第217話 胃袋鷲掴み作戦
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俺のマジックバッグにある食材を使って、サファイアドラゴンに料理を振る舞うと、俺の思惑通り……彼女は美味しさに驚きながらがっつき始めた。
「オークの肉ってこんなに柔らかかったの!?血生臭さもないし、すっごく美味しいわ!!つ、次はこれよ!!」
分厚いオークエリートのステーキを一口で食べきった彼女は、今度はクラーケンのフライに手を伸ばし、それも一口で頬張った。
「はふっ、コレもおいひぃわ〜。サクサクしてて噛めば噛むほど甘くなってくるわね。」
「それはクラーケンのフライですね。」
「これがクラーケンなの!?昔食べたとき、味なんて無かったし、噛み切るのも辛かった記憶があるわ……。」
「多分それは、倒してすぐだったからじゃないですかね?それか、生きてる状態で噛みついたか……。」
「あ、そうそう。たまたま水面に浮かんでたクラーケンに噛みついたのよ。あの時以来、クラーケンはもう食べないつもりだったけど、こんなに美味しいなら全然ありね。」
大口で凄まじい勢いで料理を平らげていくサファイアドラゴンを見て、ミカミさんが唖然としながらポツリと言った。
「わぉ、さすがドラゴンって感じ……グレイスちゃんに負けず劣らずの食べっぷりだね。」
「いやぁ、でも気持ちはわかるっすよ。ヒイラギさんのご飯を1回食べたら、二度と野生に戻れないっす。美味しいと思ってたオークの価値観も変わっちゃったっすからねぇ。」
そんな会話をしているうちに、サファイアドラゴンはあっという間に目の前にあった料理をすべて食べ終えてしまった。
「はふ〜……美味しかったわ。」
「美味しく食べてくれて良かったです。満腹ですか?」
「ん〜、まぁ腹八分目ってところだけど、美味しかったから満足ね。」
ポンポンと自分のお腹を両手で叩くと、彼女はジッとこちらを見つめてくる。
「ただ、アナタが作る食べ物は気に入ったわ。今日みたいにこのワタシ……サファイアドラゴンのラン様に美味しい食べ物を貢ぐというのであれば、見逃してあげてもいいわよ?」
魅力的な提案だが、この提案は受け入れることはできない。俺には料理を作らなきゃいけない人たちがもういるからな……。
「ごめんなさい。その提案は受けられません。」
「なんでよ。」
「俺には他に料理を作らなきゃいけない人たちがいるんです。」
すると彼女は俺以外のミカミさん達に順番に視線を向けた後、納得したように一つ溜め息を吐き出した。
「まぁいいわ。美味しい食べ物をもらったから今日は引いてあげる。ただ諦めたわけじゃないから、その辺は理解しときなさいよね。」
少しツンと不機嫌そうにしながら、彼女はそっぽを向くと、この場を後にしてしまった。綺麗に食べられたお皿を片付けていると、ミカミさんが話しかけてきた。
「柊君、キミはなかなかの策士だね。」
「どういう意味ですか?」
「あのサファイアドラゴンの子……ランちゃんって名前みたいだけど、あの子……もう普通の食生活できないでしょ。今日柊君が作った料理は、肉料理がメインだったよね?副菜みたいな感じでサラダとか、ちょっとしたお魚の料理もあったけどさ。」
「そうですね。今回は肉料理を中心に作りました。」
「それはドラゴンの食生活を意識したんじゃない?」
ミカミさんの言葉は的を射ていた。特に否定する理由も無いので頷くと、ミカミさんはニヤッと笑った。
「グレイスちゃんも言ってたけど、あの子もう普通の食生活には戻れないと思うよ。あれだけちゃんとした料理の味を覚えちゃったら、もう生肉とか食べれないでしょ。」
「それが狙いです。胃袋を掴めたら襲われなくなるかなって思ったので、ドラゴンの食生活をちょっと意識しながら、腕によりをかけて作ったんです。」
「なるほどね~、これは明日からあの子の反応が楽しみだなぁ~。どのぐらいで音をあげるかな~。」
翌日、またギルドを訪れてみると、サファイアドラゴンの彼女が販売されているケーキとにらめっこをしている姿が目に入ったので、バレないようにそっとその場を後にした。
またまたその翌日、今日は営業が無い日だけど一応ギルドを覗いてみると、やはり彼女の姿はあった。必死にギルドの中を見渡して誰かを探しているようだったので、視界に映らないようにギルドから立ち去った。
さらに翌日……ギルドに赴いてみると、ドーナさんに拘束されている彼女の姿を目撃した。
「あ、今日は拘束されちゃってる。」
「そろそろ限界っぽいので話しかけてみましょうか。」
ドーナさん達のところに歩み寄ると、サファイアドラゴンは俺の姿を見るなり大声を上げた。
「あぁっ!!やっと見つけたわよヒイラギッ!!」
「やっぱりアンタ、ヒイラギを狙ってたんだねぇ。」
「もう別に報いを受けさせようとか思ってないわ!!ねぇ、お願いだからまたごはん食べさせて?あなたに食べさせてもらったごはんの味を思い出しちゃうせいで、もう魔物を食べても美味しくないのよぉーーーっ!!」
駄々をこねる子供のように、縄でぐるぐる巻きにされている彼女は床をゴロゴロと転がった。そんな彼女を見下ろしながら、ドーナさんはこちらに視線を送ってくる。
「って言ってるけど、どうするんだい?」
「拘束を解いても大丈夫ですよ。多分襲い掛かってこないと思いますから。」
そして拘束が解かれると、彼女は猫のように跳躍し、こちらを押し倒してきて必死に体の匂いを嗅いでくる。
「美味しそうな匂い……ワタシはこんなにお腹を空かせてるのに、アナタ達は良いごはんを食べてたのね。」
「まぁ、否定はしませんよ。」
「……で、ごはんくれるの?」
「良いですけど条件があります。」
「何よ。」
「はいは~い、それに関しては私から説明させてもらうよっ。」
彼女の顔の前に飛び出したミカミさんは、予め話し合って決めていた条件を彼女に話していった。
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