第297話 刺激の強すぎたヒイラギの料理
予定が立て込んでしまい投稿が遅れました。すみません。
ボンレスサーディンのサンドイッチを食べて、ぱったりと仰向けに倒れ込んでしまったアリアさんに駆け寄ると、彼女はすっかり意識をなくしていながらももぐもぐと口だけはサンドイッチを飲み込もうと動いていた。
そんな一部始終を眺めていたランさんが、大きなため息を吐きながらアリアさんへの言葉をかけた。
「はぁ〜……だから言ったのに。今の今まで野生で生きてきたワタシ達にとって、ヒイラギの料理っていうものは刺激が強すぎるのよ。」
やれやれと呆れた表情を浮かべながら、ランさんはペシペシとアリアさんの額を叩く。
「アリア〜?ちょっと、大丈夫〜?」
ランさんがアリアさんの額を叩くが、一向に反応はない。アリアさんの目はパッチリと開かれているが、瞳はグルグルと渦を巻いている。
「あぁ〜……ダメねこれ。完全に意識を失っちゃってるわ。ワタシはここまで深刻じゃなかったけど、アリアは今まで魚とかを主食にしていた分、衝撃が大きかったのかもしれないわね。」
「ランさん、アリアさんはウォータードラゴンっていってましたよね?」
「そうよ、この子はウォータードラゴン。普段から水の中で生きて、魚とかそういうのを食べてる子なのよ。」
「そうなんですね……。」
「まぁ、今までず〜っと生魚ばっかり食べてたわけで……その魚がこ〜んなに美味しい料理に変わって、脳が理解を超えておかしくなっちゃったのもわからなくはないわ。」
ランさんはボンレスサーディンのサンドイッチを食べて、アリアさんのことを見下ろしながら言った。
「ヒイラギの料理って、ホント野生で生きていけなくなるぐらい美味しいのよね。」
「そ、そんなにですか?」
「そんなによっ!!だって、アナタの料理を食べるまで、生のオークに齧り付いて血の味を美味しいって思ってたのよ!?」
「ま、まぁ……それが野生の普通なんですけど。」
「それを言われると何も言えないのだけれど。」
少しバツの悪そうな顔をしながら、ランさんはチラリと倒れているアリアさんへと目を向ける。
「まぁ、一言言えるのは、アナタの料理はワタシ達野生で長い事生きてきた者たちにとってすご〜く、刺激が強いって事よ。普段通りの生活ができなくなるほどにね。」
そうランさんが言っていると、アリアさんのグルグルと回っていた目の焦点が合って、バッと起き上がった。
「あ、あれ?アリアは今までなにを……。」
「アンタはねぇ、ワタシの警告を無視してヒイラギの料理を食べたのよ。」
そう言いながら、ランさんはパクッとボンレスサーディンのサンドイッチを食べた。すると、すべてを思い出したように、アリアさんが俺の方に詰め寄ってきた。
「お、思い出しましたよぉ〜っ!!すっごく美味しかったんですぅ〜!!」
アリアさんは俺の両手をギュッと握ってきて、目をキラキラと輝かせながらそう言ってくれた。
「今まで食べていた魚というものの概念が、まるっと変わっちゃいましたよぉ!!あんなに美味しいものは初めて食べましたぁ!!」
「そ、それは良かったです。」
すごい勢いでそう言ってくれたアリアさんは、残っていた他のサンドイッチに目を向けると、指を咥えながら問いかけてくる。
「あ、あのぉ〜、お魚をもっともっとたくさん捕まえたら、料理をたくさん作ってくれますかぁ?」
「えっ、ま、まぁ……作れますけど。」
「それじゃあちょっと行ってきますぅ〜!!」
「あっ!!ちょっとまって〜!!」
今にも海に飛び込もうとしていたアリアさんに、ミカミさんが必死に待ったをかけた。
「なんですかぁ?」
「このボンレスサーディンを捕まえてくるならさ、ついでにこの魚を追いかけてる魚も、一緒につかまえてきてくれないかな?」
「わっかりましたぁ〜!!行ってきますぅ〜!!」
こちらにビシッと敬礼したアリアさんは、元のドラゴンの姿に戻ると、海の中へと飛び込んでいった。
それを見送っていると、ランさんがサンドイッチを食べながら俺の肩に腕を置いて、彼女のことについて教えてくれた。
「あのウォータードラゴン……アリアは、あんまり人間に危害は加えないけど、生態系にはとんでもない被害を与える子なのよ。」
「へ?生態系にってどういう意味ですか?」
「それそのままの意味よ。彼女は通称大喰らいって呼ばれてるぐらいとんでもない食欲の持ち主なの。前に美味しい〜ってワタシに教えてくれた魚なんて、ひと月で絶滅したわ。」
「えっ!?そ、そんな絶滅なんて……。」
「どんな胃袋と食欲してるのあの子……。」
「ランさんとグレイスの2人も相当食べる方だな〜って常々思ってましたけど、アリアさんは別次元ってわけですね。」
「ま、そういう事。あの子、さっきのヒイラギの料理を食べて、相当この魚のことを気に入ったみたいだから……下手すると、この辺一帯にいる同じ魚をぜ〜んぶ持ってくるかもしれないわよ?」
「あはは、ま、まさかそ、そんなことは……。」
チラリとランさんの目を見てみると、その目は真剣そのものだ。で、できればそんなことはないと信じたいな。
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