第232話 シンからのスカウト
ブックマークやいいね等とても励みになりますのでよろしくお願いいたします。
早速調理を始めようと思うのだが、その前にせっかくシンさんが近くにいるので、どんな料理が食べたいのか聞いてみることにした。
「シンさん、どんな料理が食べたいとか要望はありますか?」
「うむ、ガッツリとした肉が食いたいのだ。我の体が肉を欲しているっ!!」
そう言ってシンさんは立ち上がると、マッスルポーズのようなポーズをとった。しかしすぐに立ち眩みがしたのか、頭を押さえながら椅子に座り込む。
「わかりました。じゃあ肉中心の料理を作りますね。」
要望がわかったところで、エートリヒさんが用意してくれた肉の塊を持ち上げてまな板の上に置き、料理別にカットしていく。その様子が気になったのかシンさんは椅子を引きずりながら近くにやってきた。
「美味そうな肉だ……そのまま食いたいな。」
「シンさんの国だと、肉を生で食べる文化があるんですか?」
「我のような肉食系の獣人の中では割と一般的であるな。あの血の滴る感じがたまらんのだ。」
ランさんもグレイスももともとは、魔物の肉を生食していたが、今ではすっかり俺が調理した肉しか受け付けない体になってしまった。シンさんはどうなるかな?
「よいしょ、まずは時間のかかる料理から……。」
まず最初に作る料理はローストビーフ。塩胡椒を振った塊の肉をフライパンで焼き、その後袋で密閉し、中心温度を56℃になるまで湯煎する。日本だと温度計を肉に刺して温度を計ったのだが、この世界だと魔法で中心温度を知ることができるからかなり便利だ。
「よし、あとはこれを休ませておく。」
中心温度が目標値に達したところで火から外して休ませておく。後は完全に冷めたら切り分けるだけだ。
「この塊の肉はもう料理となったのか?」
「冷めたら切り分けて、それから仕上げですね。」
「うむむ、もう素晴らしく美味そうな匂いがしておるというのに、完成ではないのか。」
その後、ステーキ、骨と野菜から出汁を引いたコンソメスープ、野菜の肉詰め等々……肉を中心とした料理を仕上げていく。一つ、また一つと料理が出来上がっていく度に、シンさんのお腹からぐぅぅと大きな音が鳴る。
「よし、これだけあれば足りるかな。」
一通り料理を作り終えたあと、厨房の外で待機していた城の従者の人に料理を運んでもらうと、匂いに誘われるように彼らの後をシンさんがついて行ってしまう。
「彼、相当お腹減ってるみたいだね。」
「あの感じだと、まともにご飯を食べれるような状態でもなかったみたいですし……呪いから解放されて食欲が一気に押し寄せてきちゃってるのかもしれないですね。」
「これはランちゃんとグレイスちゃんと料理の取り合いになりそうだなぁ~。あ、ローストビーフの切れ端見っけ~。」
別皿に分けていたローストビーフの切れ端を見つけたミカミさんは、それを手でつかんで齧り付いた。
「ん~っ、お肉が良いお肉だし、柊君の調理が完璧なのもあって、柔らかくて美味しいね。」
「あはは、ありがとうございます。中心に近いところはもっと柔らかいですよ。」
「それを聞いちゃったら是が非でも食べないとね。早く私達もみんなのところに行こ~。」
俺達も少し遅れてみんなが待っている部屋に向かうと、部屋の前に来た時にすでに中から楽しげな声が聞こえてきていた。いざ部屋の扉を開けて中に入ると、ハムスターのように頬を膨らませたシンさんが、すさまじい勢いでステーキやローストビーフを口の中に詰め込んでいた。
「むぉぉぉぉっ!!美味いのだぁっ!!食う手が止まらぬっ!!」
「あはは、味のことに関しては聞く必要ないかもね柊君。」
「そうみたいですね。いや、ホッとしましたよ。」
俺達が入ってきたのを確認すると、エートリヒさんが料理を盛り付けた小皿を手に、こちらに歩み寄ってきた。
「見てわかる通り、シンさんはキミの料理をとても気に入ってくれたらしい。」
「ま、当然じゃの。数百年と生きておるワシの舌をも魅了してしまうのじゃからな。……それにしてもヒイラギ殿の飯を食う度、シン坊の生命力が漲ってきておるようじゃな。先ほどよりもさらに若々しく、そして猛々しくなっておるようじゃ。」
「言われてみれば……。」
改めてシンさんのことを観察してみると、さっきよりも明らかに若々しくなっていて、筋肉も盛り上がっているように見える。
「むっ、ヒイラギ殿も来たかっ!!」
頬の中に貯め込まれていた料理をゴクンと一気に飲み込み、シンさんはこちらにドスドスと歩み寄ってくると、俺の肩をがっちりと掴んできた。
「こんなに美味い料理は初めて食ったのだ。そして、おかげでこの肉体も輝きを取り戻してきた!!」
「よ、よかったです。」
「……一つヒイラギ殿に提案があるのだが、聞いてはくれまいか?」
「なんですか?」
「我が国の内乱を収めた後、我専属の料理人を務めてはくれまいか?この美味い飯を毎日食いたいのだ。」
そう言ったシンさんに、ランさんとグレイスが詰め寄った。
「それはダメよ。」
「ダメっす!!」
「む、だ、ダメであるか?」
「だってヒイラギはワタシ達にご飯を作ってくれるって約束したんだから。」
「む、むぅ……残念である。」
余程ショックだったのか、少ししょんぼりとしながらシンさんは料理を食べていた。
この作品に対する感想、意見などなどお待ちしています。こうしたほうがいいんじゃない?とかそういったものは大歓迎です。単に面白くないとかそういった感想は豆腐メンタルの作者が壊れてしまいますので胸の内にとどめていただければ幸いです。