第282話 新たな始まりの予感
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夜分遅く……王都の城を訪ねると、すぐにエートリヒさんが対応してくれた。彼は簀巻きされた2人の人物の有様を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
「いやはや、生け捕りならば方法は問わないと確かに言ったが……ずいぶんな有様で連れてきたねキミ達は。」
顔面が青あざにまみれて、原形がわからない程に歪んだクレイモア家の当主が、エートリヒさんに向かって声を絞り出した。
「え、エートリヒ国王殿下っ!!こ、こいつらは、き、貴族の私を襲った蛮族で……。」
「うん、クレイモア公……いや、すでにキミの貴族としての地位は剥奪されているから、公をつける必要もないか。ユーク・クレイモア、私はキミ達へ向けて王令を出した。それを破り、キミ達は彼らに危害を加えようとした……歪んだ欲に負けてね。」
エートリヒさんの言葉にクレイモア家の当主と、その息子は言葉を返すことができずにいた。それを冷徹に見下しながら、エートリヒさんはリタの方に視線を送った。
「リタ・ヴェイルファースト君。」
「は、はいですわっ!!」
「キミ達の貴族の地位は元に戻しておくよ。そのヴェイルファースト家の誠実さをこれからも民に示し続けていってほしい。」
「あ、ありがたき幸せですわ。」
その場にリタは跪いて深く頭を下げた。彼女の頭をエートリヒさんは撫でると、今度は俺達の方に視線を送ってきた。
「彼らには私から厳罰を下しておくよ。」
「お願いしま~す。」
「もし、また何か厄介ごとに巻き込まれたら、遠慮なく私に相談してくれて構わない。キミ達はこの国の宝なのだからね。」
「ありがとうございます。」
そして俺達はエートリヒさんにクレイモア家の人達のことを任せて、城を後にして帰路につく……その道中で、ミカミさんがリタに問いかけた。
「さてリタちゃん、復讐も完了して、キミ達は貴族に戻れたわけだけど……これから先はどうするつもりかな?」
「どうするって、どういう意味ですの?」
「要は、もう私達のお手伝いをする必要は無くなったわけなんだけど、どうするのかなって。」
「そんなこと決まってますわ。わたくし達ヴェイルファースト一家は、貴方方の多大な恩義に報いるまで、貴方方に尽くしますわ。それに、お父様もお母様も、わたくしも含めて、今の現状を楽しく過ごしていますの。……そういうわけですから、こ、これからもよろしくお願いしますわ。」
「あっはっは、そこまで言われちゃね……こちらこそよろしくお願いするよリタちゃん。」
「よろしく頼むよリタ……あ、いや、もう貴族に戻ったんだし、リタさんのほうが良いかな?」
「い、今まで通りリタで良いですわ!!」
そんな会話をしながら、俺達は王都を後にして、エミルへと戻るのだった。
その日の夜、すっかりみんなが寝静まっているときに宿に戻ってきた俺とミカミさんは、テーブルを囲んで晩酌を始めた。
「はいかんぱ~い!!」
「乾杯です。」
お互いに好きなお酒をグラスに注いでそれを一口飲んだ後、ミカミさんが口を開く。
「いやぁ~、ようやく私達の前に立ち塞がってた障害が取り除かれたね。」
「ようやくですよ。これでもうヴェイルファースト家のみんなも、俺達も大丈夫ですよね?」
「もう大丈夫だと思うよ。あと恨みを買ってるとしたら、アサシンギルドの面々だけど、彼らは漏れなく豚箱の中だろうし、当分の間は大丈夫さ。」
「じゃあいよいよ……当初の目的だった、この世界を巡って美味しいものを食べ歩く旅が実行できそうですね。」
「うんっ!!お金も十分なぐらいあるし、ちょうど獣人族の国も落ち着いてきた頃だろうからね。タイミングとしてはちょうどいいと思うよ。」
「まず最初はどこが良いですかね?やっぱり最初はこの国、ヒュマノを巡りますか。」
「そこに関しては柊君にお任せなんだけど、旅を始める前にね、ちょっとこれを見てほしいんだよ。」
ミカミさんはピッと指を横にスライドさせると、俺の目の前に大きな世界地図が表示された。この世界に最初来た時に見せてもらった地図よりも、はるかに大きくて詳細なものだ。
「これはこの世界ハオルチアの世界地図なんだけど、違和感を感じないかい?」
「ヒュマノと獣人族の国とエルフの国は一つの大きな大陸の中の国家だったんですね。」
ミカミさんが見せてくれた世界地図には、全部で大陸が5つ。そのうちの一つがヒュマノと獣人とエルフの3国家が軒を連ねる大陸。他の大陸には特に何の記載もない。
「これ、他の大陸にも他の種族の国があったりするんですかね?」
「いやぁ~、それを教えてあげたいところなんだけどさ。イリスちゃんが情報を渡してくれなかったんだよね~。『それは柊さんと一緒に確かめてみてください。』だってさ。」
「行ってみてのお楽しみってわけですね。」
「そういう事だね~。ただ行くには海を越えていかないといけないから、そこでグレイスちゃんの力が必要になってくるかも。」
「ですね。」
この世界はまだまだ広い……その事実に思わず俺は胸が躍った。そのせいでワクワクしすぎて夜に眠ることができなかった。
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