第215話 ドラゴンの弱点
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全身から力が抜けてしまったらしい彼女は、生まれたての小鹿のようにプルプルと体を小刻みに震わせて地面に伏してしまう。
「ちょ、ちょっと!!ワタシの逆鱗っ、乱暴に扱わないでくれるかしら!?」
「へ?逆鱗?」
「柊君、ほら……ちょうど親指でぎゅって押さえつけてるところ、他の鱗と形が違って、ハートっぽい形してる。」
「あ、本当ですね。」
それに今気づいたけど、他の鱗と違って、この逆鱗っていう鱗だけぷにぷにしてて、なんか触り心地が良い。親指で触り心地を確かめていると、彼女の体がそれに合わせてビクビクと震える。
「うっ、あぅぅ……んんっ!や、やめなさいよぉ。に、人間に辱められるなんて……ほ、ほんっとうに、さ、最悪……うっ!!」
「……なんかエッチ。」
「ミカミさんボソッとそういうこと言わないでください。」
ただでもこの状況どうしようかな……。この逆鱗を触ってる限り彼女は動けないみたいだけど……多分この手を離したらすぐにでも襲い掛かってきそうだから、手を離すわけにもいかないんだよなぁ。
膠着した状況の中、ミカミさんが彼女へと質問を投げかけた。
「ねぇねぇ、キミさっき自分のことをサファイアドラゴンだって言ってたよね?」
「う゛ぅ~~~、そ、そうよ。」
「じゃあキミがここにあった旧シュベール街を壊滅させたドラゴンなの?」
「そ、そんなの知らないわ。ワタシ、つい最近ここに縄張りを移したばっかりだったのよ。」
「ふぅん、噓は言ってないみたいだね。じゃあもう一つ質問。今ヒイラギ君に逆鱗を触られてるわけだけど、どんな感じ?」
「ど、どんな感じって……うぅ、せ、背筋がずっとぞわぞわして、頭の中にパチパチって電気みたいなのが走って……と、とにかく変な感じよっ!!」
「う~ん?つまり気持ちいいってこと?」
「う゛ぅ……そんなのわかんないわよぉ。」
半ばやけくそ気味に答える彼女の様子を見て、ミカミさんはくすくすと笑う。
「ねぇ、もういいでしょ?あなた達に危害は加えないって約束するから。その手を離して?ねっ?」
「どうしますミカミさん?」
「その言葉が本当なのかわかんないし~、この際だから気絶するぐらい揉み揉みしてあげたほうが良いんじゃない?」
「ちょ、う、嘘じゃないわ。手を離した瞬間に首に噛みついてやる~とか、ぜ、全然考えてないから!!」
「……だってさ柊君。」
「今のは俺でもわかりましたよ。それじゃあ、申し訳ないけど、身の安全のために……。」
「ちょまっ……じょ、冗談だったのよ?あはは、じょ、冗談……。うぅ……もういやぁーーーーっ!!」
慟哭のような叫び声を聞いて、少々の罪悪感に駆られながらも、俺は自身の安全のために彼女の逆鱗をこねくり回すように念入りに揉み込んだのだ。
1時間ほどサファイアドラゴンだという彼女の逆鱗部分を揉みほぐすと、すっかり反応がなくなってしまった。
「ん〜っ、久しぶりに容赦なかったね柊君。」
「罪悪感はずっとあったんですけど、手を離したら本当に噛みつかれそうだったので……無我夢中って感じでした。」
「まぁ、実際のところ、手を離したら攻撃してきただろうし……今回は仕方ないね。で、どうする?この子に皮もらう?」
「い、いやぁ……それはさすがに気が引けますね。余計この姿だと……。」
全身にびっしょり汗をかいて、ぐったりと地面に横たわる彼女にちらりと視線を向けながら、俺は首を横に振った。
その時、マジックバッグから突然手が飛び出してきた。
「いったたた……何が起こったんだい。」
「あ、ドーナさん!!大丈夫ですか?」
「ん、とりあえず大丈夫だよ。アタシの体は頑丈だからねぇ。ただちょっと頭がクラクラするぐらいさ。」
頭に手を置きながら、ドーナさんはマジックバッグの中から這い出してくると、地面にぐったり横たわるサファイアドラゴンへと目を向けた。
「ところで、コイツ……いったい何者だったんだい?翼も尻尾も生えてるし、明らかに普通の人間じゃあないよねぇ。」
「あ、それなんだけどね。この子、サファイアドラゴンっていうドラゴンみたいだよ。」
「サファイアドラゴン?ってことはコイツがこの近辺で目撃されてたドラゴンで間違いないねぇ。……ヒイラギが倒したのかい?」
「倒したっていうか何ていうか……これは色々と説明が必要で。」
ドーナさんに事の経緯を説明すると、納得したように彼女は1つ大きく頷く。
「なるほどねぇ、ドラゴンの逆鱗……希望を抱かせるための噂話かと思ってたけど、ホントにそんなのがあるんだねぇ。」
無造作にドーナさんは横たわるサファイアドラゴンの尻尾を持ち上げ、付け根のところにあるハート形の逆鱗を指で擦った。
「ん?なんだいこれ……この鱗のところだけ、ふにゃふにゃじゃないか。」
「あ、それは揉みほぐしすぎたせいで……最初触ったときはもう少しプニってしてました。」
「ほ〜ん……。」
ドーナさんがその逆鱗を揉んでいると、突然意識がなかったサファイアドラゴンが目を覚ました。
「いたたっ!?ちょっと、今度は何なの!?」
「あ、起きた。」
「アンタ、触り方が雑ッ!!そんなに力を籠めたら痛いでしょうがっ!!」
ドーナさんが逆鱗に触れているのに、何故か彼女は動くことができたようで、その尻尾の先端でドーナさんの頬をパシンと打った。思わぬ反撃で、一瞬ドーナさんの手が尻尾から離れたところで、サファイアドラゴンは俺達から一気に距離を取る。
そして彼女は俺のことをキッと睨みつけると、こちらを指さしながら言った。
「そこの人間のオスっ、名前は覚えたわよ。」
「えっ?お、俺ですか?」
「当たり前でしょ!!このワタシをあんなに辱めた報いは必ず受けてもらうわよ……ヒイラギッ。で、でもきょ、今日は見逃してあげるわ。とっととここから去りなさい。」
「は、はぁ……。それじゃあ、行きましょっか。」
プンスカ怒っているサファイアドラゴンに背を向けて歩き出すと、本当に今日のところは見逃してくれたらしく、俺達はその場から安全に避難することができた。
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