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11話

別邸に花を植えるため、街に行くルキウスについていくことになったセレーネ。

公爵家に来てからは、ずっと屋敷の中にいたせいでじっくりと街並みを見ることはなかった。

公爵家の領地ということもあり、街並みはかなり発展している。


「うちの領土は、いろいろな種類の職人がいるんです。鍛治師や装飾品、服飾など。どれも職人のこだわりがあって、他の領土や、それこそ他国からも手に入れたいという方が多くいらっしゃるんです」

「そうなんですね」

「我が家に納められてる武器も、領土内にいる職人に発注もしているんです」


ルキウスは、領土について細かく丁寧にセレーネに話してくれた。

その振る舞いは、この街を愛し、守りたいという気持ちが現れていた。


「ここのシフォンケーキはおすすめです。よく、兄上と僕でここのシフォンケーキワンホールを半分にして食べていたんですよ」

「まぁユリウス様が」

「えぇ。とても懐かしいです」

「……ルキウス様は、ユリウス様が大好きなんですね」

「もちろんです。自分にとって兄上は、尊敬すべき人です。もし、呪いがなければ、兄上はきっと立派な当主になれていたでしょう」

「……ルキウス様。もし、ユリウス様が元の姿に戻られたら、どうされますか?」

「え?」

「当主の座を、ユリウス様にお渡しされますか」

「もちろん!本来は兄上が後を継ぐべきで!」

「ユリウス様がそれを望まれていないとしても?」


ユリウスと一緒にいる時間の中で、セレーネは以前、ユリウスにルキウスがどういう人物かを尋ねたことがあった。

真面目で責任感と正義感のある人物。努力家で、できないこともすぐに諦めずに必死に自分の体に叩き込む人物だと。だけど、自分を卑下するところがあり、いつも自分とユリウスをルキウス自身が比較し、自分は兄よりも劣っているダメな人間だと思っていると。

だからいつか、自分の呪いが解けた時に、必ずユリウスに当主の座を譲るだろうと。


「ルキウス様はとても優秀な方だと私は思います」

「そんな……自分は兄上に比べたら全然」

「誰かと比べる必要はありません。ルキウス様は、ルキウス様なのです。そしてユリウス様はユリウス様。同じ人間ではないのですから、違っていて当たり前。そもそも前提が違うのですよ」

「……セレーネ様は、公爵夫人になりたいと思うわないのですか?」

「私は、ユリウス様と一緒にいられるのであれば、公爵だろうと伯爵だろうと男爵だろうと、それこそ平民だろうと構いません。地位や名誉は、肩書きであってその人ではないのですから」


そう言い終えると、セレーネは「帰りに買って帰りましょう」と言って、先を歩き出す。そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、ルキウスもその後を追った。



◇◇ ◇



しばらくして、ルキウスに花の種の買えるお店の前まで案内してもらった。

選ぶのに時間がかかるからと、護衛を1人つけてもらって、セレーネはルキウスと別れた。


「ごめんなさい。突然ついてきた私の護衛をさせてしまって」

「問題ありません。セレーネ様はユリウス様の婚約者様。つまり、公爵家の人間なのですから、我々がお守りするのは当然です」

「ありがとう。改めて、セレーネ・ルーンナイトです」

「ソルネチア家の騎士、ルートン・ホスピタルです」

「よろしくね、ルートン。それじゃあ中に入りましょうか」


扉をゆっくりと開けば、扉につけられた鈴の音が店内に響き渡り、客がやってきたことを伝える。

店内は、窓から差し込む光が注ぐだけで少しだけ薄暗かった。

並べられている商品は、すでに美しく咲く誇っている花やドライフラワーになってるもの。苗や種などが売られている。


「いらっしゃいませ。おや、領主様のところの騎士かい?」

「どうも」

「庭の花用なら、うちじゃなくて庭師のところにいきなされ」

「いや、確かに庭の花だが、そういうのじゃないんだ」


対応していたルートンはセレーネの方を向く。

セレーネは店主である老婆の方に近づき、ゆっくりと挨拶をした。


「初めまして。セレーネ・ルーンナイトともうします」

「ユリウス様のご婚約者様だ」

「まぁ、貴女様が……新聞を読んだよ。ひどいことを書く奴もいるもんだ」

「……店主様は、新聞の内容を信じておられないのですか?」

「長年生きてると、噂よりも自分で見たものを信じるようにしているんだよ。ユリウス様は時折、ルキウス様と一緒に街に来られていてね。そんな方が呪いにかかって人を食うなんて信じられやしないよ」


みんながみんな、あの新聞の内容を信じていないとは思っていたが、いざ目の前にこうやって信じていない人がいると、セレーネは少しだけ嬉しい気持ちになった。


「それで、お嬢様は何をかわれに来られたのですかな」

「アネモネの花を庭に植えようと思いまして。種か苗はありますか?」

「アネモネですか。でしたらこちらですな」


杖をつきながら、ゆっくりと老婆は商品の前にセレーネを案内してくれた。

種が入った木箱には、なんの花の種なのかがしっかりと書かれている。

アネモネは色の種類が複数あるため、名前の後ろに色も書かれていた。ただ……


「青は、ないのですか?」

「あぁ、青色は今売り切れていてね。早くても入荷するのは1ヶ月先になるかな」

「そうですか……」

「青い花がいいのでしたら、他の花もありますが」

「あぁ。一番欲しかったのが青色なんです。ユリウス様が好きな花で」


それを聞いたルートンはすぐにセレーネに謝罪をした。

当然彼が事情を知っているはずがないため、セレーネはすぐに頭を上げるように言った。

それでも、セレーネはやっぱり青いアネモネを別邸に植えたいと思い、1ヶ月先にはなるが、入荷を待つことにした。


「……他の店にはもしかしたらあるかもしれない。騎士さん、案内してやってあげな」

「ここ以外にも、種を売ってるお店があるんですか?」

「多くはないのですが、何店舗か。自分が案内いたします!」

「ありがとうございます。では、青以外の種をいただいてもいいでしょうか」

「まいど」


その後、ルートンに案内されて、領土内にある数店舗の園芸店へと足を運んだ。

どこも青いアネモネの種だけが売られていなかったが、最後のお店でなんとか青色を手に入れることができた。


「よかったですね、青色の種が見つかって」

「はい。付き合わせてしまってすみません」

「問題ありません。体力には自信があるので」

「さすが騎士様ですね」

「そろそろルキウス様との合流場所に行きましょうか。他に行きたいところがあれば案内しますが」

「大丈夫です。それでは、ルキウス様のところにいきましょうか」

「はい!」


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