第238話 メリッサの不安
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メリッサが産まれた後、俺達はミクモさんが作ってくれた獣人族の国ではポピュラーだという美味しい料理に舌鼓を打ち、大きなお風呂に入ってから寝床に着いた。
この世界に来てからずっと寝る時はベッドの上だったけど、今日はふかふかの柔らかい布団だ。布団にごろんと横になると、なんだか子供の頃を思い出すな。
「ベッドも良いけど、やっぱりお布団も良いねぇ~。寧ろ私はこっち派かな。」
ゴロゴロと布団の上で転がりながら、ミカミさんは言った。ミカミさんのことを潰さないように、俺も布団の上に横になると、すぐにシアとメリッサの2人も布団に飛び込んでくる。
「メリッサちゃん、シアはいっつもお兄さんにくっついて寝るの~。」
「わたしも…ぱぱにくっつくの。」
「あはは、モテモテだねぇ柊君。」
「自分はヒイラギさんの胸の上に乗るっすよ。」
ミカミさんと一緒に俺の胸の上に乗っかったグレイスは、毛布を体の上にかけてくれた。
「それじゃあみんなお休み。」
「「「おやすみなさ~い。」」」
自分でも驚いたのだが、布団の寝心地が良くてあっという間に眠りに落ちてしまった。しかし、深い眠りに落ちていた最中、ふとメリッサが眠っている方に置いていた手が、ぎゅっと強く握られた気がして、重い瞼を開けてみた。
「ん……メリッサ?」
「あ…ぱぱ…えと…ごめんなさい。」
「どうかした?」
「ねむるの…こわい。おきたら…ぱぱ…いなくなってそう。」
メリッサの不安を理解した俺は、右手をメリッサの頭と枕の間に挿し込んだ。
「これなら大丈夫かな?」
「…………うん。ありがと…ぱぱ。」
少し嬉しそうにしたメリッサは、俺の腕を枕にして目を瞑ると、すぐに眠りに落ちてすやすやと安らかな寝息を立て始めた。
「メリッサちゃん、やっと寝たみたいだね。」
「あれ、ミカミさんもまだ起きてたんですか?」
「寝る直前、ちょっとメリッサちゃん不安そうな顔してたから、大丈夫かな〜って心配だったんだ。」
「流石の慧眼ですね。」
「年の功ってやつさ。とてつもな〜く長い間生きてると、人の本質とかが自ずと見えるようになってくるんだよ。ま、そんな話はさておき、私達もそろそろ寝よ?寝不足になっちゃうよ〜。」
「ですね、それじゃあおやすみなさいミカミさん。」
「うん、おやすみ柊君。」
そしてまた目を閉じると、俺はすぐに深い眠りの中へと落ちていった。
翌朝目を覚ますと、すでに隣にいたメリッサは起きていて、俺の顔をじっと覗き込んでいた。
「おはようメリッサ。」
「おは…よう?」
「朝の挨拶だよ。一日が始まって、初めて出会った人には、おはようって挨拶をするんだ。こういう人としての常識もこれから教えてあげるからな。」
ぽんぽんと頭を撫でてあげると、凄く嬉しそうにメリッサは笑う。
「さてと、俺はこれからミクモさんと朝ごはんを作りに行ってくるから、メリッサはここでみんなが起きるのを見守ってくれるかな?」
「わかった。みんなに…おはよう…いえばいい?」
「そう、みんなが起きたら、おはようって挨拶してあげてくれ。」
そして俺は身なりを整えて、このミクモさんの宿の厨房へと向かう。
「おはようございます。」
「うむ、おはよう。」
厨房では、ちょうどミクモさんが割烹着に着替えている最中だった。大きな尻尾を一緒に結ばないように気をつけながら、後ろでキュッとミクモさんは割烹着の紐を結ぶと、フン……と鼻から息を吐いた。
「さて、では早速朝食を作るとしようかの。」
「よろしくお願いします。」
「うむ……とは言っても、この国の定番の朝飯といえば、こういうものになるのだが……。」
どうやら予め俺に見せるために作ってくれていたようで、ミクモさんは獣人族の朝ごはんの定番だという料理を台の上に置いた。
それは……ホクホクと熱い湯気が立ち昇る芋の上に、とろりとしたバターのようなものが乗っている料理。どこからどう見ても、ただのじゃがバターのようだった。
「これって、芋を蒸したもの……ですよね?」
「うむ。この蒸かした芋に、己の好みの味をつけて食うのが朝食の定番だ。手早く食うことができ、尚且つ腹持ちが良い。」
「なるほど……。」
「しかし、此度は人間も居る故に、出来れば人間らしい朝食も添えておきたい。そこで、ヒイラギ殿の出番というわけだの。」
「わかりました。じゃあ早速取りかかっても良いですか?」
「構わぬが……もう何を作るのかは決まっておるのか?」
「一応頭の中では献立は出来上がってますね。」
「では妾から1つお願い事をしても良いか?妾はこの国からなかなか出られぬ身故、人間の食文化にはあまり触れてこなかった。だから、人間が普段朝にどんなものを食べるのか、先に見せてもらいたい。……できるかの?」
「任せてください。……あ、でも俺が作る料理は、えっと、生まれ故郷の料理なので……一般的じゃないかもしれないですけど。」
「それぐらい別に構わぬ。」
「わかりました。それじゃあ早速作ってみますね。」
ミクモさんが用意してくれた食材と向き合って、俺は頭の中に浮かんだ献立通りに調理を始めた。
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