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12話

買い物を終え、ルートンと共にルキウスとの待ち合わせ場所にやってきた。

しかし、わずかに人だかりができており、その中心には少し大きめの馬車が停まっている。


「離してください」

「えー、どうして。私と貴方の中じゃない。せっかくだしお茶にしましょう」


人混みをかき分けて中心の様子を見ると、嫌がるルキウスの腕に絡みつく1人の女性の姿があった。

薄い緑の髪をサイドツインに結い上げた、深い緑色の瞳をした女性。


「あれは……ルーア様ですね」

「知ってる人?」

「クレッセン侯爵家の一人娘です。昔はよく、ソルネチア家に出入りされてました」


クレッセン侯爵家については、あまり詳しいことは知らなかった。

ルートンの話によれば、彼女の父親であるクレッセン侯爵とリュシュリシュが学生時代に友人関係にあったため、子供たちも交流があったらしい。

当時はずっとユリウスの後を追いかけて、ユリウスの側を離れなかった。

しかし彼女はひどく傲慢な性格で、公爵家では好き勝手にしていたらしい。しかも、自分は次期公爵夫人だとも風潮していたらしい。


「今は出入りしてないの?」

「旦那様が出禁にされたんです。彼女、ユリウス様の姿を見て化け物と口にされて」


なるほどとセレーネは納得した。

当時は当然、公爵家は長男であるユリウスが後を継ぐことになっていた。しかし、呪いにより白蛇の姿になったことで後継者はルキウス。

つまり彼女は今、次期当主であるルキウスにとり入ろうとしているということだ。


「出禁になってるのになんでここにいるのでしょうか」

「おそらく、出禁になったのはあくまで屋敷の出入りだから、ではないでしょうか」

「なるほど。普通屋敷の出入りを禁止されたら、嫌われてると思うはずだろうに」


セレーネは深いため息をついた後、特に気にする様子もなく真っ直ぐに2人の元に足を運ぶ。


「お待たせして申し訳ありません、ルキウス様」

「っ!セレーネ嬢。買い物は終わりましたか?」

「はい。ルートンを護衛につけてくださり、ありがとうございます。それで……そちらの方はルキウス様のお知り合いでしょうか」


セレーネは視線をルーアに向ける。

彼女はひどく不機嫌な顔をセレーネに向けるが、セレーネは全く動じることなく、淑女としての笑みを一切崩さなかった。


「……こちらはルーア・クラッセン侯爵令嬢。親同士が学生時代に友人同士だったことから、交流がありまして……」

「初めまして、クラッセン侯爵令嬢。私は……」

「あら、貴女もしかしてセレーネ様ではなくて」


セレーネの挨拶を遮るように、どこか嘲笑うようにセレーネの名前を口にした。

下げた頭をゆっくりとあげていき、セレーネはにっこりと笑みを浮かべて彼女を見る。


「私のことを存じ上げてくださり、ありがとうございます」

「新聞で読みましたわ。ユリの婚約者になったとか。てっきりもう食べられてしまったのかと思っていましたわ」


その言葉に、ルキウスを始めソルネチア家の騎士たちが怒りをあらわにし、今にでも罵声を上げようとしていた。

だけど、セレーネはゆっくりと首を振り、ルーアに変わらず笑みを浮かべる。


「まぁでも、欠陥令嬢であり、家名に泥を塗った貴女にはお似合いの末路かもしれませんわね」

「欠陥令嬢はいいとして、家名に泥を塗ったというのは?」

「あら、貴女ハーストン侯爵家の令息に婚約破棄されたのでしょう?まぁ相手がメルフィー様なら仕方がないわね。ルーンナイト伯爵家は、元ご当主である貴女のお父様はもちろん、ご兄弟も優秀なのでしょう?なのに、娘は悪い噂が絶えない問題児。生贄にされるのも仕方がないわね」


ゆっくりとルキウスから腕を離し、ルーアはセレーネに近づき、見下すように彼女はセレーネを嘲笑う。


「もしかして、死にたくないからルキに媚を売ってるの?本当に未栄のない子ね。下品で嫌になるわ。残念だけど、ルキに色仕掛けしても無駄よ。貴女みたいな子が公爵令嬢になれるはずがないもの」

「……言いたいことはそれだけでしょうか」


気分よく大笑いをする彼女に対し、絶やすことのない笑顔で、そして変わらない声音でセレーネはそう言った。

怒りも泣きも、悔しそうな表情ひとつしないセレーネに対し、ルーアは眉間に皺を寄せた。


「言いたいことを言ったのであればお引き取りください。ルーア様は出入り禁止されているのでしょう?」

「っ!あ、あくまでも屋敷が出入り禁止になっただけで、領土に来るのは私の自由じゃない!」

「では、自分から父上にルーア嬢の領土への出入り禁止をお伝えします」

「なっ!どうしてルキ!もしかして、この欠陥品に絆されたの!?」

「……絆されてなどいません。そもそも自分は貴女のことが嫌いなのです。幼い頃は我が物顔で屋敷に出入りする上に、使用人を道具のように扱う。しかも、兄上を化け物呼ばわりした。そんな人物に対して、どうやったら好感が持てますか!」

「それは……そんなの、この子もそうでしょ!生きてるってことはまだユリに会っていないのでしょう?形だけの婚約なのでしょう!?」


領土を出禁にされたくないのか、彼女は必死に縋り付く。だけど、口から出るものは全てセレーネを貶す言葉ばかり。

そして、自分もそうだからとセレーネもユリウスを怖がるだろうという決めつけ。


「セレーネ様は怖がらず、兄上を美しいと言われました」

「美しい……あれを美しいですって!ありえないわ!」

「……そう思っている時点で、貴女とセレーネ様とでは比べる価値もない」

「……話は終わったでしょうか。ではお引き取りいただきましょうか」


ルーアと彼女が乗ってきた馬車の下に魔法陣が展開される。

何が何だかわからずあたふたするが、セレーネの顔を見て、これが彼女の仕業だとすぐにわかった。


「欠陥品が!何様のつもりよ!」

「私はセレーネ・ルーンナイト。ユリウス様の婚約者です」

「そんなことを聞いてるんじゃないわよ!このっ!」

「これで最後かもしれませんが、またどこかでお会いできるといいですね」


セレーネが指を鳴らした瞬間、そこにいたはずのルーアと馬車の姿が消えた。

唖然とする民衆とルキウスと護衛騎士。セレーネは一呼吸をして、彼のそばまでいく。


「今のは……転移魔法ですか?」

「えぇ。とはいえ、行ったことがない場所に飛ばすことができないので、領土の外に移動させましたが」

「それでは、また彼女たちは戻ってくるのでは!?」

「問題ありません。その対策で、彼女には呪いのようなものを与えてますので」

「呪い、ですか?」

「術者の許可なく、ソルネチア家の領地に踏み入ることを禁ずる。というものです。なので、彼女は私の許可がないとここにくることはできません。今頃領土の外で喚いてることでしょう」


唖然とする周りに対して、特に気にした様子もなく笑みを浮かべるセレーネ。

彼女が魔法の才能に関しては、ルキウス自身も一度目の当たりにしていた。どうやっても治ることのないといわれていたリュシュリシュの足を元に戻し、そして難易度の高い転移魔法を当たり前のように発動させ、同時に呪い近い魔法を発動させた。


(やはり、噂は当てにならないな)


いつの間にか、見ていた領民たちに囲まれてしまっている彼女を見ながら、ルキウスはクスリと笑った。


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