第243話 腹を満たすために
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ミクモさんと一緒に仕込んだ大量のカレーを、炊き立てのホワイトライスと一緒に、王宮の前に設置された食料配給所へと運び込んだ。既に配給があると聞きつけた獣人の人達がそこに長蛇の列を作っている。
「ふぅ、一苦労して作ったは良いものの、全員に配れるほどの余裕があるかのぉ……。」
ミクモさんは長蛇の列を作っている人たちの方を眺めてぽつりと言った。
「無くなってもすぐに仕込めるように準備してあるので大丈夫ですよ。俺がちょっと厨房に戻ればすぐに持ってこれます。」
「ふむ、それならば安心だの。さて、では始めるとするか。」
髪を結っていた紐をキュッと結び直したミクモさんは、並んでいた人達へと声をかける。
「配給を開始するぞ~!!しっかりと一列に並び、順番に食料を受け取るのだ。横入りなどした愚か者は飯抜きだからの~!!」
そうしてカレーの配給が始まり、順調に人々へとカレーが行き渡っていたその時だった……。
「ん?」
突然スキルの危険察知が発動する。危険を発しているのはボロボロのローブを被ったあの男……。その男が配給をもらおうと俺達の前に来た時、突然懐に手を突っ込んだ。
「なんかヤバいっ!!」
咄嗟に俺はその男を突き飛ばして転ばせる。すると、男の手元から小瓶が転がり落ちてきて、どろりと紫色の液体が地面に零れた。それを見ていたミクモさんの全身の毛が逆立つ。
「貴様ぁ……貴重な食料に毒を盛ろうとするとは、許さぬぞ。もう貴様らの主も捕まり、シン坊も王座に戻ったというに、何故これ以上罪のない民を痛めつけようとするのだ、こんの下種がァッ!!」
ミクモさんの堪忍袋の緒が切れるブチっという音が鳴り響いたと同時、俺の隣からミクモさんは飛び出すと、くるくると空中で回転しながら男の頭に踵落としを叩き込んだ。その威力はすさまじく、男の体が半分ほど地面に埋まってしまった。
「ふん、馬鹿者め。」
その後すぐに兵士の人が駆けてきて、カレーに毒を盛ろうとした男のことを拘束して連れて行った。それを見送りながらも、ミクモさんは地面に零れた毒に顔を近づける。
「クンクン……キツイ薬品の匂い。よし覚えたぞ。」
顔を上げたミクモさんは、長蛇の列を作っている人たちへとむけて大声で言った。
「皆のもの動くでないぞ!!この中にまだ毒を持った輩がいるかもしれん。これより安全を確認するべく調査を行う。」
するとミクモさんは列の先頭の人から順番に体の匂いを嗅いでいく。順調に1人1人の匂いを嗅いで確認していた最中、列から複数人が飛び出して近くの路地に駆け込んでいった。
「やはりまだネズミが潜んでおったか。バラバラに逃げれば逃げられるなど、妾も舐められたものだな。」
そう言った直後、ミクモさんの尻尾がポンポンと音を立てて増えていく。そして6本ほどになったところで、ミクモさんは口から蒸気のような白い息を吐いた。
「ゆくぞ……。」
ぽつりとそう言った瞬間、ミクモさんの姿がその場から消え、あちこちでドシン……ドシンと響くような轟音が響き渡る。何が起こっているのか理解する前に、ミクモさんは逃げて行った男たち全員の首根っこを引っ掴んで戻ってきた。
「ふぅぅぅ……まったく妾の手を煩わせおって。」
ここに戻ってきたミクモさんの姿はさっきとはまた違っていて、子供っぽい姿から、妖艶な大人びた姿へと変わっていた。
「あ、あのミクモさん?その姿は一体?」
「む?あぁ、この姿は妾が日頃抑えている力を解放した姿だ。こちらが妾本来の姿だぞ。」
ぐぐ〜っと背伸びしたミクモさんはどんどん背が縮んでいき、最終的には元の幼い姿へと戻ってしまう。
「ちなみに、どうしていつもはその姿なんですか?」
「……あの姿のままでは、日常生活に支障が出るのだ。料理なんてしようものならば酷い有様になる。フライパンの取っ手を捩じ切ってしまったり……まな板と包丁、果てにはそれらを置いていた台すらも破壊してしまったこともある。」
険しい表情でミクモさんは過去の失敗談を語ってくれた。
「な、なるほど、納得ですね……。」
そしてその男たちも兵士に連れて行かれたあと、配給はまた再開され、並んでいたすべての人々へカレーが行き渡っていた。
みんなが美味しそうにカレーを食べているのを見ながら、ミクモさんと俺は2人で頷き合う。
「うむ、皆の顔に少々の元気が戻ったように見える。美味い飯は元気の源だの。」
「間違いないですね。」
そう話していると、こちらに子供達が空になったお皿を持って駆け寄ってきた。
「ミクモねぇちゃん!!ごはんめっちゃ美味かったよ!!」
「ミクモお姉ちゃんに、人間のお兄ちゃんもありがとー!!」
「おぉ〜、良い良い。して、みな腹は膨れたか?」
「えっ……と…………。」
ミクモさんの問いかけに、子供達は答えにくそうな表情を浮かべている。そんな様子からミクモさんも俺も、あることを察した。
「ヒイラギ殿、まだ食材は余っていたかの?」
「食糧庫の中にあったのは、一応全部使っちゃいましたね。」
「ふむ、ならばあの方法しかあるまい。子供らよ、妾達について参れ〜。」
何か方法を思いついたのか、子供たちを引き連れて歩き出したミクモさん。その後に俺も続きながら、彼女に質問を投げかける。
「何か方法が?」
「少なからず市場には食材が残っているだろう。それを分けてもらいに行くのだ。余っている食材や売り物にならないような食材、普段食わぬような食材でも、妾とヒイラギ殿の知恵を合わせれば、美味い飯にすることはできるだろう?」
「はい、もちろんです。」
「うむ、では参ろう。この国の未来を担う、子供たちの腹を満たすために……。」
そして俺達は市場に赴いたり、農家を直接訪ねたりして食材を掻き集め、それを使い子供達にまた料理を振る舞ったのだった。
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