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23話

現国王の妹、ラベンダー・グラキエース=エストレアは、女性でありながら剣の才能に恵まれ、その才能が開花すると同時に王位継承権を放棄し、騎士として多くの功績を残した。

リュシュリシュとも戦場を共にしたことも何度もあったが、ある歴史に名が残るほどの戦いによって負傷をし、現在はその療養のために表舞台から姿を消した。

王城の裏手。広大な森を抜けた先にある小さな宮殿。

現在はそこで彼女は1人、療養を行なっている。


「あら、もしかしてお兄様?いらっしゃるなんて、珍しいですね」


元気な優しい声。

兄を気遣うそれは、とても愛を感じるものだった。

だけど、陛下はもちろん。アルヴィスも、セレーネも彼女の顔を見てわずかに顔を歪ませる。


「足音が多いですね。またたくさんの護衛を連れてきたのですか?」


彼女の目は痛々しいほどに怪我をしていた。



◇◇ ◇



数年前。その日は、同時に二振りの剣が折れた日だった。

一振りは、王の剣であったリュシュリシュが片足を失い、もう一振りは王の唯一の血縁であるラベンダーが両目を失った。

リュシュリシュは他国との戦で。ラベンダーは魔物討伐で怪我を負った。

ラベンダーの魔物討伐は、情報では大したことはなく、一言で言うのであれば「運がなかった」。

魔物討伐は数名の負傷者を出しながらもなんとか終えることができたが、その帰還中に古龍に遭遇してしまった。

結果無事に古龍を倒すことはできたが、9割が死亡。残った1割も重症を負い、ほぼ壊滅状態だった。


「……お初にお目にかかります、ラベンダー様。私、ルーンナイト伯爵家長女、セレーネ=ルーンナイトと申します」

「まぁ、とても可愛らしい声ね」

「ありがとうございます。本日、陛下の命でラベンダー様の治療に伺いました」

「私の?」

「はい。もう一度、世界を見ることができるようにいたします」

「……必要ないわ」


だけど、セレーネの言葉をラベンダーは否定した。もちろんそれに対して国王陛下は強い口調で理由を尋ねた。

今までも、治すと言って治ることはなかった。ラベンダーは期待するのをやめ、もうこのままの生活を受け入れていた。


「私はもうこのままでいいの。わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」

「……ラベンダー様。そのお言葉は本心でしょうか」

「え?」

「私は、その目は治すことはできます。これは絶対です。しかし、貴女さまがそれを望まないのであれば、私は治療致しません。いくら陛下の命令でも、本人がそれを望まないのであれば、私はそれを強要できません」


あくまで本人の意思。本人が望まないことを、セレーネは行わない。

第三者の願いは、本人にとってはただのエゴでしかない。本人の意思を無視した行為は、セレーネが嫌いなものだった。


「……自信があるのね」

「はい。もし治らなければ、首を切っていただいても構いません」

「セレーネ嬢!」

「……傲慢は、いずれ自身の身を滅ぼすことになるわよ」

「わかってます。私は治せないものを治せるとは言いません」

「……はぁ。負けたわ。貴女の言葉を信じましょう」

「じゃあ!」

「ルーンナイト伯爵令嬢。私の目を直してください」

「……その命、お受け致します」


セレーネはゆっくりとラベンダーの目に触れ、魔法を展開させる。

光の粒が溢れ出し、その粒がゆっくりとラベンダーの目の中に入っていく。

深い呼吸と共に、魔法は解除され、手が離れる。


「終わりました」

「……もう終わったの?特に、変わった感じはしないけど」

「ゆっくりと目を開けてください」


ラベンダーはゆっくりと目を開いていく。

隠れていた緑色の瞳がゆっくりと姿を表れていき、彼女は辺りを見渡した。


「そんな……」

「いかがですか?」

「見える……見えるわ!今までどんな医師も魔術師も治すことができなかったの!」

「ラベンダー……」


陛下が名前を呼べば、ラベンダーがゆっくりと振り返る。

目が合い、彼女は優しく笑みを浮かべた。


「お兄様、見ないうちに随分老けましたね。アルヴィスも、大きくなったわね」

「叔母上……」

「ラベンダー……本当に、本当に私の姿が、見えるのか」

「えぇ、見えているわ。国王なのに、とてもみっともない顔で泣いているお兄様が」


国王陛下はそのままラベンダーを抱きしめ、アルヴィスも涙を流しながら2人のそばに駆け寄った。

セレーネはそんな家族の様子を、良かったと思いながら見つめていた。


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