第265話 眠れない一夜
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かなり夜も更けてしまったその日は、ドーナさんは俺たちが借りている宿に泊まっていくことになった。……ミカミさんが必死に同じ部屋、同じベッドで寝ようとドーナさんを引っ張ったせいで、俺は初めて女性と肩と肩が触れ合う距離でベッドに横になった。
「あ、あの……せ、狭かったらいつでもゆ、床で寝るから。」
まだぎこちない粗略した言葉で、俺の背中にぴっとりと体を当てているドーナさんに言うと、背後から少し緊張した声で返答があった。
「だ、大丈夫だよ。で、でも流石にベッドが狭いような気がするねぇ……。」
「ま、まぁ一応シングルのベッドなので……。」
こ、今後こういう機会が増えるなら、宿を変えることも視野に入れよう……。いやそもそも家を買うべきか?その辺りは、今俺の枕の目の前でしてるミカミさんと後々相談だな。
「……じゃあ、ひ、一先ずおやすみ。」
「お、おやすみ……。」
最初は緊張していたものの、お酒も入っていたせいか、すぐに背後のドーナさんからは寝息が聞こえてきた。それを分かってか、目の前にいるミカミさんが小さな声で話しかけてきた。
「ふふ、背中にドーナちゃんの寝息が当たるかい柊君?」
「こ、これ緊張して寝れないんですけど……。」
「恋人同士なんだから、これぐらい普通だよ。むしろ、これからもっともっと親密になるんだから、これぐらいは慣れないとね。」
「ほんっと、簡単に言ってくれますよ。」
「あはは、初めてのことは誰だって緊張するものさ。違うかい?」
「まぁ、そうですけど……。」
「よっし、それじゃあおやすみっ柊君っ!!」
自分の言いたいことだけ言って、ミカミさんは毛布を頭から被って寝てしまう。やはり自由なミカミさんに少し溜め息を吐きながら、俺も頑張って眠ろうと目を閉じるが……。
(こ、こんなの眠れるわけがないっ。)
首筋に当たる熱を帯びた吐息に……ドーナさんが少し身じろぎをするたびに背中に当たる柔らかい感触。極めつけは、ついさっき眠っているドーナさんに抱き枕のようにされてしまった。
チラリと時計を見れば時刻は夜中の3時。夜明けまではまだまだ時間がある。
(頑張って耐えよう。きっと最初……初めてだからだ。)
頭の中を頑張って空っぽにするように意識して目を閉じると、不意にドーナさんが俺のことを抱きしめる力が少し強くなったような気がした。それと同時に、寝言だろうか……小さなドーナさんの嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ……ようやく見つけ……たんだ。アタシの……アタシの…………。」
そうぽつりと言った後、ドーナさんはまた眠りについてしまう。その後、何とか俺も眠りにつくことができて、無事に夜を過ごすことができたのだった。
翌朝、目が覚めるとどうやら俺自身寝返りを打ったらしく、目の前にドーナさんの顔が飛び込んできた。そしてどうやら先に起きていたらしいドーナさんが、少し恥ずかしそうにしながら朝の挨拶を口にする。
「お、おはようヒイラギ。」
「え、えっと……お、おはようドーナ。」
まだぎこちなく挨拶を返すと、ドーナさんは可笑しそうにくすくすと笑った。
「くははっ、な~んでタメ口で話すってだけで恥ずかしがってんだい。」
「い、いやぁ……な、なんかまだ実感がわかなくて。」
「……アタシが彼女って実感かい?」
「うん……まだこれが夢なんじゃないかなって。」
すると少しドーナさんは悩んだ後に、突然思い切り俺のことを抱き寄せてきて、こつんとおでこを密着させてくる。
「こ、これでもまだ実感湧かないかい?」
「じゅ、十分湧きましたっ。」
「ははっ、また敬語になってるよヒイラギ。」
クスリと笑ってドーナさんは体を起こすと、ベッドから下りてぐぐ~っと体を伸ばした。
「さてと、ほんじゃアタシは先に髪をとかさせてもらうよ。洗面所借りるからね。」
「わかった。その間に朝食作っとくよ。」
「朝から美味しいやつを頼むよ。」
そう言ってひらひらと手を振ってドーナさんは洗面所の方へと歩いて行った。それを見送って、俺もベッドから体を起こそうとすると、昨日だけ俺から少し離れて眠っていたメリッサがぴょんと飛んで抱き着いてきた。
「おはよ…ぱぱ。」
「おはようメリッサ。」
「ん…ぎゅ~っ!」
お互いに挨拶を交わした後、メリッサは何を思ったのかぎゅっと抱き着いてきた。
「わわっ、ど、どうしたんだ?」
「きのう…ぱぱにだきしめてもらえなかった…だからいまぎゅってする。」
「ごめんな。」
ぽんぽんとメリッサの頭を撫でていると、毛布を頭から被って眠っていたミカミさんも目を覚ます。
「おっはよ~!!ってあれ?ドーナちゃんは?」
「洗面所に髪をとかしに行きましたよ。」
「あ、帰ったわけじゃないんだね良かったぁ~。」
ホッと胸を撫で下ろしたミカミさんは、続々と起きたメリッサとシアのことを連れて、洗面所に突撃していった。すると、洗面所の中が途端に騒がしくなる。そんな様子に苦笑いしながらも、俺は朝食の準備に取り掛かるのだった。
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