第59話 湖での出会い
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「あっ!!柊君っ、何かかかったみたいだよ。」
ミカミさんが指さした先にある俺が用意した釣り竿がぐぐっと曲がり、今にも湖に引き込まれそうになっていた。
「あっ…とっとぉッ!!」
飛びつくように釣り竿を掴んでこちら側に引っ張ると、湖から一匹の魚が勢いよく飛び出してきて、岸に打ちあがった。
「ん?これは……。」
「シュベールサーモンじゃん!!」
俺が釣り上げることができたのは見紛う事なき、シュベールサーモンだった。
「でもこれは残念ながらオスですね。」
「オスかぁ~、マイネちゃんもオスはよく釣れるって言ってたよね。オスは今回狙いじゃないんだよなぁ~。」
残念そうな表情で、ツンツンとミカミさんはシュベールサーモンをつついていると、まだ活きが良いから危うく食べられそうになっていた。
「でも、シュベールサーモンの身の美味しさを求めるんだったら、たぶんオスの方が美味しいと思いますよ?」
「なんで~?」
「メスって卵に自分の栄養をほとんど持っていかれちゃうので、意外と脂がのってなかったり、身が柔らかかったりするんです。」
「ほぇ~、言われてみると確かに理屈には適ってるね。」
「ですから、オスはオスで身の美味しさを味わいましょう。」
オスのシュベールサーモンも締めて、血抜きをしている間に俺はもう一度餌を付けた糸を湖に垂らした。
「さ、次だ。」
オスのシュベールサーモンはどうやって食べようか。シンプルな塩焼きもいいけど、ムニエルとかフライとか、そういうのも良いなぁ。
あっ、あの魔法瓶があるから、ちゃんちゃん焼きもできる。甘じょっぱい味噌をたっぷり絡めて食べると美味いんだよなぁ……。
どんな料理でこのシュベールサーモンを味わおうかと、想像を膨らませながら、血抜きをしているシュベールサーモンに目を向けたときだった。
「にゃっ!?」
「えっ……。」
俺が釣ったシュベールサーモンを両手で抱えた、黒猫のような耳と尻尾が生えた少女とバッチリ目が合ってしまったのだ。
「だ、誰?」
「ご、ごご、ごめんにゃさーい!!」
「あ、ちょっ……待って!!」
俺に見つかるやいなや、うるうると泣きそうになってしまった少女は、手にしていたシュベールサーモンを空に放り投げて、一目散に逃げていってしまった。
「何やら訳ありな感じの女の子だったね柊君。」
「でしたね……。食べたかったんでしょうか。」
あの子はとてもお腹が空いていて、盗もうとしていたのかな?そう考えると、少し……いやかなり心配になってきた。
このままじゃ、俺達から盗むのを失敗したから、他の人の物を盗みに行ってしまうかもしれない。
「ミカミさん、俺……ちょっとあの子のこと追いかけてみます。釣り竿を見ててもらっても良いですか?」
「うん、この私にまっかせなさ〜い。」
「すみません、ありがとうございます。」
さっきのシュベールサーモンをバッグにしまって、俺は少女が逃げて行った方向に走り出した。
林の中に入って、少女がどこにいるのか草の根をかき分けながら探していると、ある方向からぐぅぅ……とお腹が鳴る音が聞こえてくる。
「こっち?」
藪をかき分けながら音のした方へと進んでみると、そこには木の枝と葉っぱを雑に組み合わせただけの、小さな家(?)があった。
その家の中に、さっきの少女がお腹を押さえて座り込んでいた。
「……お腹すいた。」
そうポツリと、か細い声で呟いた少女のところに、俺はゆっくりと歩み寄る。
「こんにちは。」
「ひにゃぁっ!?」
怖がらせないように……と気をつけながら声をかけたつもりだったけど、俺が突然訪ねてきたことに少女は全身の毛を逆立てて驚いていた。
「ご、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど……。」
「に、人間さん……し、シアを捕まえに来たの?」
ぷるぷると体を小刻みに震わせながらそう問いかけてきた、シアという少女。俺はその質問に対してゆっくりと首を横に振った。
「違うよ。お腹が空いてるみたいだったから、一緒にご飯食べない?……って誘いに来たんだ。」
「…………ど、どうして?」
「どうしてって……困ってる子供を助けるのに理由なんて無いよ。」
そう言って、ポンポンと優しく頭を撫でてあげると、少女の目からぶわっとダムが決壊したように涙が溢れ出す。
「うぅぅ……ご、ごめんなざい。」
「何も謝ることなんて無いから。大丈夫だから。」
そう宥めながら頭を撫でていると、少女はぎゅっと抱きついてくる。
そのまましばらく時間を過ごしていると、ようやく落ち着いた少女は俺から離れた。
「落ち着いた?」
「うん……。ありがとう人間さん。……あの、人間さんのおにゃま……お名前は?」
「俺はヒイラギ。キミは?」
「シア。」
「シア……ね。わかった。それじゃあシア、今からこれを使ってご飯作るから、少し待っててくれるかな?」
マジックバッグからシュベールサーモンを取り出して、シアに見せてあげると、シアは目をキラキラと輝かせながら釘付けになってしまっていた。
さてさて、じゃあとびっきり美味しい料理でお腹をいっぱいにしてあげようか。
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