第272話 ドーナの料理勉強会
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シンさんはまだ鍛冶屋の中でミランダさんと相談事があるという事だったので、先に鍛冶屋を出て宿への帰り道を歩いていると、道中の食材を売っている露店でドーナが何やら難しそうな表情を浮かべている姿を発見した。
「こんなところで何してるのかな?」
「あっ、ヒイラギか……。い、いやぁ……実はさっきこういう本を買ったんだけどさ。」
彼女が俺に見せてくれた本は、何やら見覚えのある本だった。本の題名は『王道を行く、まっすぐな恋愛』。これは確かミカミさんがカリンさんにおすすめした本だったような気がする。
「あ、アタシさ。恋愛経験ってモンが無いから、ふ、普通恋人になった女は何をすればいいのかわかんなくてこれを買ったんだよ。そしたら、まずは料理で胃袋を掴もうって……。」
「あ~……なるほど。」
「でもヒイラギってめちゃくちゃ料理上手いだろ?だ、だから料理の経験もないアタシが作った料理なんかで満足するのかなって……。」
「ん~、じゃあ俺と一緒に練習してみようか。初めてのことを一人で始めるにもなかなか勇気がいるだろうし、包丁の扱い方なんかも教えたいからさ。」
「じゃ、じゃあ頼んでもいいかい?」
「もちろん。で、何をつくりたいんだ?」
「こ、この愛妻弁当ってやつなんだけど。」
「おぅふ……と、とりあえずわかった。じゃあギルドの地下でやろう。」
一先ずギルドの地下に赴くと、すでにミハエルさん達が片付けを終えていたらしく、調理台はピッカピカに保たれており、誰もいなかった。
「よし、それじゃあさっそくやっていこうか。」
まな板と包丁、そしてある程度の量の食材を用意して、早速彼女に料理のイロハを教えて行こうと思う。
「まずは包丁の使い方なんだけど、包丁で野菜とかを切った経験は?」
「まったくないよ。」
「オッケーじゃあまずは野菜と肉の切り方から学んでいこう。まず大前提で覚えてほしいのは、包丁の動かし方から。」
俺はまず鶏肉のモモ肉をまな板の上に置く。
「包丁は力を入れて切るものじゃない。包丁の切れ味を活かして、大きな前後の動きで切るんだ。例えば肉なら大きく手前に引く。」
包丁の刃元からは先まで全てを活かして鶏肉をカットすると、彼女はおぉ~と思わず声を上げていた。
「ちなみにドーナは剣とかそういうのを扱った経験は?」
「まったくないね。今までこの拳だけで戦ってきたから……。」
「わかった。じゃあ一先ずさっき俺がやってみたように、鶏肉を半分に切ってみよう。」
「わ、わかったよ。こ、こう大きく引いて切ればいいんだよね?」
「そう。」
思った通りというかなんというか、ドーナは天才肌らしく、教えたことはすぐに実践できてしまった。
「ん、なんとなく感じは掴めた気がするよ。」
「じゃあ次は野菜だ。野菜は肉とは逆……押し出すように包丁を動かす。」
言ったこと、やって見せたことはすんなりとできてしまう彼女に、内心少し驚きながら、少しずつ料理を教えていく。切るという事の基礎を教え終えたところで、今度はいよいよ本格的に料理に取り組んでいくことにしようか。
「今度はさっき切った鶏肉に、下味っていう料理の味を決める作業をしていこう。」
「下味……。」
「メインで使うのはこの塩と胡椒の2つ。」
「これで味が決まるのかい?」
「塩っていう調味料はすごく奥が深くて、たった1gの違いで味がぐっと合わる調味料なんだ。だいたい肉の重量の1%ぐらいの塩を振れば、ちょうどいい味になるって言われてる。諸説あるけど繊細な味にしたいなら0.8%とか0.6%とか……まぁいろいろあるんだけど、とりあえず1%って覚えててもらえれば大丈夫。」
「わかった。」
サラサラと彼女はメモを取っていく。その間に鶏肉の重量を量り、それがぴったり200gであることが判明した。
「それじゃあ、この鶏肉は200gなので、この1%……2gの塩と胡椒を全体にまぶそう。今回は弁当の定番の唐揚げを作るから、もみもみって揉み込むように下味の調味料を全体に行き渡らせてほしい。」
「こ、こうかい?」
優しく揉み込むように量った塩と胡椒を鶏肉に揉み込んでいくドーナ。
「そしたら、ここに今回は小麦粉をパサッと全体に馴染むぐらいに。」
小麦粉をまぶしてさらに揉み込んだ鶏肉を、今度はいよいよ油で揚げていく。
「それじゃあ最後の工程。いよいよそれを油で揚げていこう。ここに180℃に熱した油があるから、この中に鶏肉を入れるんだ。……ちなみにビビッて投げ込むように入れると、逆に火傷するから、こんな感じで優しく沈めるような感じでいれるんだぞ。」
「肝っ玉は据わってるつもりだからねぇ。このぐらいは簡単さ。」
臆することなく彼女はどんどん鶏肉を油の中へと放り込んでいく。
「おっと、そこでストップ。油の面積いっぱいに入れるんじゃなく、半分ぐらいを目安にするのが上手く揚げ物を揚げるコツだ。」
「半分ぐらいだね。わかったよ。」
そして特に危なげもなく、唐揚げを揚げ終えたところで、料理の中で最も大事な工程である、あの工程に入ろうと思う。
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