27話
「こんなものまで目を通すんですね」
お茶会の後は、王城の書庫に足を運んで調べ物をした。
魔女に関するもの、魔術に関するもの、精霊や、妖精、神獣。そして根本的な呪い。
言葉もいろいろなものを読み漁った。
だけど、どこにも目ぼしいものは存在しなかった。
護衛であるルートンも一緒になって探してくれているが、どれも呪いを解くヒントにはなりそうになかった。
「なんというか、結局人間見た目じゃなくて中身ってことですかね」
「まぁ、見た目ってある意味第一印象だからね。中身は見ただけじゃわからないし」
「そうですね。男はきっと、愛して女性は自分の中身を知ってるから、見た目が変わっても愛してくれるって自信があったのでしょう」
「中身……中身ね……」
「振られたからって、子孫まで呪うなんて……ずいぶん執着してますよね」
「……おかしい」
椅子から立ち上がったセレーネは、すぐに魔法の本を調べ始める。
その突然の変わりようにルートンはあわあわしながら彼女の動きを視線で追うだけだった。
「な、なにかわかったのですか?」
「うん。おかしいと思ったの」
「おかしい?」
「そう。あの呪いは確かに血に含まれいて、子孫に代々受け継がれる。でも、魔女が愛したのはあくまでその男。じゃあ、どうしてその男に呪いをかけなかったのか」
「ん?かけてるじゃないですか。だから、アルヴィス殿下が呪われて、それがユリウス様に」
「……魔女ならできないはずがないの。呪いを魂に受けさせることを」
古い文献にあった。魔女は魂に干渉することができる。
とある魔女に生涯を誓い合った男がいた。しかし長命の魔女と短命の人間ではずっと一緒にいることはできない。だから、生まれ変わってもまた出会い、愛し合うために魔女は魂に干渉し、男が生まれ変わることがわかる魔法をかけた。
そしてその魔女は、その生涯を終えるまで生まれ変わった男とずっと愛し合ったと。
「つまり、呪いをかけた魔女が本当にその男を愛していたのであれば、魂に干渉して呪いをかけることもできたはず」
「では、なぜ魔女はそれをしなかったのでしょうか?」
「……しなかったんじゃなくて、できなかったのかも」
「できなかった?」
「男の魂が、すでに消滅していたのかも」
ない話ではない。魂の消滅方法はいくつかあると言われている。
1つは、悪魔との契約によりその報酬として奪われること。
または、神の判断による消滅。
そして、なんらかの魔法によっての魂の消滅。
「可能性としては三つめ。おそらく魔女は男の魂に魔法をかけようとしたが失敗。男の魂は消滅してしまった。だから代わりに……」
「男の血に……え?つまりそれって……」
「えぇ。お話に出てくる女には、男との子供が宿っていた」
そう考えると、魔女がどうして男そのものの魂ではなく、ただ同じ血が流れるだけの違う存在に呪いをかけたのか辻褄があう。
「しかし、それがわかったからといって、呪いは解けるものなのですか?」
「可能性はある。ただそれには、本人と会わないといけない」
「本人って……その魔女はまだ生きているんですか?」
「おそらく」
「ありえません!自分も詳しい年月はわかりませんが、魔女の寿命はせいぜい200年。長くても300年と聞きます。しかし、この国は建国されて……」
「500年以上。だからこそ、魔女の特定がしやすい。嫉妬深くて粘着質。濁った感情を愛だと誇らしげにいう、頭のおかしい長寿の魔女」
手にしている本は、昔一度だけセレーネが学院で閲覧を許可してもらった禁書。
人々が確認した魔女の名前が書かれている書物。
そのあるページ。セレーネは、その名前を指でなぞった。
―――― 【狂愛の魔女】アンジュ・ルージュ・アムネシア




