3話
リュカードが手紙を送った翌日、公爵家から返事が届き、すぐにでも来て欲しいと記載がされていた。
急な婚約に、使用人たちはバタバタしながら荷物をまとめて、セレーネは公爵家へと向かった。
同時に王太子にも手紙を出しており、彼からも返事が届き、付き添いに兄のサイラスも公爵家に同行するようにと書かれていた。サイラスが友人である白蛇公爵。ユリウス・ソルネチアに最後に会ったのは、学院を卒業した日、王子と共に学院卒業を直接伝えに行った時。
「あくまで見た目が変わってるだけで、中身はそのままなんだよ」
「……魔女の呪い、ですか」
「あぁ。お前のことだから調べただろうが、着く前に調べた結果について聞かせろ」
「わかりました」
話のあった翌日、セレーネは書庫で魔女の呪いについて調べた。
それは、まるでおとぎ話のような話で、ひどく現実味を感じなかった。
◇ ◇ ◇
その昔、1人の魔女がある男を愛した。
だが、その男は魔女ではない別の女を心から愛していた。
魔女はその女にひどく嫉妬をし、男にこう尋ねた。
「彼女は貴方がどんな姿でも愛してくれるでしょうか」
その言葉に、男は「もちろん」と答えた。それを聞いた魔女は男を白い蛇の姿に変えました。
あくまでも見た目だけ。中身は男そのもので、人格も蛇になっているというわけではありませんでした。
男は蛇の姿で女の前に姿を現したました。すると、女は男の姿を見て悲鳴をあげて逃げ出してしまいました。
男は嘆き、そして魔女は男に寄り添った。
「私ならどんな貴方でも愛します」
しかし男は、それでも女を愛してるといい、魔女の気持ちを拒絶した。
魔女の嫉妬は憎悪へと変わり、男に呪いをかけた。
成人。つまり結婚のできる年になったときに、代々醜い蛇の姿に変わる呪い。その呪いは、魔女を愛するか、そんな姿でも心から愛してくれる人が現れるまで解けることはない。
◇ ◇ ◇
「その呪いを受けた最初の男が、ソルネチア家の先祖ということですね」
セレーネが話してくれた内容に、最後まで反応せずに聞いていたサイラスだが、最後に首を左右に振った。
「あくまでもそれは表向きだ。実際は違う」
「と、いうと?」
「……呪いを受けた男は、初代国王だ」
その言葉に、セレーネは驚いた。
書物のどこにもその事実は載っておらず、ソルネチア家の令息が呪いの影響を受けたため、彼女は勝手に男の血筋がソルネチアだと思っていた。
「なのにどうして、王族ではなく公爵家の令息が呪いの影響を受けたのですか」
「……呪いの研究はずっと行われてきた。その中で分かったのは、呪いは代々1人だけということだ。だから、王族は必ず子供を2人以上産むが必要があった」
1人は魔女の呪いを受け、もう1人は跡取りに。ということだとすぐに察した。
だが、今代の王の血を継いだ実子は1人。サイラスの友人でもある、アルヴィス・イグニス=エストレア、ただ1人。
2人目がいないのは、先代王妃が病弱で2人目を産む前に亡くなり、王が彼女を一途に愛しており、側室も後妻も迎えなかったためだ。
「つまり、確実にアルヴィス殿下に呪いの影響が出る。王はそれをどうしても避けたかったというわけですね」
その方法を探している時、呪いを別の者に移す魔法があることがわかった。王はすぐさまその相手を探したのだが。その相手が、ユリウス・ソルネチアだった。
「同意のもと、ですか?」
「あぁ。もちろん陛下は彼に選択肢を与えた。嫌なら他を探すと。だがあいつは、それを受け入れた。自分には代わりがいるからと」
世間では、ソルネチア家の跡取りは弟のルキウスと発表されている。
弟が後継になったことで、兄弟仲は悪いと言われているが、少なくともユリウスの方はルキウスに対して兄としての愛情は存在しているとセレーネは思った。
「お兄様は、その場に立ち会ったのですか?」
「いや。それには立ち会ってない。知り合ったのはそれが終わって、呪いが発動する前だった」
その時のことを思い出しているのか。サイラスは奥歯を噛み、膝の上に乗せている両手にギュッと力を込めた。
「その瞬間を見た時、俺は悲鳴をあげてしまった。すぐに謝罪はしたが、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。中身はあいつなのに、見た目が変わったからって……」
「お兄様……」
向かいに座っていたセレーネは、すぐにサイラスの隣に腰掛けて寄り添った。
兄のユリウスに対する気持ちが伝わってきて、彼のためにも自分ができることを精一杯やろうと思った。
どんな小さなことでも、呪いを解くヒントになりそうなものをかき集め、いつかサイラスとユリウスが笑いあえるように、と
「サイラス様、セレーネ様ようこそいらっしゃいました」
馬車が止まり、開くと1人の老紳士が挨拶をしてきた。
サイラスの手を借りて馬車を降りたセレーネが目の前の光景に大きく目を開いた。
「ようこそ。ソルネチア公爵家へ」




