第63話 幻のシュベールサーモン
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食らいついた魚と格闘すること、約5分……ようやく魚も疲れてきたらしく、最初に比べて抵抗が弱くなってきた。
「あっ、あっ!!どんどん引っ張れる!!」
「よし、このまま一気に引き上げるぞ。」
シアと呼吸を合わせて一気に釣り竿を引くと、大きな水しぶきを上げて、巨大なシュベールサーモンが俺とシアのいるところに飛び込んできた。
「わ……わっ!?ふにゃあっ!?」
勢いそのままに、巨大なシュベールサーモンはシアの胸の中に収まった。
「すごいおっき〜い……。」
抱き枕のように、大きなシュベールサーモンを抱きしめながら、シアはキラキラと目を輝かせている。
俺も釣り上げたシュベールサーモンをよくよく観察してみると……。
「ん?んん!?こ、この顔はもしかして……。」
今まで釣り上げたシュベールサーモンとは、明らかに顔の形が違う。オスのように厳つい顔ではなく、少し丸みを帯びたこの顔……間違い無い、マイネさんが見せてくれたアレと全く同じだ!!
ほぼ確信を抱きながらシュベールサーモンを見つめていると、こちらにミカミさん達も駆け寄ってきた。
「ややっ!?めちゃくちゃおっきいシュベールサーモンが釣れたね!!」
「ミカミさんっ、顔も見てみてください!!」
「顔?」
ミカミさんはシアが抱きかかえている、大きなシュベールサーモンの顔を覗き込むと、今まで釣りあげたものとは明らかに顔の形が違うことに気が付いた。
「なんかちょっと優しそうな顔してる?」
「そうなんです、このシュベールサーモンは多分……。」
間違いないとは思うが、念のため俺は鑑定を使った。
~鑑定結果~
名称 シュベールサーモン(♀)
備考
・シュベールの湖にのみ生息する固有種。
・甲殻類を主食としているため、身の色は橙色で旨味が強い。
・生食可
「ミカミさん、鑑定の結果……このシュベールサーモンはメスで間違いないです!!」
「やったじゃ~ん!!諦めないでやるもんだね~♪」
「じゃあ早速活きが良いうちに、処理しちゃいますね。」
まな板の上にシュベールサーモンのメスを置いて、脳天締めをした後にエラを切り、血抜きをしていく。
「血が抜けきったら、鱗を取って卵を傷つけないようにお腹を開く……。」
逆包丁で慎重にパンパンに張っていたお腹に切れ込みを入れた瞬間、金色に輝く筋子が溢れるように飛び出してきた。
「すご~い!!金色のいくらだぁ~。」
「これは、やっぱり醤油漬けにします?」
「そうだねっ、ぜひともそうしてほしいな!!これを熱々のご飯の上にたっぷりかけて…………はっ!?そ、そうだった、お米がないんだ。」
途端にミカミさんはがっくりと肩を落としてしまう。
「そ、そんなに肩を落とさなくても……いくらを美味しく食べる方法は、何もご飯の上にかけるだけじゃないですよ?」
「う~……いくらとホカホカご飯以上に相性のいいものなんて存在するわけないよぉ~。」
「まぁまぁ、それは食べてみないとわかんないですから。」
落ち込むミカミさんを何とか宥めながら、この金色の筋子の処理を進めていく。
「鍋でお湯を沸かして、温度を60℃ぐらいに調節する。」
筋子の薄膜や汚れを取る際に最適な温度が約60℃。これ以上温度が高いと卵に火が入って真っ白になってしまう。
「んっ、ちょっと熱い、もう少し水を足してもいいな。…………うん、このぐらいでいい。」
ボウルが無いから、深底の鍋に少しお湯をすくって入れて、その中にシュベールサーモンの筋子を浸けて、ほぐしながら薄膜や血管を取り除く。この工程を何回か繰り返していると……。
「あっ、よく見るいくらっぽくなった!!」
「あとはしっかりと水気を切って、ここに薄塩を振ってかき混ぜておきます。」
「はえ?お醤油に漬けるんじゃないの?」
「こうやって軽く塩を振って混ぜておくと、発色が良くなるんですよ。」
「ほぇ~、あ……確かにお湯に入れたときちょっと濁った色だったけど、今はピッカピカになってきたね。」
「塩が馴染んでるうちに、肝心の漬け地を作っていきましょう。」
鍋に醤油と日本酒、味醂……それとさっきシアに食べさせた三枚下ろしにしたときに残った骨を、カリッと香ばしく焼いたものを入れる。
「あとはアルコールを煮切りながら、シュベールサーモンの骨から出汁を抽出していきます。」
「ふぉぉ……良い匂いだぁねぇ~。お腹減ってきちゃったな~。ねぇ、ドーナちゃんとルカちゃんはお腹減ってない?」
「正直、結構腹が減ってきてるところだよ。」
「右に同じく。」
「シアちゃんは~?」
そうミカミさんが問いかけると、シアは少し視線を泳がせながらも言葉を何とか絞り出した。
「お、お腹空いた。」
「う~ん、そうだよね~。じゃあ柊君にお願いしよ?美味しいお料理作ってくださいって。」
するとシアは、とことこと小走りでこちらに近づいてきて、じっとこちらの顔を見上げながら、さっきミカミさんが言ったことを復唱する。
「ヒイラギお兄ちゃん、お、美味しいお料理……作ってくださいっ!!」
「はいよっ、それじゃあ腕によりをかけて作るから、ちょっとだけ時間頂戴な?」
「うんっ!!」
「良かったね~シアちゃん。」
嬉しそうにしているシアの頭を、ミカミさんがここぞとばかりにわしゃわしゃと撫でまわしていた。
その後、漬け地をしっかりと冷ましてから、シュベールサーモンのいくらを漬け、俺は昼食の用意に取り掛かったのだった。
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