15話
「それじゃあ、いきますよ」
その日の夜。昼間、セレーネが言っていた特別な魔法をユリウスに見せようとしていた。
カーテンで外が見えないように閉じて、その特別な魔法を彼から隠す。
「3、2、1!」
カーテンと窓が魔法の力によって一気に開かれる。
ユリウスは首を伸ばして外の光景を目にした。
「うわぁ」
明るく降り注ぐ月光。だけど、それと同じぐらい、花壇に咲いたアネモネがその花弁と同じ色に淡く光っていた。
光魔法を応用した魔法で、魔法をかけられた物体は月光を浴びることで淡く光ることができる。
「空が曇っていても、前日とか数時間前に月光を浴びていれば、光は継続されます」
「すごく綺麗だ」
「喜んでもらえて嬉しいです。こういうちょっとしたことでも、ユリ様が喜んでくださるのであれば、魔法をたくさん学んだ甲斐がありました」
ずっと好きで色々な魔法を調べ、実験したり、魔法を作ってきたけど、誰かの喜ぶ顔が見たいからと魔法を使用するのはセレーネにとっては久々だった。
幼い頃、兄たちや父親に褒められたくて、喜んで欲しくて色々な魔法に挑戦していた。いつしか、自身の欲望のままに魔法を学び始めていたが、今この瞬間、その時のことを思い出して胸がとても暖かくなった。
大好きな家族と同じぐらい、ユリウスという存在はセレーネにとって特別だった。だからこそ、そんな特別な相手に隠し事をすることは、セレーネにとってとても心苦しいことだった。
「ユリ様。私は一つ、あなたに隠していることがあります」
「レーネ?」
「私にとってユリ様は特別な方です。生涯、貴方のお側にいたいと思っています。なので、貴方に、家族しか知らない秘密をお教えします」
ゆっくりと窓辺に立ち、ゆっくりと瞼を閉じる。
部屋中に魔力がゆっくりと巡ってき、ゆっくりと彼女の髪色が赤く変わっていく。
そして、ゆっくりと目を開ければ、そこには美しい宝石が二つ埋まっていた。
「まさか……そんな……レーネ、君のその眼は……」
顔を上げ、笑みを浮かべる彼女は、今まで見た彼女とは見た目が違っていた。
炎のように真っ赤な髪に、宝石をそのまま埋め込んだような赤と青緑の輝く瞳。
「宝石眼……しかも、君のそれは……アレキサンドライト……」
宝石眼。
魔力が高い者に現れる、魔力が凝縮された瞳。魔力の輝きが宝石のよう見えることから、《宝石眼》と呼ばれている。
元々宝石眼は王族に発現することが多く、王族の証と言われていた。
しかし、年々その魔力が低下していき、王族以外にも発現者現れることから、王族の証とは認められなくなっていった。
宝石眼を持つ人間は貴重な存在で、その魔力量から宝石眼持ちの数が国の軍事力の高さを表していた。しかし、その貴重故に人身売買が行われることも多々あり、目だけでもかなりの高値がつくが、所持した人間であればそれ以上の値がつけられると言われている。
そして、そんな宝石眼の中でも希少とされているのが【アレキサンドライトの眼】。
単色ではなく、昼と夜とで変わる二色の色を持つその瞳の所有者は、双子の女神《ノクス》の祝福を受けており、神殿から神聖視されており、見つけ次第神殿が聖女として保護するようになっている。
「普段は魔法で隠しているんです。ご存知の通り、この目は人の欲望を刺激してしまいますし、他の地域では《悪魔》とも言われますしね」
宝石眼を持つ者が悪魔と呼ばれる理由は、その高すぎる魔力が原因だった。
高い魔力は母体に大きな影響を与え、眼を持つ子供が生まれてすぐに母親はその命をなくすことが多い。運良く生き延びても、1ヶ月以内には亡くなってしまうため、目の持ち主は悪魔だったり、一部では《母親殺し》とも呼ばれて忌み嫌われている。
「髪色が変わるのも魔力の影響です。これも、魔法で隠しているんです」
「このこと、僕以外に知っている人は?」
「家族だけです。元婚約者にも話していません。彼は元々私のことが嫌いでしたから、もし私が宝石眼の持ち主だと知れば、売るなりなんなりするでしょう」
「なるほど……宝石眼持ちとわかれば、レーネの魔法の才能には納得がいく。でも、いいのかい?僕に話して」
「さっきも言いましたが、生涯、貴方のお側にいたいと思っています。なので、隠し事はしたくないのです」
「僕が、それを誰かに話すとは?」
「ユリ様はそんなことしません」
セレーネはじっと、その美しく輝く宝石の瞳でユリウスのことを見つめる。
彼女の瞳ほどではないが、同じように、宝石のように美しいユリウスの瞳がセレーネを見つめる。
「レーネ」
「はい」
「教えてくれてありがとう。万が一誰かにその目のことがバレて、君が危害を加えられそうになったら、その時は全力で僕が君を守るよ」
「……ありがとうございます、ユリ様」
「今日はもう遅い。このまま一緒に寝よう」
「ふふっ、最近大胆になってきましたね」
「っ!からかっているのかい!?」
「違います。嬉しいんですよ」
すでに定位置になった、ユリウスの体の中心。そこに体を埋めて、セレーネはゆっくりと眼を閉じた。




