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19話

すんだ青空には雲ひとつなく、眩いほどの日が植物たちに元気を与える。

セレーネは習慣となっている花壇の水やりを行い、それを窓からユリウスが眺める。

なんの騒ぎもない、穏やかで平和な日々。実家にいた頃に比べたら、とても幸せだ。


「そういえばレーネ。朝早くに父上に呼ばれていたようだけど、何かあったのかい?」

「あー、はい。実は……」


朝早く、クリフが部屋に訪ねてきて、リュシュリシュが呼んでいると言われて一緒に本館へと向かった。

そこで彼に言われたのは、領土内であれば好きに出入りしていいとのことだった。

今までは、許可なく屋敷を出ることはできなかったのにどうしてかとセレーネは思ったが、それが顔に出ていたようで、リュシュリシュが1から説明した。

理由は先日のセドリックとメルフィーの婚約パーティーでのこと。

ソルネチア家が彼女を監禁しているという話が上がった。そもそも彼女が死んだという話もあがっているほど、セレーネの生存状況と苦しい思いをしているのではないかと周りが疑心暗鬼になっているそうだ。


「まだ領土の外に自由に出してやることはできないが、領土の中であれば出入りは自由。もちろん、お茶会なども我が家であれば好きに開いて構わない」

「すみません公爵様。私のせいでご迷惑を」

「構わない。監禁というのもあながち間違いではない。お前をよそに渡したくないからな」


公爵が冗談を言うのは珍しいなと思ったが、彼の好意を受けることにした。

もちろん、領土とはいえ出かける時は護衛をつけるように言われたが、セレーネには専属の騎士もいない。そもそも、別館には数名の使用人はいるが騎士が1人もいない状態だった。


(まぁ、私が魔法で悪意のある人は出入りできないようにしてるから、騎士を配置する必要がないのだけれど)


誰か1人専属をつけようと言われたが、あいにく親しい騎士は1人しかいなかった。


「セレーネ様。壁の修繕終わりました」

「ありがとうルートン。ごめんなさい、騎士なのに修繕の手伝いをさせて」

「いえ。いい運動になりますし」

「別館の使用人たちも、男手があって助かると言っている」

「お役に立てているなら光栄です」


ほぼ強制に近い引き抜きで、ルキウスの騎士だったルートンが別館の騎士となった。

彼に対してセレーネもユリウスも申し訳なさそうにしていたが、彼は気にしないでくださいといい、むしろ屋敷のボロボロさが気になって、修理を手伝わせて欲しいと自ら名乗り出るほどだった。


「ルートン様。よろしいでしょうか」

「あ、はい。それじゃあお二人とも、失礼します」

「ルートン、午後に街に買い物に行きたいので、護衛をお願いします」

「わかりました!それまでに作業を終わらせますー!」


元気に声をあげて、彼はその場を後にした。

まるで元気に走り回る大型犬のようで、セレーネはクスリと笑みを浮かべた。


「彼はいい子だね」

「そうですね。ユリウス様を見ても驚きませんでしたし」

「いい騎士が来てくれて嬉しいよ。ところで、街には何しに?」

「薬草を。最近はユリウス様の時間が楽しくてサボっていましたが、魔法や魔法薬の実験を少し再開したくて」

「すまない。僕のせいで」

「とんでもないです。ユリウス様の時間は何よりも大事な時間です」



◇◇ ◇



「ありがとうございました」


午後。予定通り、ルートンを連れて街へとやってきたセレーネ。

目的の薬草を購入し、とても満足していた。

ルーンナイト領ではあまり見かけない薬草が多く、素材が揃わずにできなかった実験も行えると思うと楽しみで仕方なかく、セレーネは笑みをこぼしていた。


「セレーネ様は、あまり貴族らしくありませんね」

「そうかしら?」

「はい。先ほどの薬草店にあった、干からびたヤモリや蛇、蜘蛛なんかも普通に触っていましたし」

「魔法の実験で、虫や爬虫類なんかもモルモットで使ってるから、普通の令嬢よりは生き物には耐性があるの」

「そうなんですね」

「ルートンはそう言うの苦手?」

「お恥ずかしながら。虫は昔からダメで。魔物は平気なんですが……」

「サイズかな?」

「生理的に無理です」


人には得意不得意があるから気にするなと、ルートンの肩を叩くセレーネ。

一応用事だった薬草の買い物は済んだ。しかし、このまま帰るのももったいないと思い、もう少し街の中を歩き回ることにした。


「んー、面白いなこの魔法」

「何かいいものがありましたか?」

「うん。興味深いものが。そういえば、ルートンは魔法は使えるの?」

「いえ。自分は魔法の才能はなく。公爵家の騎士になれたのは、剣の腕が良かったからなので」

「そうなの。それも立派な才能ね。んー、じゃあルートンに魔法を付与した剣をプレゼントしてあげる」


セレーネの提案にルートンはそんな高価なものは受け取れないと断る。

平民からすれば、魔法が付与されたいわゆる「魔剣」はとても高価なもの。そんなものを簡単には受け取ることができなかった。


「気にしないで。ルートンは私たちの騎士になったんだから。何より、ユリウス様を怖がらず受け入れてくれたのはとても嬉しいの。だから、受け取ってもらえないかしら」


セレーネの誠実な言葉に、ルートンは胸を撃たれ。人目も憚らずにその場に跪き、セレーネの好意を受け取った。

すぐには準備できないがなるべく早く渡してあげると約束をし、また歩き出そうとした。だけど……。


「っ!」


視界の端、子供がボールを追いかけて道に出て、馬車の前に飛び出す様子が目に入った。

このままだと子供が馬車に轢かれてしまう。馬車も馬が興奮して大暴れして大変なことになってしまう。

セレーネはすぐに手をかざし、魔法を発動させる。


「テレポート!」


まずは子供を道の反対側に移動させる。

そのまま休むことなく、暴れる馬を大人しくさせるために……。


「フライ」


馬車を少し浮かせて、馬の興奮が落ち着くのを待つ。

ものの数分すると、馬はおとなしくなり、そのまま地面に降ろしてフライの発動を解いた。

間一髪、子供に怪我はなく、馬車も大事にならずに済んだ。


「あれ、あの馬車……」

「何事だ」


セレーネがよく馬車の紋章を見た瞬間、馬車の扉が開いて男性が姿を現した。

眩いほどに輝く金色の髪。森をギュッと固めたような緑色の瞳。


「アルヴィス、殿下……?」


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