第33話 新たな宿で
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朝市での買い物もほどほどに、俺とミカミさんは大通りに面している大きな宿屋にやってきていた。今朝あの安宿はチェックアウトしてきたから、新しい宿を探す必要があったんだ。
そしてこの宿屋で借りられる部屋にはキッチンがついているらしく、宿屋の食事サービスを利用しなくても自分で自炊して食費を節約できる。
今日から寝泊まりをすることになる部屋の鍵を開けて、中に入ってみると……。
「おぉ、流石に広い……。」
「あの安宿とは比べ物にならないね。ほら、ベッドもめちゃくちゃフカフカだよ!!」
ぴょーんとベッドに飛び込んでいたミカミさんの体が、ぼふっと深くベッドに沈み込んだ。昨日まで寝泊まりしてた宿は、ベッドに飛び込もうものなら体を打ちそうだったが、ここではそんな心配はなさそうだ。
「さて、じゃあ軽く朝ご飯でも作りますか。」
「おっ、いいねいいね~。朝一の出店で買い食いを我慢した甲斐がある。で、何を作るんだい?」
「朝一で買った野菜をオーク肉で巻いて、ブラチョーレ風にでもしようかなって。」
「ブラチョーレ?」
「イタリアの肉料理で、野菜とかチーズとかいろいろな具材を薄切りの肉で巻いて、トマトソースで煮込んだ料理です。」
「ほぇ~、美味しそうじゃん。」
「すぐできるので、早速仕込んでいきますね。」
まずやるのは野菜を切る作業からだ。今回使うのはオニオスとマトマ、さっき朝一で買ってきたこの巨大なニンニクのような野菜……ガリク。最後にほうれん草のような葉っぱが、キャベツのように何重にも重なって丸くなっているイポパという野菜だ。
「まずはオニオスを薄くスライスして、イポパを1枚1枚剝がして洗っておく。そしたらマトマを湯剥きして……ガリクはナイフで潰してみじん切り。」
野菜を一通り切り終えたら、まな板の上に塩胡椒で味をつけた薄切りのオーク肉を並べて、その上に切った野菜を並べていく。
「あとはくるくると丸めて……。」
「あ、それは私でも手伝えそうだね。手伝ってもいいかい?」
「じゃあお願いします。」
「むっふっふ、このミカミさんに任せておきなさい。」
ミカミさんに肉で野菜を巻くのは任せて、俺は肉を煮込むソースに着手しよう。
「フライパンにオーリオオイルと刻んだガリクを入れて炒める。」
まずは弱火でじっくりと炒めて、ガリクの香りを引き出す。少しガリクが茶色くなってきたら、ここに湯剝きしたマトマを入れて、潰しながらさらに炒めていく。すると、マトマの水分が出てきて水を入れなくてもトロリとしたソースが出来上がる。
後はこれも塩と胡椒で味を整えておく。
「柊君、こっちはできたよ。」
「ありがとうございますミカミさん。」
ミカミさんにやってもらったオーク肉の肉巻きを、軽く焼いてからマトマのソースの中へと入れてじっくりと煮込んでいく。
「この間に目玉焼きを……。」
朝市で売られていた高級卵……黒越鳥という鳥の卵を取り出して、それで目玉焼きを作る。
ちなみにこの卵……1個大銀貨1枚の値段がついている。めちゃくちゃ高級な卵だ。
「1個1000円の卵を目玉焼きになんて……贅沢だねぇ。」
「ホントは卵かけご飯とかにしたかったんですけど……米も売ってませんでしたし、何より生で食べても大丈夫なのかが心配で……。」
異世界にサルモネラとか、そういう食中毒を引き起こす菌がいるのかはわからない。だが、わからないからこそ警戒はするべきだ。
「確かに……日本に売ってる卵なら、安心して卵かけご飯にできるんだけどね。」
「ですね。」
目玉焼きとブラチョーレが完成する間に、これまた朝市で購入した、真っ白なバターロールのようなパンをトースターのような機械で焼いておく。
「ん、そろそろ良いかな。」
中まで火の入ったブラチョーレをお皿に盛り付けて、その上に黒越鳥の目玉焼きを乗せる。
「おぉ〜、美味しそうだ。」
ミカミさんでも食べやすいように、ミカミさんの分は小さめに切り分けてから盛り付けた。
「さてと……じゃあ冷めない内に食べましょっか。」
「そうだね、私もお腹がペコペコだよ。」
俺とミカミさんは揃って手を合わせた。
「「いただきます。」」
そして慣れ親しんだ食前の挨拶をしてから、食べ始める。
「やっぱり最初はブラ……ブラ……何だったっけ?」
「ブラチョーレですね。」
「そう、ブラチョーレから食べてみようかな。」
「分かりました。」
フォークで小さめに切り分けたブラチョーレを刺して、たっぷりとマトマのソースを絡めてから、ミカミさんの口元に近づけた。
「熱いですから気をつけてくださいね。」
「大丈夫、ふ〜ふ〜してから食べるから。」
念入りに冷ました後、ミカミさんは大口でブラチョーレにかぶりついた。
「はぐっ……んむんむ、うん!!美味しいね。」
「ならよかったです。」
俺も目玉焼きを割って、それと一緒にオーク肉のブラチョーレを食べてみた。
「うん、オーク肉が柔くて美味しいですね。黒越鳥の目玉焼きも黄身が凄く濃厚で、甘みがあって最高です。」
「次は私も目玉焼きが食べたいよ柊君っ!!」
そうして俺とミカミさんは、オーク肉と黒越鳥の卵の美味しさに舌鼓を打ちながら、朝食を楽しんだのだった。
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