第61話 保護者ヒイラギ
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ポッコリとお腹の膨らんだシアは、俺の太ももに頭を乗せてスヤスヤと寝息を立て始めてしまった。
多分……凄く体力的にも精神的にも疲れていたんだと思う。
「……こうしてよくよく見てみると、服もボロボロだし、体も所々擦りむいちゃったりしてるな。」
とりあえず、怪我とか治してあげようか。
「昨日ミカミさんに使ったアレを思い出して……。」
擦り傷が元通り治るイメージを強く頭の中で想像すると、シアの体の至る所にあった擦り傷がどんどん元通りに綺麗に治っていく。
「これでよし。」
さて、これからどうしよう……。ひとまずこの子の事をミカミさんたちに相談しに行ったほうが良いな。
「起こさないように……。」
シアの身体を優しく抱き上げ、俺は来た道を引き返してミカミさん達のいる所へと戻っていく。
林を抜けて、湖が見えてくるとミカミさん達の姿を目視することができた。
「あ!!柊君が帰ってきたよ。」
こちらの姿を確認すると、ピュンとミカミさんがすかさず飛んでくる。
「この子、さっきシュベールサーモンを盗ろうとしてた子だね?」
「はい、いろいろ事情を聞いたら……ちょっと可哀想で。」
「ふむ、私にも聞かせてくれるかな?」
「もちろんです。」
俺はミカミさん達に、この子から聞いた事情について説明すると、それを聞いたドーナさんが獣人の国について話してくれた。
「獣人の国の次期国王争いは、先月ぐらいにこっちにも情報が入ってきてたねぇ。」
「ドーナさん、その……国王争いでみんな戦い合ってるみたいことをこの子が言ってたんですけど。」
「アタシも詳しいことは知らないけど、獣人達の国王ってのが、種族内で最も強い奴がなれるらしい。だから、多分……自分の強さを示すために同種族と争ってるんじゃないかい?」
その話を聞いたミカミさんが、ポツリとこんなことを呟いた。
「まるで戦国時代だね。絶対的な権力と力を得るために同じ種族同士で争うってさ。」
「あぁ〜……確かにそうかもですね。」
ミカミさんの的確な例えに思わず相槌を打っていると、ドーナさんが首を傾げている。
「その……戦国時代ってなんだい?」
「同種族同士で争ってる事の例えさ。」
「ふぅん、なるほどねぇ。」
ドーナさんが納得していると、ミカミさんがシアのことをチラリと見ながら、俺に向かって問いかけてきた。
「柊君はこの子をどうしたい?」
「どうしたい……って言われても。」
答えに迷っていると、ミカミさんはドーナさんにも質問を投げかけた。
「ちなみにだけどさドーナちゃん。不法にこの国に入ってきちゃった他の種族って、基本的にはどうなるの?」
「ん〜、まぁこっちの国に身元引受人とかがいないなら、普通は送還されるね。」
「……だってさ柊君?」
ミカミさんが他の選択肢を切り落としてくれたことで、俺の意思は固まった。
「このまま獣人の国にこの子を戻してしまったら、流石に危ないのでしばらくは俺が預かります。……まぁ、この子が受け入れてくれればですけど。」
「きっと受け入れてくれるよ〜。なによりそれがこの子のためになるし〜。」
そう言いながらミカミさんは、シアのピコピコ動く猫耳のところまで飛んでいくと、優しく両手でモミモミと揉み始めた。
「ふへへ……猫ちゃん特有のこの触り心地が、私の癒しにもなるっ!!まさにWin-Winな関係っ!!断る道理がないね!!」
ふんすふんすとミカミさんが鼻息を荒くしていると、耳元に鼻息がかかってくすぐったかったのか、シアがゆっくりと目を覚ました。
「んにゃ……ふみゃっ!?」
シアは目を覚ますなり、俺の後ろに隠れて、ミカミさんやドーナさん達に怯えた視線を向けている。
「あぁ、驚かないで。私はミカミ、柊君のパートナー……あいや、ナビゲーター?まま、柊君の仲間だよ。」
「ヒイラギお兄ちゃんの……仲間?」
そう不安そうな声色で、俺のことを見上げながら問いかけてきたシアの頭を撫でながら、一つ大きく頷いた。
「そう、みんな俺の仲間だよ。……自己紹介はできる?」
「し、シア……です。」
「シアちゃんって言うんだね。私のことはミカミお姉ちゃんって呼んでいいよ?」
そう言いながらミカミさんは、距離をぐんぐん詰めていくけど、シアのことを触りたい衝動が抑えきれていないらしく、手をワキワキとさせている。
それが怖かったのか、シアは警戒して尻尾の毛が逆立っていた。
「ありゃりゃ……まだ柊君にしか心を許してない感じだ。」
「大丈夫だよシア。ミカミさんは……ちょっとおふざけが過ぎることがあるけど、いい人だから。」
「…………。」
そう言っても、まだシアの警戒心は解けない。俺に抱きつく強さが少しずつ強くなってるし……。
まぁでも、これから一緒に過ごす時間が多くなるだろうし、きっとそのうちミカミさんにも心を許すはず。
「ところでシア、もし……キミが良かったらなんだけど、こっちの人間の国にいる間、俺達と一緒に過ごさないかな?」
「ヒイラギお兄ちゃんと一緒にいていいの?」
「あぁシアがそうしたいなら……俺達は受け入れるよ。」
「毎日美味しいご飯も食べれるよ〜。」
「お、美味しいご飯……。」
さっきお腹いっぱい食べたばかりなのに、そのワードを聞いた途端、シアは今にもよだれを垂らしそうになっている。
「し、シア……またヒイラギお兄ちゃんのご飯食べたい。」
「うん、じゃあ決まりだね。これからよろしく、シア。」
かくして、俺は獣人の少女のシアを保護することになったのだった。
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