第70話 抜群の相性
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ちらし寿司を完成させ、ドーナさんとルカが待つテーブル席へと運び込んだ。
「はいっ、おまたせしました。シュベールサーモンのちらし寿司です。」
「な、なんかこれでもかってぐらいシュベールサーモンの卵がかかってるねぇ。めちゃくちゃ贅沢な料理な気がするよ。」
「さしずめ、ご主人様からメイドとなった私へのご褒美か。」
目を輝かせながら、ちらし寿司を見つめている2人。俺達もちらし寿司が置かれたテーブルを囲んで座ると、マイネさんが何を飲むのか質問してきた。
「さてさて~みんな何か飲む~?今日はタダにしとくよぉ~。」
「あっ、マイネさん。せっかくならちょっと飲んでみてほしいお酒があるんですけど、一緒にどうですか?」
「ありゃ、そこまでしてもらってもいいの~?」
「はいっ、もちろんです。」
俺が何のお酒を用意しようとしているのか察したミカミさんは、一つ要望を伝えてきた。
「柊君、私は超辛口のやつで頼むよ。」
「わかりましたミカミさん。」
「な、なにか辛い酒でも用意しようとしてるのかい?」
少し困惑したようにドーナさんが聞いてくる。
「あ、別に辛いわけじゃなくて、なんていうか後味がキリッとしててすっきりしているものを辛口っていうんです。」
「そういうことかい。なんか舌がひりひりするような辛いのが出てくるのかと思ったよ。」
「あはは、大丈夫です。安心してください。えっと、初めてだと思うので、ドーナさん達は甘めのお酒にしておきますか?」
「いんや、アタシはどっちかって言うとその辛口のほうが良いねぇ。甘いのはなんか飯と一緒に食うのには合わないんだよ。」
「おばさんも辛口が良いなぁ~。」
ドーナさんとマイネさんはすぐに辛口のお酒と決めたが、ルカはまだ迷っているようだった。
「ルカはどうする?」
「ご、ご主人様のおすすめはどっちなんですか?」
「う~ん、じゃあ逆に質問だけど、昨日食べたあのピキュールっていうアルコールの入った果物を食べてどう思った?」
「すごく美味しくて、いくらでも食べられそうだった。」
「ん、それなら甘口を飲んだほうがいいと思う。」
「じゃあそっちで……。」
「わかった。」
大人たちの飲み物が決定したところで、俺はシアに何が飲みたいか問いかけた。
「シアは何が飲みたい?」
「えっと、ひ、ヒイラギお兄ちゃん達と同じのは……ダメ?」
「俺達が飲むのはお酒だからな。お酒は大人になるまで飲んじゃダメなんだ。シアが大人になったら一緒に飲もうな?」
「そうにゃんだ……。」
少し残念そうにシアは耳と尻尾をぺたんとさせてしまう。ちょっと可哀そうだけど、お酒を子供が飲んだら急性アルコール中毒になる可能性が高いから、これだけは許可できない。
「あ、そうだ。じゃあちょっと面白い飲み物を用意してあげるな。」
落ち込んだシアを撫でながら魔法瓶を手にして、ある飲み物を思い浮かべる、すると瓶の中がパチパチと気泡がはじける黒い液体で満たされた。
「これをコップに注いで……ほい、ちょっと飲んでみて?最初は少しびっくりするかもしれないけど。甘くて美味しいから。」
「うんわかった、いただきます。」
味見をするようにシアはその液体を少し口にすると、すぐに驚いたような表情を浮かべた。
「どうかな?」
「このお水……お口の中でパチパチするっ!!それにすっごく甘~い♪シア、これ好き~。」
「そっかそっか、良かったよ。」
ぽんぽんとシアの頭を撫でてから、今度は大人たちの飲み物を魔法瓶で取り出していく。
「まずは辛口の日本酒から。」
瓶の中のコーラがすぐに無くなり、今度は透明度のかなり高い、まるで水のような液体で瓶の中が満たされた。
「はい、マイネさん、ドーナさんどうぞ。」
小さめのコップにそれを注いで2人に手渡すと、すぐに2人はその香りを嗅いでいた。そしてマイネさんがあることに気が付く。
「んん?この香り……さっきあのご飯が炊きあがった瞬間の香りに似てる?」
「あ、そうなんですよ。このお酒の原料は同じなんです。」
「ほぇ~、こんな透明度の高いお酒はなかなか見ないなぁ~。まだまだ世の中にはおばさんの知らないものがたくさんあるねぇ~。」
そして次にルカに甘口の日本酒をコップに注いで手渡し、最後は俺とミカミさんの分となった。
「ミカミさんはこのお猪口でいいですね?」
「うん、大丈夫だよ。」
ミカミさん用のお猪口に超辛口の日本酒を注ぎ、最後に自分のコップに同じものを注いだ。
「それじゃあ、柊君。乾杯の音頭を頼むよ。」
「えっ、俺がやるんですか?」
チラリと他の人の顔を見て見ると、みんなはもう自分のコップを持って乾杯の音頭を待っている状態だった。
「わ、わかりました。えっと、それじゃあ、皆さんお疲れさまでした……乾杯っ!!」
「「「かんぱ~いっ!!」」」
みんなで軽くコップを合わせて、少し日本酒を飲んでから一斉にちらし寿司を食べ始めた。幸いなことに日本酒はみんなの口にとても合ったらしく、マイネさん達はべた褒めしながら飲んでいた。
肝心のシュベールサーモンの卵の醤油漬けをふんだんに使ったちらし寿司の味は、もう絶品という言葉以外見つからない程美味しかった。シュベールサーモンのいくらは普通のいくらよりも少し弾力があり、噛むとプチっと音を立ててはじけて、濃厚で甘く、旨味の強い味が口いっぱいに広がるのだ。
「ふへぇ~、シュベールサーモンの卵の食べ方はいろいろあったけど、この食べ方が一番美味しいねぇ~。」
「ねっ!?こうやってご飯と一緒に食べるのがやっぱり一番美味しいんだよ!!」
「この酒との相性も抜群だよ。マジで無限に食べれるかもねぇ。」
「…………!!………………!!!!」
談笑を楽しみながら美味しそうにちらし寿司と日本酒を嗜んでいるミカミさん達の傍らで、無言で何度も頷きながら必死に口の中にちらし寿司を頬張るルカ。
みんなの姿を眺めていると、俺の隣に座っていたシアがくいっと服の裾を引いてきた。
「ん?シア、どうした?」
「えへへ、すっごく美味しいからヒイラギお兄ちゃんにありがとうって言いたかったの!!」
その言葉を聞けただけで料理人冥利に尽きるというものだ。子供の美味しいって感想は本当に信用できる言葉だからな。
「そっかそっか、良かったよ。たくさん食べるんだぞ?ほら、おかわりを取ってあげよう。」
空っぽになっていたシアのお皿に、たくさんちらし寿司を盛ってあげると、また美味しそうにほおばり始めた。
そしてみんなで最後の最後までシュベールサーモンを味わいつくし、夕食を終えたのだった。
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