第234話 ミクモという人物
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バフメトという黒山羊の獣人をシンさんは兵士に命令を下して拘束させると、王宮の中にある、とある場所へと向かった。
「この中にミクモ殿が封印されているはずなのだ。」
シンさんが扉を開けるとすぐに大きな紫色の水晶が現れて、その中には人が閉じ込められているようだった。
「うむ、やはりここだったのだ。」
「思った通り、何とも情けない姿で封印されておるの。」
紫色の大きな水晶の中には、酒瓶に抱きついて気持ちよさそうに眠っている女性が閉じ込められている。彼女の頭にはキツネのような耳が生えていて、腰からは太いキツネのような尻尾も何本か生えていた。
「あ、キツネの獣人ちゃんだ〜。」
「あの者がミクモ……ワシの好敵手じゃ。」
カリンさんが一歩前に出て水晶に手を触れると、バチッと黒い稲妻が走る。
「む……コレも呪いの類か。ヒイラギ殿、頼めるか?」
「触れば良いんですかね?」
「うむ。それで恐らくは解放されるじゃろう。」
「わかりました。」
その水晶に手を触れると、黒い稲妻がバチッと走り、呪いの解除が始まった。そして呪いの抵抗力がゼロになると、パキン……と水晶にヒビが入り、中に閉じ込められていた女性がボテッと尻もちをつきながら床に落ちた。
「あいだっ!?な、なにが起こった!?妾は酒を飲み気持ちよく眠って……。」
「ようやくお目覚めじゃのバカ狐。酒は飲んでも飲まれるなとあれほど助言したというに、やはり貴様は愚かじゃな。」
「お主はカリンか!?なぜここにいるっ!!妾の眠りを妨げるのは、いくらお主でも許せぬぞ!!」
「み、ミクモ殿、落ち着いて聞いてほしいのだ。」
一国の王ともあろうシンさんが姿勢を低くして、おずおずとそう言うと、ミクモというキツネの獣人は、ギロリと鋭い視線をシンさんに向ける。
「シン坊〜、コレはお主の差し金かぁ〜?」
「ち、違うのだ!!ま、まずは話を……。」
「問答無用ッ!!そこに伏せい!!」
「ぐぉぉぉぉっ!?」
ゴチン……と鈍い音と共に、彼女はシンさんの頭に拳骨を落とすと、シンさんは凄まじい勢いで床に頭が突き刺さってしまった。そのまま無防備な股間に彼女は蹴りを入れ、シンさんを完全に沈黙させると、ゆっくりとこちらを向く。
「ところで、そなたらは何者ぞ?妾に人間の知り合いはおらんのじゃが……。」
「彼らはワシの友人じゃ。」
「なんとなんと、これは驚いた。魔法一筋の筋金入りの引きこもりであるお主に友ができたのか!?」
「ひ、引きこもりで悪かったのぉ、酒飲み狐。まだ酔っぱらっているようじゃから、ここらで一発酔い覚ましにキツ〜いのを一発くれてやろうか?」
「受けて立つぞ、引きこもりエルフ。妾も貴様の引きこもり癖が治るキツい仕置きをくれてやるっ!!」
バチバチと火花を散らしている2人の間に、俺は割り込んで、一先ず落ち着くように促した。
「ひ、一先ず落ち着きましょう?今はお互いに争ってる場合じゃないですよ。」
「妾の前に立つとは、人間のくせに良い度胸をしているのぉ〜。そこを退かぬならば、貴様ごとそこの引きこもりを吹っ飛ばしてやるぞ!!」
「だ、だから話を聞いて下さいって!!」
そう言って咄嗟に伸ばした手は、ミクモという女性のキツネのような耳をつまんでしまっていた。
「き、きしゃま……その手を、はなせぇぇぇっ………。」
「え、あ、あれ?」
ヘナヘナと力なく床にへたり込んでしまった彼女は、必至に耳から手を離そうと俺の手をグイグイと押してくる。
「そこを触られるとゾワゾワするっ!!だから早く離してたも!!」
「は、話を聞いてくれたら離しますっ!!」
「うぐぐぐぐ、わ、分かった。聞くっ!!話を聞くからその手を今すぐ離せっ!!」
その言葉に嘘がないと見抜いたミカミさんが頷いたのを確認して、俺は手を離した。すると、彼女は自分の耳を両手で押さえながら、憎たらしそうにこちらに視線を向けてくる。
「乙女の耳を無造作につまむとは、変態だのお主……。」
「い、いやそんな深い意味があるとは思えないんですけど……。ま、まぁ一先ず話は聞いてくれるんですね?」
「ま、仕方かなろう。約束は約束。」
そしてミクモさんにこれまでのことを話すと、まさに怒髪天を衝くといった様子で、怒りに震えると、床に顔を埋めていたシンさんに歩み寄った。
「これシン坊……そなたが治める国がこんな状態だというに、お主はそこで何をしているっ!!」
そう喝を入れながら、ミクモさんはシンさんを床から引き抜いた。
「め、面目ないのだミクモ殿……。」
「謝罪はいらぬ。今から、とっとと残る勢力のトップをボコボコにしてここに連れて参れぃっ!!」
「しょ、承知したのだっ!」
ミクモさんに尻を蹴り上げられたシンさんは、ドタドタと急いでこの部屋から出ていってしまった。それを見送った後、ミクモさんはこちらを向いて、ペコリと頭を下げてきた。
「まったく……すまなかったの人の子よ。この国の王がとんだ迷惑をかけたようじゃ。」
「い、いえ全然大丈夫ですよ。そ、それよりもシンさん1人で大丈夫ですか?」
「あやつのことなら心配はいらん。謀反を起こしたバカどもなんぞ、束になっても敵わん。この国の王という称号は伊達ではないからの。」
そう言ってどっかりと床に座り込んだミクモさんは、トクトクと手にしていた酒を注ぐとこちらに手渡してきた。
「シン坊が戻って来るまでの間、お主らについて少し話を聞かせてくれぬか?カリンと友であるということも気になるしの。」
「は、はぁ……わかりました。」
少しシンさんのことが不安だが、ミクモさんも逃がしてくれなさそうなので、この場は一先ず彼女に従っておくことにした……。
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