第55話 柊vsキマイラ
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キマイラがけたたましい咆哮をあげたと同時に、尻尾の大蛇が俺に向かって紫色の煙を吐いてきた。
「柊君、キミは大丈夫だと思うけど、私はアレを吸ったら死んでしまうからね。」
そう言ってミカミさんはパッと口を押さえた。見た目からしてなんとなく想像はついていたけど、この紫色の煙は毒ガスのようだ。
「分かりました。」
その煙が届く前に大きくバックステップすると、ミカミさんはその煙を指差して言った。
「向こうだと毒ガスって燃えるものが多いけど、こっちの世界でも通じると思う?」
「やってみますか。」
火の玉を前に放つイメージを思い浮かべると、すぐに魔法陣が目の前に現れた。直後そこから握り拳ほどの大きさの火球が放たれて、煙に一直線に向かっていく。
そして炎の熱が届いた瞬間……爆竹のように連続した爆発が起こり、毒を吐いていた大蛇は体内に残っていた毒に引火して、内側から爆ぜた。
「さてさて、次はどんな攻撃をしてくるのかな?」
「できれば攻撃してきてほしくはないんですけど……。」
そんな俺の願いは虚しく砕かれ、尻尾を失ったキマイラは怒りとも、悲しみとも解釈できるような叫びをあげながら、2つの頭から火を吐いてくる。
「くっ!!」
こちらに迫る炎から走って逃げるが、キマイラも逃がすまいと必死に俺のことを追いかけてくる。
「あのキマイラの炎は無尽蔵っぽいね。逃げてるだけじゃどうしようもなさそうだよ柊君。」
「じゃあどうすれば?」
「前にグレーウルフと戦った時を覚えているかい?あの時と同じさ、キミが恐怖に打ち勝って、前に進もうとすれば体が応えてくれるよ。」
正直グレーウルフなんて比にならないぐらい、このキマイラは怖いけど……怖がってたら何も始まらない。
「じゃあ……行きますッ!!」
足に力を込めて、思い切り前に向かって跳んで炎からの距離をとったあと、俺は直角に曲がってキマイラに向かって一直線に走る。
俺を追って横から炎がどんどん迫ってきて、熱さを強く感じ始めた時……俺の体は勝手に動き、手にしていたレヴァを全力でキマイラに向かって投げていた。
投げられたレヴァはキマイラに近づくにつれて形を変え、最後には槍のような形に変化して、キマイラの黒山羊の頭を穿く。
すると、キマイラが怯んだことで、炎がピタリと止んだ。
「うはぁ〜……アレは強烈〜。さすがにキマイラも炎を吐くのを止めたね。さぁ、柊君チャンスだよ。」
「わかってます。」
そのままキマイラへと向かって、一気に距離を詰めると、突き刺さっていたレヴァがまた形を変えて、ズルリと抜け落ちてくる。
それを反射的に手にし、そのまま日本刀のような形になっているレヴァでキマイラの事を斬りつけた。
しかし、レヴァが当たる直前……キマイラは凄まじいサイドステップを見せ、俺の攻撃を避けてしまう。
「っ!?避けられ……。」
「いや、完全には避けきれなかったね。」
先程までキマイラがいたところには、片方の前足が取り残されていた。何かを斬ったって感覚が無かったから……てっきり完全に避けられてしまったと思っていたけど、前足には当たっていたらしい。
「このまま一気に……!!」
ワイバーンを倒した時のようにレヴァを振るうと、大きな斬撃がキマイラへと向かって飛んでいく。前足を失って、避ける機動力も無いだろうと思っていたその時だった……。
突然キマイラの無くなった前足と、爆発して粉々になった蛇の尻尾が、ズルリ気味の悪い音を立てて新しく生えてきたのだ。
「なっ……!?」
「ありゃ、そういうこともできるんだ。」
キマイラは新しく体を生やしたかと思えば、飛ばした斬撃を軽々と避けてしまう。そしてこちらを睨みつけてくる2つの頭……。さっき黒山羊の頭をレヴァが貫いたはずなのに、その傷まで癒えてしまっている。
「ミカミさん、アレは。」
「とんでもない再生能力……恐らくは柊君の超再生と同等ぐらいのものかな。いやはや、面倒な敵だね。」
「ど、どうすれば……。」
「う〜ん……あのイリスちゃんの事だからさ、あんなデタラメな再生能力を持っている敵でも、柊君なら倒せる……って確信してダンジョンの守護者にしてると思うんだよ。」
「想像魔法でなんとかする……みたいな感じですか?」
「いや、恐らくはもっと単純。」
ミカミさんはチラリと、俺が手にしているレヴァに視線を落とした。
「鍵となるのは、多分そのイリスちゃんからの贈り物のレヴァだと思うんだよね。」
「これが……。」
「イリスちゃんがわざわざあんな面倒な魔物を用意したのは、そのレヴァを柊君に使いこなしてほしいからだと思うよ。じゃないと、ダンジョンに入ってすぐにそんなものを用意しないと思うんだ。」
「…………分かりました。いろいろやってみます。」
ミカミさんの言っていることは一理あると思う。俺もイリスさんが、わざわざダンジョンを難しくするためだけにあんな魔物を用意するとも思えない。
イリスさんの真意は定かではないけど、少しでも意思を汲み取っていると信じて、レヴァでコイツを何とかしてみよう。
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