第213話 旧シュベール街までの道のりで……
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数時間後、俺とドーナさんは旧シュベール街へと向かっていた。移動はもちろんグレイスにお願いしたのだが、今回は何を思ったのかドーナさんも一緒にグレイスに乗ってみたいとのことだったので、今現在一緒にグレイスの背中に跨っているのだが……。
「ひゃぁぁぁぁっ!?もも、もうちょっとスピード落として飛んでくれないかい!?」
こんな高度をこんなスピードで飛ぶなんてことはドーナさんも経験が無いらしく、必死に俺の背中にしがみついて、絶叫していた。
「え、こ、これ以上遅く飛ぶっすか?今も風に乗ってるだけなんすけど……。」
「ど、ドーナさん、やっぱりマジックバッグの中に入ってた方が良かったんじゃ……。」
「こ、ここで動けってのかい!?ちょ、ちょっと動いたら落ちちまうよっ!!」
真下を恐る恐るちらりとのぞき込んだドーナさんは、さぁ~っと表情を青くすると、俺の体の骨がミシミシと音を立てるほど強く抱きついてくる。今にも骨が折れそうだ。
「こひゅっ……。」
強制的に肺から空気が抜けていくような不思議な感覚に襲われていると、ドーナさんの注意がそっちに向いているのをいいことに、ミカミさんが耳元でこそこそと囁いてくる。
「柊君、これって吊り橋効果が期待できるんじゃない?」
「そ、その効果が現れる前に俺の全身の骨が粉々になりそうなんですけど……。」
「あはは、私があげた肉体強化のスキルが無かったら、背中に当たる柔らか~いものの感触を味わう前にぺちゃんこだったかもね。」
「うぐぐ……そ、そんな悠長なこと言ってられるのミカミさんだけですよ。」
このミシミシという音が、いつボキッという音に変わるかわからない。そうなる前に地上に降りないと……。
俺はグレイスの耳元でぼそりとあることを囁いた。すると本当にいいのかとグレイスが俺に問いかけてくる。
「い、いいんすかヒイラギさん?」
「お、俺の限界が近いんだ。ど、ドーナさんのことは俺が何とかする。だから早く頼むっ。」
「りょ、了解っす!!」
グレイスが俺の指示に従う前に、俺はドーナさんの方に視線を向ける。そして頭で考えた魔法を発動させた。
「と、とまれ。」
そう言った瞬間、ドーナさんの体の震えがピタリと止まり、まるで石像のように動かなくなった。それを見たミカミさんが、俺が何をしたのか察したらしく口を開く。
「ん、これは、もしかしてドーナちゃんの時間を止めた?」
「正解です。解除したときには地上に着いているようにしてあげようと思って……。」
「その対処は正解かもね。正直なところ、私も柊君の骨がミシミシ音を立ててるのを側で見てて、不安だったからね。」
その直後、グレイスが一気に加速し彼女が出せる最高速度で、目的地の旧シュベール街の方へと飛んでいく。するとものの数分で大きな湖の湖畔に着いてしまった。
「ん~っ、思いっ切り飛ぶのはやっぱり気持ちがいいっすねぇ~。自分の装備ができたら毎回こんな風に飛んでも良いっすか?」
「装備の出来次第って感じだ。」
期待で胸を膨らませているグレイス。まぁ空の旅の安全が確保されたら、こんな風に飛んでも構わないけど、できれば安全運転が良いなぁ。そんなことを思いながらも、俺は未だに背中にしがみついて固まっているドーナさんの方へと視線を向けた。
「えっと、解除。」
そう呟いた瞬間、ドーナさんの時間が動き出し、一瞬強く抱きしめられる。
「うっ!?」
「あっ……あれ?ここは……地面!?さ、さっきまでアタシ空に……。」
「つ、着きましたよドーナさん。」
そう声をかけると、ドーナさんは一瞬で冷静な思考にもどり、ハッとなって俺の体から離れて謝ってきた。
「ご、ごめんよヒイラギ。あ、アタシ……全力でしがみついてた。け、怪我はないかい?」
「何とか大丈夫です。」
あわあわしているドーナさんに、俺は落ち着いた声で答えを返すと、彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「よかったよ……。」
ドーナさんがホッとしていると、シアが俺の横を走り抜けて、湖の波打ち際の方に近づいていく。
「お魚さんいるっ!!」
「シア、ここはもう危ない場所だから、俺達から離れないようにな?ほら、手を繋いでいよう。」
「うんっ!!」
シアと手を繋ぎながら、俺は改めて湖の方へと視線を向けて見渡してみた。すると、湖のいたるところに苔の生えたレンガのようなものが散らばっているのが見えた。
「もしかして水底に転がってるレンガって……。」
「旧シュベール街の遺物さ。湖の中心に行くと、もっとはっきり建物っぽいのが沈んでるのが見えるらしいよ。まぁ、ここで船を出すような勇気のあるやつはいないだろうから、真実かはわからないけど。なんせ、旧シュベール街が滅んだのは100年以上前の話だからねぇ。」
「もうそんなに前になるんですね。」
「だからアタシも当時の詳しいことはわかんない。文献でちょろって見ただけだよ。」
「……でも、今のところドラゴンがいるような感じはしないですよね?」
「油断はできないよ。ひとまず現地調査がてらこの辺を見て回ってみようか。」
「わかりました。」
俺はドーナさんと一緒に湖の外周を回りながら、周囲にドラゴンがいないかどうか確認していった。
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