第4話 夢か現か
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翌朝、俺は昨日の一連の嵐のような出来事が夢ではなかったと、病院のベッドの上で思い知らされることになった。
「病院だ……。」
いつものように体を起こすと、ズキンと鳩尾の辺りに鋭い痛みが走る。
「ぐっ、そ、そうだった。俺は肋骨を骨折してて……。」
四苦八苦しながら体を起こすと、朝の8時ぴったりに昨日の医者が、複数の看護師を連れて病室の扉をノックして入ってきた。
「おはようございます柊さん。お体はいかがですか?」
「ちょっと起きたときに鳩尾の辺りが痛いぐらいです。」
「わかりました。他に気になる点はございませんか?」
「大丈夫です。」
そんな問答をしている間に、看護師の人達が体温などを細かく測って記録したものを医者に見せていた。それを見た医者は大きく頷くと俺を見た。
「体調に問題はなさそうですので、これから手術に移りましょう。」
「わかりました。」
そしてあれよあれよという間に、初めて手術室という場所に連れ込まれてしまった。酸素マスクを着けると、医者がこちらを見下ろしながらゆっくりと呼吸するように優しく語りかけてくる。
「麻酔入れていきますね。私の言葉が聞こえるうちは、返事をしてください。いいですね柊さん?」
「はい。」
その質問の直後、急に意識が朦朧とし始めた。
「……ぎ……ん?」
「は……い。」
そしてもう麻酔で強制的に体が眠ろうとしていた時、最後に医者たちが慌てる声がなぜかハッキリと聞こえてきた。
「だ、誰だ君はっ!!警備は何して……ぐあっ!!」
麻酔で強制的に閉じようとする目に映った最後の光景……それは医者たちを押しのけ、俺の体に跨り出刃包丁を振り下ろしてくる千葉料理長の姿だった。
(あぁ、これは今度こそきっと夢だ。こんなことが現実なわけが無い。)
包丁が胸に深く沈みこむと同時に、繋ぎ止められていた俺の意識がブツンとハサミで切られたように、真っ暗な闇の中に沈んだ。
◇
深い闇の中で、体がゆらゆらと漂うような不思議な感覚に襲われていると、突然眩くて暖かい光が闇を搔き消していき、目の前に突然女性の顔が現れた。
「あっ、お目覚めですね。」
「なっ……だ、誰!?お、俺は………っ!?」
咄嗟に動こうとするが、まるで金縛りにあったように体が動かない。現状に困惑していると、彼女は優しく微笑みながら語り掛けてくる。
「あぁ、まだ動いてはいけません。まだ魂が不安定なんですから。」
「た、魂?何言って……ぐぅっ!?」
突然ズキンと俺の頭に鋭い痛みが走り、暗闇に飲まれる前に見た光景が鮮明にフラッシュバックした。
「俺は料理長に……こ、殺され……た?」
「思い出しましたね。自分の最期を……。」
「最期……?あ、あれは麻酔をかけられたときに見た夢なんじゃ……。い、今だってそう。きっと俺はまだ麻酔で眠って……眠って……あれ?」
「そう、眠って目覚めたらここにいた。これが今のあなたの現状です。」
俺を宥めるように頭を撫でながら、彼女は優しく今が現実であることを伝えてくる。
もう昨日から、わけのわからないことの連続だ……とっくに頭で整理できる領域を超えてる。訳が分からな過ぎて、もう今が現実でも夢でもいい……そんな気分だ。
「落ち着いて、一つずつ理解していきましょう。」
そう優しく語りかけながら、彼女は俺の前に不思議な映像の映る画面をどこからか持ってきた。その画面には手術室が映っていて、中央の手術台には俺とそっくりな男が横たわっていた。
「これは……俺のいた手術室?ってことはこの横たわっているのは俺?」
「はい。これはあなたが手術室という場所に運び込まれた、最初の時の映像です。これを再生していくと……。」
彼女の手が画面に触れると、映像が流れ始める。医者が俺に向かって何かを言っているが、あれは多分……麻酔を入れられる前の会話だ。
その直後、突然手術室の扉が開き、血濡れた出刃包丁を手に料理長が入ってくる。そして医者と看護師を切りつけながら俺の上に跨って………。
「……わかった。もう十分理解しました。」
「ありがとうございます。私としても死んでしまった人に、ご自身の最期を何度もお見せするのは良い気分じゃないので……。」
一時の間を開けて、少し冷静さを取り戻したところで彼女に一つ質問をしてみた。
「俺が死んだっていうのは理解しました。……じゃあここは一体どこで、あなたは誰なんです?」
「私の名前はイリス。生と死、そして転生を司る女神です。そして、この場所は魂が一時的に流れ着く場所……。あなた達の世界で言うところの、三途の川を渡りきる途中といえば理解できますか?」
「なんとなく。」
「なんとなくで構いません。では説明を続けますね。肉体を離れた魂は、本来ここで清められて浄化されていきます。」
「俺もその途中ってことですか?」
「あなたの場合は少し違います。あなたの魂は、もともと私に預けられていた。」
「またわかんなくなってきた……。」
「あなたの住んでいた世界には、八百万の神々がいますね。実は私……そのうちの一人とお友達なんです。」
「い、いや理解するどころか、更にこんがらがってきたんですけど。」
未ださっぱり状況を呑み込めずにいると、イリスさんは俺が最近深く関わりを持った、とある人物の名前を口にした。
「ミカミ……この名をご存知ですね?」
「水上……さんのことですか?」
「そう、あなたの知っているその女性で間違いありません。彼女は……。」
説明の途中で、彼女はおもむろに天を見上げるとクスリと笑った。
「ふふ、ここから先の説明は彼女に任せた方が良いですね。」
すると遥か天高くから勢いよく何かが下りてきて、俺の前に降り立った。
「やぁやぁ柊君、昨日ぶりだね。」
「み、水上さん!?」
見間違えるはずなんてない。俺の目の前に降り立ってきたのは水上さんだ。ツインテールだし、身長も小さくて……。
「そうだよ、でもキミの知ってる私は、人間としての仮の姿の水上彪……。でもでもここにいるのは~、なんとなんと八百万の神々の中で、も~っとも尊いアマテラスオオミカミさんだぞっ♪」
可愛らしくパッチンとウインクしてペロッと舌を出しながら、水上さんは意味の分からないことを言い始めたのだ。
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