18話
馬車を走らせて数分。
急ではあったが、店の者が席を用意してくれ、夫妻はそこで食事をした。
肉とワインはハーストン領土の名産品。事前に美味しい店についてはセレーネに聞いており、この店がその店だ。
「あなたの仕業なのでしょう」
「なんのことだ」
「エトワール公爵一家が、末娘の婚約パーティーに参加しなかったの」
「まぁ、確かに私は奴に手紙を送った。参加するなと。だが、私がそんなことを言って素直に聞く男じゃない。来なかったのは奴の意思だろう」
パーティーが開催する数日前に、リュシュリシュは三大公爵家の一つであるエトワール家の現当主であるニルヴァルド・エトワールに手紙を送った。
内容は、末娘の婚約パーティーに参加するなという手紙だ。もちろん、その理由を彼は手紙に綴った。
返信はなかったため、もしかしたらいるかもしれないとおもったが、いないということはリュシュリシュの指示に従った。または、元から行く気が無かったかのどちらかだろう。
「それにしても、妖精姫とは。ずいぶんピッタリな名だな」
「あら、貴方がそんなことをいうなんて。さすがの貴方も愛らしいとおもったのかしら」
「いや、確かに愛らしいとは思うが、私には彼女は人を騙す意味で妖精姫にぴったりだとおもっのだ」
会場を出る前に見せた表情は、愛らしい彼女とは正反対の表情だった。あれが本来の彼女の表情なのだろう。
あの表情を見ると、今までのセレーネに対する黒い噂が全て彼女によって仕組まれたものだと思った。何より決定打は、やはりハーヴィスト男爵がいたことだ。
セレーネの予想通り、ユリウスという婚約者がいながら別の男と婚約させようと、しかも自分の父親よりも上の男とだ。リュシュリシュの怒りはさらに増していった。
「アニエス」
「はい」
「今後パーティーやお茶会では、メルフィー・エトワールに気をつけろ。特に、彼女とセレーネを絶対に合わせてはいけない」
「えぇわかっています。セレーネはもう、私たちの大事な娘なのですから」
◇◇ ◇
「その話は本当なのか」
彼の耳にその事実が入ってきたのは翌日のことだった。
男は、彼に昨晩ハーストン侯爵家で行われた婚約パーティーについて話をしていた。
一通り話の内容を聞いたが、彼が一番興味を示したのは、遅れて足を運んだリュシュリシュのことだった。
「本当に彼は杖をつかずに歩いていたんだな?」
「間違いありません。他の部下の魔法で音を確認しましたが、間違い無く生身の足だったそうです」
「そうか……」
彼は窓の外、大きく淡く光る月を眺める。
その姿は誰かを思っているようにひどく儚げだった。
「……アルヴィスを呼べ」
「かしこまりました」
ばたりと部屋の扉が閉まったあと、彼女は手に持っていた箱の中からアメジストが埋められたブレスレットを手にする。
「ラベンダー……」




