16話
それから数日後。
セレーネとルキウス。数名の使用人が、綺麗に着飾ったソルネチア夫妻を見送っていた。
今日はセレーネの元婚約者であるセドリックがメルフィーとの婚約を発表するパーティー。招待状はセレーネに送られたが、公爵夫妻が彼女の代わりにそのパーティーに参加される。
「すみません、奥様、公爵様」
「気にしなくていいのよ。セレーネはいつも通り過ごしなさい」
「ルキウス。留守の間の業務は任せたぞ」
「はい、父上」
2人はそのまま準備された馬車の中に入り、パーティー会場であるハーストン侯爵家へと向かった。
セレーネは少し不安げな表情で遠くなる馬車を見つめる。
自分の代わりに参加するパーティー。2人が嫌な思いをしなければいいのだけれど、と。
「そう心配しないでください、セレーネ嬢。2人なら大丈夫です」
「しかし……」
「それに、父上が参加されたのは足を見せることもあるのでしょう」
「足?」
「父上が足を無くし、義足をつけても杖をつかないと歩けないことは、世間では有名なことです。そんな父上が普通に歩いているとなれば、どう思うでしょうか」
当然不思議がる。
公爵家の当主の怪我は、どんな些細なことでも漏れてしまえばあっという間に世間に広がる。特にリュシュリシュは現国王の剣だった男。そんな男が失脚したとなれば、悲しむ人間もいれば喜ぶ人間がいる。そんな、喜ぶ側の人間への見せしめということだ。
「父上も母上も公爵家の当主と夫人です。どんな相手でも屈することはないですよ。特に自分の息子よりも下の人間相手には」
ニコッと笑顔を浮かべるルキウスの表情を見て、セレーネも確かにとそう思った。
「さぁ、屋敷に戻りましょう。それに、あまりセレーネ嬢をそばに置くと、兄上に嫉妬されてしまいます」
「ふふっ。その姿はとても見たいですね。想像しただけで可愛らしい」
「兄上にそんなことが言えるのは、セレーネ嬢ぐらいですね」
◇◇ ◇
今宵ハーストン侯爵家で行われる婚約パーティーは、侯爵家という家柄を考えればかなり派手で、公爵家という家柄を考えれば少し小規模なパーティーだった。
招待された貴族のほとんどは、セドリックとメルフィーの学生時代の同級生。同世代がいない他貴族は、彼女たちの親世代が足を運んでいた。
同世代の子達は心から2人の婚約を祝っているが親世代はあまり心からお祝いをしていなかった。
「みなさん、今日は我々の婚約パーティーに参加してくださり、ありがとうございます。是非とも今日はパーティーを楽しんでください」
学生時代の友人たちはすぐに今日の主役たちに駆け寄りお祝いの言葉を述べた。
大人世代は主役たちへの挨拶はそこそこに、すぐにハーストン公爵の元に行って挨拶をする。
お互いに笑顔を浮かべているものの、客側は棘のある言い方をし、侯爵はそれを冷や汗をかきながら耳を傾けていた。
「セドリック・ハーストン様、メルフィー・エトワール様」
友人たちと話をしている時、2人に声をかけてきたのはある男だった。
丸く太り歪んだ顔をしたその男に、周りにいた令嬢も令息も怪訝そうな顔をしていた。
しかし、そんな彼らに反し、主役2人は笑みを浮かべた。
「これはこれはハーヴィスト男爵。招待に応じてくれてありがとう」
「いえいえ。お二人とも此度はご婚約おめでとうございます。まぁなんと、お二人がお並びになるとまるで絵画のようですね。とてもお美しい」
「ありがとうございます」
「それで……その……例の件ですが……」
「あぁ……ごめんねさい、まだ相手の子が来てないの。きっと恥ずかしがっているのよ」
「あぁそうでしたか。いやはや申し訳ない。私もあまりに気持ちが昂ってしまって」
「安心してください。私がちゃんと、2人の仲を取り持ちますので」
「それはとても光栄なことです」
くすくすと笑い合う2人に対し、周りにいた友人たちはあの妖精姫がこんなにも醜い男と話していることに、驚きを抱いていた。
それに、ハーヴィスト男爵という名前を聞いて、令嬢の1人が「あの」と口にした。
ハーヴィスト男爵はいわば成り上がりの貴族。
お金を払って貴族になった男だった。
元平民ではあるが、彼は貴族の誰もが知っている商会の商人でお金はたくさん持っており、そのお金で貴族の地位を手に入れた。
元々彼には妻と子供がいたが、妻は何者かに殺され、息子も病で亡くなり現在は独り身の男。
そんな男が、なぜこんなにも華々しいところにいるのか。商会の商品でも売り込みに来たのか、それとも公爵令嬢であるメルフィーに媚を売りに来たのかと、友人たちは警戒していた。
「随分と人に囲まれていますな。挨拶は、後にしたほうがいいかな」
その時、会場がざわめき何事かと主役2人が顔を上げる。
しかし、視線の先に立つ男女の姿を見て驚いた表情を浮かべる。
「ごきげんよう、メルフィー嬢。姿を見るのはいつぶりだろうか」
「……ソルネチア公爵……」




