第255話 久しぶりの帰還
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それからまた1週間ほどの時間が経つと、すっかり獣人の国で起こっていた混乱も収まり、人々は普段の暮らしを取り戻しつつあった。そのタイミングでシンさんは国民に、今回の騒動の責任を取って国王の座から降りるという事を宣言したのだが……国民から猛烈な反対意見がたくさん寄せられたため、予想通り彼は国王の座から降りることは叶わなかった。
「まぁ、民の意見に真摯に向き合い、これからも王としての役目を果たしていくのだなシン坊。」
「うむむ……まさかこんなに民から反対の意見が寄せられるとは思っていなかったのだ。大量の署名まで寄せられるとは。」
1枚1枚署名の書かれた紙に目を通しながら、シンさんは唸り声をあげた。
「これではヒイラギ殿との約束を果たすことが難しくなってしまうのだ。」
「例のグリフォンを見つけ出すという約束のことか。そんなものいつでもできるだろう。ま、これからしばらくの間は忙しくて手につかぬだろうがの。」
くつくつと少し嬉しそうに笑いながら、ミクモさんは円卓の席を立つと、俺の背後に回り背後から抱き着いてきた。
「そなたが忙しくしておる間、妾は少々人間の国へと物見遊山へ参るからの。」
「なっ、み、ミクモ殿それはズルいのだ!!」
「んん~?何がズルいと申すか。妾の仕事は十分にこなしただろう?この国全体に食料を行き渡らせ、物流まで再開させたのだぞ?」
「うむむむむ……だ、だがそれは我も行きたいのだ。」
「ならばとっとと王としての務めを終わらせるのだな。まだまだやることはたくさんあるぞ?家を失った民への補償や、農業と畜産の速やかな復興等々な。この国を元に戻すまで、そなたは責務から離れられぬぞ。」
「ぐぬぬぬ、先は長いのだ。」
悔しそうにしながらシンさんが言ったのを尻目に、ミクモさんは楽しそうにしながら早く人間の国へと行こうと急かしてくる。
「ヒイラギ殿、今日には人間の国へと戻るのだろう?ならば日が暮れぬうちに戻ろうではないか。妾はヒイラギ殿の出している甘味の店というのが気になって仕方がないぞ。」
「わ、わかりましたから。」
ミクモさんにぐいぐいと手を引かれて、俺は会談をしていた円卓のある部屋を後にすることとなってしまう。そしてあれよあれよという間に流れに乗せられて、気が付けば俺は人間の国の王都へと戻ってきてしまっていた。
「ふむ、人間の国に来るのは数百年ぶりだが……ん、妾の覚えておる頃よりも遥かに文明が進んでおるようだの。」
王都の町並みを見て、ミクモさんはふむ……と声を漏らしながら言った。
「ところでヒイラギ殿の店というのはどこにあるのだ?」
「あ、それはここじゃなくて、違う町にあるんです。」
「となれば、ここから向かうのは時間がかかるというわけか。」
俺達が王都に着いた直後、突然魔法陣が目の前に現れたかと思えば、そこからカリンさんが姿を現した。
「ひっさしぶりじゃのヒイラギ殿っ!!達者か?」
「あ、カリンさん。お久しぶりです。この通り元気ですよ。」
「うむ、元気そうで何よりじゃ。なぜいるのかわからんミクモも元気そうじゃな。」
「なぜいるのかわからんとは失礼な奴だの。妾はヒイラギ殿の店で出しているという甘味が気になってこの国に訪れただけだ。」
「なんじゃお主、ヒイラギ殿と共に過ごしておきながらまだあれを食っておらんのか?」
「アンゴロウ鍋ならば食ったぞ。あれのおかげで妾の毛並みにさらに磨きがかかったのだ。」
自分の尻尾をキュッと抱きしめ、すりすりと撫でながらミクモさんは言う。
「毛並みに磨きがかかっただと?ワシから見れば特に変わっていないように見えるが……。」
「それはそなたの目が腐っておるだけではないかの?」
「ほぉぉぉ~、言ってくれるのじゃ。ワシの不変の美貌を見て、思わず嫉妬してしまったのか?」
「変わりがないという事は進歩が無いという事だ。それは妾の望んでいることではない。」
バチバチと2人が火花を散らし散る最中、俺は間に割って入って2人のことを宥める。そして話題を変えるべく話を切り出した。
「お、落ち着いてくださいよ2人とも……。そんな出会った瞬間喧嘩しなくたっていいじゃないですか。ところでカリンさん、バーバラさん達は元気にしてますかね?」
「バーバラ達は元気じゃぞ。ワシは毎日様子を見るがてらあの店に通っておったが、みんな元気そうにしておる。」
「ほっ……それは良かった。」
「ただ常に完売しておるようじゃから、なかなか購入が難しくての。」
「む、という事は今から行っても間に合わぬか?」
「今はちょうど開店したばかり故、まだ商品は残っておるとは思うが……もし食いたいのならば急いだほうがい良いな。」
「ならばカリンッ、妾たちを急いでその店へと連れて行けっ!!妾はヒイラギ殿の店で売っているという甘味を味わうためにこの国へと来たのだ!!」
「ふむ、まぁヒイラギ殿も自分の社員と会いたい気持ちはあるじゃろう。そなたのためではないが送ってやろう。」
パチンとカリンさんが指を弾くと、俺達の足元に巨大な魔法陣が現れ、眩い光を放ち始めた。
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