第203話 オークの角煮
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オークションの行く末を見終えた後、蜻蛉返りするように王都からエミルへと戻り、鍛冶屋へと赴いた。そしてオーダーしていたものを受け取り、宿へと戻る。
「ふぅ~……やっと帰ってこれた。」
どっかりと椅子に腰かけると、シアがよじ登るように膝の上に座ってきた。
「ヒイラギお兄ちゃん、シアお腹空いた~。」
「ん、そろそろ夕ご飯の時間だもんな。今日の夜ご飯はもう仕込んであるから、すぐ用意するからな。」
ぽんぽんとシアの頭を撫でてから、俺はキッチンに立った。そしてマジックバッグから蓋がしてある鍋を取りだした。蓋を開けるとその中には肉の塊がゴロゴロと入っている。これはこの前倒したオークの肉を煮込んでいたものだ。ミカミさんが角煮を食べたいって言ってたから、数日にわたって肉が柔らかくなるようにじっくりと煮込んでいたのだ。
「そろそろ頃合いだと思うんだけど……。」
温めた肉を試しに取り出して、柔らかさを確認してみると箸を当てた瞬間に肉汁が溢れ出し、ほろりと崩れる。
「うん、もう大丈夫だな。」
オークの角煮をゴロゴロと皿に盛り付けて、一緒に煮込んでいた大根のような野菜のワディッシュと、鶏の卵も一緒に盛り付けて、みんなが待っている食卓へと運んだ。
「はいお待たせ。」
「あっ!!角煮来た~っ!!これが食べたかったんだよ~。」
「かくに~?」
角煮という料理の名前にシアが首を傾げている。
「角煮って言うのは、こういう風にバラ肉をじっくりと柔らかく煮込んだ料理のことなんだ。多分、今まで食べたことが無いぐらい柔らかくなってるから、期待していいと思うぞ。」
「柔らかいお肉楽しみ~っ!!」
山盛りの角煮と一緒に、炊き立てのご飯とみそ汁をみんなの前に並べて俺も席に着いた。するとミカミさんがちょんちょんと肩をつついてくる。
「柊く~ん。私、角煮を食べるならお酒と一緒に食べたいなぁ~?」
「何を飲みますか?やっぱり日本酒にします?」
「いやぁ~日本酒もいいかなって思ったんだけど、今日は気温も高かったし、ビールが良いなぁ。」
「わかりました。」
魔法瓶でビールを呼び出して、グラスの中に注ぎ、泡3割液体7割の割合でミカミさんに手渡した。その時俺は過ちに気付いた。
「あ、すみませんミカミさん。癖で普通のグラスに注いじゃいました。」
「あぁ構わないよ。このストローがあればこれでも飲めるからね。」
ミカミさんは妖精用のストローをグラスに差し込んでにこりと笑ってくれた。
「さ、食べよう食べよう。私はこの時を待ち望んでいたからね。もう我慢の限界だよ。」
「そうですね、温かいうちに食べましょう。」
ミカミさんに促されるがまま手を合わせ、いつもの食前のあいさつをする。
「いただきます。」
「「「いただきま~す!!」」」
早速俺もオークの角煮を口の中に頬張ると、じゅわっと甘辛い肉汁が溢れ出し、脂身はトロリととろけ、肉はホロリと口の中で解けていく。これはご飯が止まらない。
俺がご飯を食べる手が止まらなくなってしまったように、他のみんなも角煮を頬張り、ご飯を食べ、あっという間にご飯茶碗を空にしてしまっている。
「お兄ちゃん、おかわりっ!!」
「自分もおかわりが欲しいっす!!」
「ご主人様、私にもおかわりをお願いします。」
「はいはい、ちょっと待ってな~。」
「あ、柊君。私にはビールのおかわりを頼むよ。」
「このグラスに注いで良いですか?」
「うん、構わない。」
みんなのご飯と、ミカミさんの分のビールを注いで食卓に戻ると、明らかにさっきよりも角煮の量が減っている。
「ほいっ、おかわりお待たせ。」
「お兄ちゃんありがと~!!」
「これで食欲倍増っす!!」
ご飯を受け取った瞬間からまたみんなの食欲が高まり、あっという間に盛り付けていた角煮がみんなのお腹の中に消えていく。
みんながお腹いっぱいになるぐらいの量の角煮をもう一度盛り付けて、俺は角煮がまだ残っている鍋を持ち部屋を出た。そしてミハエルさん達が泊まっている部屋の扉をノックした。
「は~い、どなたですの?って、あなたでしたのね。」
「やぁリタ。夕食はもう食べた?」
「今日はまだですわ。家族みんなで宿題に全力で取り組んでいたところでしたの。」
「そうだったんだな。頑張ってるようでうれしいけど、しっかりとご飯は食べなきゃダメだぞ?それに明日は営業もある。今日は明日に備えて夜更かしはしないようにな。」
「う、み、見透かされてましたわ。」
「そういうわけで、こっちで食べてた夕食が余ったからおすそ分けだ。これ食べて明日も元気によろしく頼むな。」
「まぁ良いんですの!?」
「あぁ、ミハエルさん達にもよろしく伝えておいてくれ。」
リタに角煮とご飯を渡して部屋に戻る、すると思った通りみんなお腹をポッコリと膨らませて、幸せそうな表情で椅子にもたれ掛かっていた。
「お帰りヒイラギ君。リタちゃんの様子はどうだったかな?」
「宿題を頑張ってくれてるみたいです。明日も営業があるから夜更かしはしないようにって言いつけて帰ってきました。」
「うんうん、結構結構。頑張りすぎて体を壊されちゃ困るからね。あ、ちなみに柊君、私はまだ満足してないから晩酌に付き合ってね。」
「あはは、わかりました。じゃあ何かつまめるものでも作りますね。」
ミカミさんと晩酌するために俺は再びキッチンに立つのだった。
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