第290話 マーレの市場
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水族館をひとしきり楽しんだあと、俺達はマーレの市場へと足を運んでいた。海街ということもあり、今朝獲れたばかりの新鮮な魚がズラリと並んでいる。
「お魚さんいっぱ〜い!!」
今にもよだれを垂らしそうになりながら、店頭に並んでいる魚に釘付けになっているシアに、魚屋の店主の女性が声をかけた。
「おっ、獣人のお嬢ちゃん。魚は好きかい?」
「大好き〜っ!!」
「そうかいそうかい、魚を食べると頭が良くなるって言うからね。たっくさん食べるといいよ。ってなわけで、お兄さん方……どんな魚をご所望だい?」
「あははっ、どうしようかな……。」
シアという子供の趣向を聞き取ったうえで、こちらに何を買うのかと問いかけてくる……この人はなかなか商売上手だなぁ。
そう感心しながら、俺はチラリと店頭に並んでいる魚に目を向けた。当然ながらどの魚も新鮮なため、キラキラと輝いて見えるが、その中でも最も俺の目を引いたのは……。
「このカニのハサミがついた魚は……。」
店頭に並べられた魚の中で、一際異色を放っていたこの魚。外見はブリに似ているけど、俺の知ってるブリと大きく違うところが1点。胸鰭が巨大なカニのようなハサミに変わってしまっていたのだ。
「あぁ、コイツはシザーシュって魚さ。ここいらの海域じゃないと獲れない魚なんだ。」
「ちなみに味って?」
「身は生で食っても、焼いて食っても最高……で、ハサミのところは、甘〜い蟹の身がぎっちりと詰まってる。」
「な・る・ほ・ど…………。」
流石は異世界……魚とカニのハイブリッドの生き物が存在しているのか。これ1匹で魚とカニの両方の味を楽しめる。うん、とても面白いし、興味が湧いた。
「じゃあこれを……あるだけください。」
我が家には大食感が約2名ほどいるからな。グレイスは馬車を引いてお腹がぺっこぺこになるだろうから、普段よりも食べるかもしれないし……。
「はいよぉっ!!毎度ありがとさんっ!!」
お店の人がシザーシュという魚を袋に詰めてくれている間、俺の胸ポケットに入っていたミカミさんがポツリと言った。
「面白い魚もいるんだね〜。魚とカニのハイブリッド……1匹で2匹分の美味しさを味わえるなんて贅沢な気分になれそうだね。これは今晩の夕食に使うのかい?」
「そうですね。お昼ご飯は馬車の中で食べれるように、サンドイッチとかおにぎりとか、たくさん作ってきちゃいましたし……。」
お昼時にどこかの町にいなかった場合のことを考えて、サンドイッチとおにぎりをたくさん作ってマジックバッグの中に入れておいた。今もまだお昼時には少し早いし、このシザーシュという魚は夕食に使うことになるだろう。
ちなみに今日の目標は、マーレの北にあるセカンデルという町に着くこと。そしてセカンデルでキッチン付きの宿を探し、今買ったシザーシュを美味しい夕食に仕上げる。
「はいよっ、シザーシュ全部で6匹。値段は大銀貨6枚だよっ。」
「大銀貨6枚ですね。えっと……これでお願いします。」
「はいよっ、大銀貨6枚ちょうどね。ありがとさんっ!!お嬢ちゃんたちに美味しく食べさせてやっておくれよ?」
「もちろんです。ありがとうございました。」
そして一度そのお店を後にして、また市場を巡り歩いていると、シアがぐいぐいと服の袖を引いて質問を投げかけてきた。
「ねぇねぇお兄ちゃん!!さっきのお魚さんはどんなお料理にするの!?」
「そうだな……話によると、生で食べても火を通しても美味しいらしいから……せっかくなら両方の食べ方で食べ比べてみたい。となれば……。」
頭の中で今まで培ってきた料理のレシピを引っ張り出して、献立を構築していく。生で食べるのは、お刺身……もしくはサッとだけ火を通すしゃぶしゃぶかな。
完全に火を通すとすれば……アクアパッツァか、もしくは素材の味を楽しむためにシンプルに塩焼きも悪くない。でもシザーシュのハサミのところの味まで全部味わうなら、アクアパッツァの方が良いか。
そうなると、今晩の献立は……お刺身っていう和とアクアパッツァという洋の混ざった夕食になりそうかな。
「うん、決めた。今日の夕ご飯は、シザーシュのお刺身と、アクアパッツァにしよう。」
「シアお刺身大好きっ!!……でもあくあぱっつぁってなに~?」
「それは夕ご飯の時に実際に見て、食べてみたほうが理解できると思うぞ。すっごく美味しい料理だから楽しみにしててな。」
「うんっ!!」
ぱぁっと表情を明るくして頷いたシアの頭を撫でていると、それを羨ましく思ったのか、メリッサがぐりぐりと頭を俺の体に擦り付けてきた。
「ぱぱ…わたしもなでて。しあちゃんばっかり…ずるいの。」
「ごめんなメリッサ。」
左手でシアを……右手でメリッサを撫でると、メリッサも嬉しそうに表情を和ませた。
それから俺達はマーレの市場を巡り歩いて、今晩の夕食に必要な食材をもう少し買い集めた。その後、セカンデルに向かうために再び馬車の準備を整え、また北へと道を進むのだった。
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