第266話 シン来訪
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朝食の時間になると、ランさんとルカが合流し、みんなで食卓を囲んでいると、ふとランさんがドーナに質問を投げかけた。
「ねぇ、あなた達……昨日からちょっと気にはなってたけど、いよいよ番いになったの?」
「ん、そうだよ。」
カリッと焼いたピザトーストを頬張りながら、ドーナは淡々と答えた。
「良いわねぇ〜番い。ワタシも憧れるわ〜。やっぱり自分よりも強いオスが良いわよね。」
そう言ったランさんに、ドーナはジッ……と視線を向けて、俺の袖をキュッと握ってきた。
「ヒイラギはやらないよ。」
「誰もヒイラギ〜とは言ってないじゃない。」
「だって、ランを倒したことがあるのってヒイラギだろ?」
「まぁ、今のところはね〜。ほら、ワタシ達龍種はエルフ並みに寿命が長いし、そのうち見つかるでしょ。」
気分を切り替えたのか、ランさんはピザトーストを一口で頬張って、空になったお皿をこちらに差し出してきた。
「おかわりちょうだい?」
「はい、ただいま。」
そんなやり取りをしながらも朝食を終えて、シアとメリッサはいつも通りランさんと勉強を。ミカミさんとグレイスはお使いへ。俺とドーナは2人でギルドへと赴くことにした。
そしてギルドの中へと入った後、2人で席に座って、パラパラと依頼書を捲っていく。
「な〜んか、あんまり急を要するような依頼もないねぇ。」
「なんか残念そうだけど?」
「ん、そりゃあアタシ達が出るような依頼が無いのは良いことなんだけど、これは逆に仕事が無いって事だからねぇ。」
そうドーナさんがつまらなさそうにして、依頼書が入っているファイルを閉じると、接客の合間にミースさんがこちらにパタパタと駆け寄ってきた。
「ドーナさん、ヒイラギさん。伝えておかなきゃいけないことがあったのをすっかり忘れてました。今日獣人の偉い人が、このギルドに来るって通達がありましたよ。」
「獣人の偉い人?誰なんだろうねぇ。」
「もしかしたらシンさんが直々に来たりして……。」
「流石に国王としてやることがあるだろうし、ここにあの人自らが来るなんてことはないんじゃないかい?」
そんな事を話していると、誰かがこちらにノシノシと重そうな足音を立てながら近づいてくる。
「何日かぶりであるな、ヒイラギ殿にドーナ。」
「噂をしてたらホントに来ちまったねぇ……。」
「む?我の噂をしていたのか?事前にここに来るとは伝えておいたはずだが……。」
「確かに今ミースから偉い人が来るっていう話は聞いてたけど、まさか国王様直々に来るなんて夢にも思わなかったよ。」
「シンさん、国の方は大丈夫なんですか?」
「概ね問題はないのだ。産業ももとに戻りつつあり、此度の乱で大切なものを失った国民への補償も完了しつつある。」
「それはよかったじゃないですか。」
「うむ。しかしだな、1つだけ問題があるのだ。」
「問題……ですか?」
「それは、政治に関して無知な我に、仕事がないのだ。」
ガックリと肩を落としながら、シンさんはそんな事を口にした。
「え、いやいや、そんなことは流石に……。」
「我が獣人国では、代々最も強き者が王となる故に、大臣に任命されている者達が有能すぎるのだ。我が次はこうした方が良いのではないか……と思っていることがすでに終わってしまっているのだ。」
「あ、あぁ……そういう……。」
「そして我は大臣達に、他国で国交を深めるようにと仕事を預かってここに来た次第である。」
「ははぁん、なるほどねぇ。じゃあ先にアタシらの国王様に会ってきたほうがよかったんじゃないかい?」
「うむ。もちろんエートリヒ殿とは面会済みである。その面会でエートリヒ殿から、ヒイラギ殿達はこのエミルという町にいると教えてもらったのだ。」
だいたいシンさんがここに来た道筋が理解できた。でもここに来て何をするつもりなんだろう?
「ちなみに……何か目的があってこの町に来たんですか?」
「うむ!!我の目的は2つ!!1つは2人の顔を見ること……そしてもう1つは、あの美味いと噂の菓子を食うことだ!!」
「あぁ……お、お客様として来てくれたんですね。」
「うむっ!!では早速我はこの列に並んでくるぞ!!」
ドタドタとシンさんは走って、お菓子を購入する人達の最後尾へと並んだ。それと入れ違うように、すでにお菓子を購入したカリンさんとミクモさんがこちらに歩み寄ってくる。
「おはようなのじゃ2人とも。」
「おはようだぞ。」
「ん、おはようカリンにミクモ。」
「おはようございます。」
軽いあいさつを交わした後、2人も俺達と同じ席に腰掛けた。
「シン坊はすっかり元気そうじゃな。」
「あの様子では、おそらく大臣衆に仕事の邪魔になる故、他の国へと赴き国交を深めて参れと言われたに違いあるまい。」
ミクモさんはシンさんの状況をドンピシャで言い当てながら、ジェラートを口にする。
「ん〜っ、美味い……美味い!!何度食っても飽きぬ味だ。この味が妾の国でも食えればよいのだがのぉ……。」
「パーピリオンでも出店してほしいぐらいじゃ。」
「あはは、ありがとうございます。それは後で考えておきますね。」
その後ギルドでまったりとした時間を過ごしていると、突然一人の受付嬢が緊急の依頼書を手に俺達のところへと駆け寄ってきたのだった。
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