいただいたところ申し訳ないのですが、こちらも子が産まれてバタバタしています。そろそろお帰りの方は」
「っ……あぁそうだな。それは失礼した。では、我々は……」
「いいえ!まだ用は済んでおりません」
声を上げ、目に涙を浮かべるメルフィーはまるで二人に懇願するような表情を浮かべる。
メルフィーはセレーネに会わせてほしいと頼んだ。
ずっと会えなくて心配だったから、せめて顔だけは見たいと。ぐすぐすと泣き始める。そんな健気な姿にセドリックは同情し、二人にセレーネに合わせてほしいとお願いする。
だけど、二人はそれを絶対に許さない。この二人がセレーネにしたこと、しようとしてことを考えれば、ここで会わせてしまえばまた彼女が傷ついてしまう。
「申し訳ありませんが……」
「構いませんよ」
部屋に響く声。わずかに開かれた部屋の扉の前、幼い子供を抱き抱えるセレーネの姿があった。
「セレーネ……」
「セレーネ!」
勢いよく立ち上がり、淑女らしからぬ勢いでセレーネに飛びつこうとするメルフィー。まるで、腕の中にいる赤子が見えていないかのようだった。
レオンとエフィニアが危険を感じて声を上げる。だけど、セレーネはそれを華麗に躱し、部屋の奥に入っていく。
ハグができずに、メルフィーはそのまま勢いよく地面に倒れ、そんな彼女を心配してセドリックが駆け寄る。
「セレーネ!お前、メルフィーになんてことを!」
「赤子を抱えていたのですから、守るために避けるのは当然です。むしろ、私が赤子を抱き抱えているのが見えなかったのですか」
「っ!本当にお前は相変わらずだな……ハッ!そんな性格じゃ、公爵家でもうまくいっていないのだろう!」
さきほどまで黙りだったセドリックは、セレーネが来た途端に饒舌になり、罵倒を浴びせる。セレーネはいつもと変わらず無表情。レオンは妹が理不尽に罵倒されているのに腹を立てており、今にでも叫び出しそうだった。
「……その様子では、私と顔も合わせたくないのでしょう。一刻も早くご帰宅することをお勧めします」
「なんだと!俺がわざわざお前のために足を運んだというのに、その態度はなんだ!」
「別に、会いたいなどという書状は出しておりません。突然尋ねられてきてその態度とは、いささかマナーがなっていないのでは」
「なんだと!」
「セドリック様、私は平気よ」
セドリックに支えられながら瞳をうるうるさせ、セレーネを見つめるメルフィー。何も知らない人間が見れば、明らかに悪者はセレーネだと口を揃えていうだろう。
「ごめんなさいセレーネ。私、貴女に会えて嬉しくて思わず……」
「そうですか。では、こうやって顔を合わせることもできたので、そろそろお引き取りください」
「お前っ!!」
「以前もうしましたよね。二度と我が家に足を運ばないでください。と」
「そんな、私はただ親友として貴女が心配で」
「親友……本当にそう思っているのですか?」
抱き抱えていた甥っ子をエフィニアに渡し、そのままツカツカとメルフィーのそばに歩み寄る。セドリックが彼女を庇うように前に出るが、セレーネの視線は常にメルフィーに向けられていた。
「親友と思っているのなら、なぜ新しい婚約者にドルネルスク・ハーヴィスト男爵を勧めようとしたのですか?」
「なんだと!!」
流石にこの二人が誰をセレーネの新しい婚約者にしようとしていたかまではレオンたちには聞かされておらず、セレーネだけがその事実を知っていた。
セドリックは目を泳がせており、隠す気が全くない。だけどメルフィーは依然と演技を続ける。
「そんな……私はただ、親友として貴女の幸せを願って……」
「幸せを願って、妻と死別したお父様と歳の近い方を進めるのですか?」
「私は……本当に貴女のことを考えて」
「セレーネ!!か弱いメルフィーを傷つけるな」
「傷つける?私はただ、親友などと口にしながらも私のことを必死に貶めようとしている彼女が気に入らないだけです」




