第2話 因果応報
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怒りで目を血走らせながら、今にも殴り掛かりそうな勢いで料理長は黒井さんに詰め寄っている。
「なんでオレが解雇なんだァ?どういうことだ黒井ィッ!!」
「それは、千葉君自身が良く分かっているんじゃないかな。」
「アァッ!?どういうことだこの野郎ッ!!」
黒井さんは、料理長が掴んでいた手を軽く払いのけると、足元に落ちていたぐしゃぐしゃの解雇通知書を拾い上げ、わざわざそれを広げて読み上げた。
「千葉君の解雇理由は以下の通りだ。まず1つ、定められた出勤時間をこの1か月間一度も守らなかった。」
「はっ、タイムカードはしっかり出勤時間に押してあるはずだ。」
「それは柊君を無理やり従わせて押させていただけだろう?防犯カメラの映像にも、千葉君が毎日遅刻して出勤して来ているのは収められている。」
「ぐっ……。」
次を読み上げる前に、黒井さんはこちらに視線を向けてにこりと笑った。まるで、何も心配しなくていいと言ってくれているようだ。
「2つ、労働の怠慢。千葉君、君の仕事はスマートフォンを弄ることか?そんなことは契約書には書いてない。君の仕事は、お客様が満足する料理を作り、若手の料理人を育成することだ。」
「…………。」
黒井さんが淡々と読み上げているが、料理長はそれに何も言い返せないでいる。黒井さんの言っていることが正論すぎるんだ。
「そして最後の3つ目……従業員へのパワハラとセクハラ。千葉君、君が毎日のように柊君に不必要な叱責や暴力を振るっていたことも、店の防犯カメラに写ってるよ。」
「そ、それは……きょ、教育だ。」
「ふむ、挨拶に対して暴言や暴力で返すのが教育?そんな教育は聞いたことがないな。それで若手の成長が促進されたというエビデンスは?」
「そ、そんなのねぇよ!!このオレが、それが一番成長の近道だと思ったんだ!!」
「何の根拠もない理論を振りかざすのはやめたほうが良い。学が無いのが透けて見えるようだ。」
「ぐぅぅ、じゃ、じゃあセクハラは何なんだよ!!そんなことはやってねぇぞ!!」
最後の抵抗とばかりに料理長は吠える。すると、俺の隣にいた水上さんが、にっこにこの笑顔で黒井さんの横に立った。
「見苦しいですよ千葉君。」
「なっ、み、水上ぃ……。」
見下されていることが気に食わないのか、料理長は水上さんのことをぎろりと睨みつける。
「水上?さんをつけるのを忘れていませんか?」
「あぁッ!?」
「つい先月……この料理店のオーナー黒井さんは、とある会社との合併に了承してくれました。その存続会社がミカミコーポレーションって名前の会社なんですよね~。」
「そ、そんなの知らされてねぇぞ。」
「いえ、確かに先月の給料日に黒井さんからその旨を伝えられたはずです。口頭でも文章でもね。」
水上さんがチラリと黒井さんに目を向けると、黒井さんは服の内ポケットからぐしゃぐしゃに折れ目が付いている紙を1枚取り出した。
「これは先月、千葉君の給与明細に同封していたものです。給与明細書と一緒にゴミ箱に無残に捨てられていたのを回収しました。」
その紙には、これからこの料理店は、ミカミコーポレーションという会社が経営、運営していくことになったと書いてある。
「さて、答え合わせの時間で~す。ミカミコーポレーションと合併した直後に、私……水上がウェイトレスとして働きに来ましたけど~、これは偶然でしょうかねぇ~?」
表情をどんどん青ざめさせていく料理長……それにさらに追い打ちをかけるように、水上さんはあるものを取り出した。
「あ、ちなみにこれは私がセクハラをされたときに着ていた衣服です。あえて洗濯せずに保管してあります。」
「うっ……。」
「ズボンのお尻のところについてる指紋とかを調べれば、一発でセクハラの証拠が挙がりますけど、まだ認めませんか?千葉君。」
黒井さんに用意してもらった椅子にもたれ掛かりながら、異様な威圧感で料理長を問い詰める水上さん。
今の今までの流れで、十分すぎるぐらいの情報が得られた。俺たちが今までただのウェイトレスだと思っていたこの水上さんという人物は……ウェイトレスという化けの皮を被った、ミカミコーポレーションという会社の社長だったのだ。
何も物を言えなくなった料理長へ、水上さんが逆に詰め寄った。
「パワハラ、セクハラ、契約違反……これらで千葉君を訴訟するには十分すぎる証拠が挙がっています。でもすぐに訴訟しないのはなぜか?それは良くも悪くも、柊君を育てるという仕事を全うしたからです。いわゆる情けってやつですね。」
そう言いながら水上さんは、にっこにこの笑顔のまま、料理長に向かって最後の通告を出した。
「今すぐ荷物をまとめて、ここから消えてくれるかな?そうすれば今までのことには目を瞑ってあげる。」
「ぐっ……テメェら覚えてろよ!!」
そう捨て台詞を吐いて、料理長は本当に自分の荷物をすべてまとめて、逃げるように出ていってしまった。
それを水上さんと黒井さんと一緒に眺めていると、水上さんが黒井さんにあるものを要求した。
「黒井君、煙草を一本貰えないかな。」
「店内は禁煙ですよ水上社長。」
「わかってるよ。軽く外で一本吸うだけさ。」
そして水上さんが煙草を一本咥えると、すかさず黒井さんがそれにライターで火をつけた。火のついた煙草を1回大きく吸ってから、水上さんは俺の方ににっこりと笑いながら振り向いてきた。
「すまないね柊君。キミにはずいぶん過酷な環境だった。」
「い、いえ……大丈夫です。」
「おっと、私としたことが、改めて自己紹介をしておかなきゃね。」
水上さんは煙草を咥えながら、胸ポケットから名刺を取り出してこちらに差し出してきた。
「改めまして、ミカミコーポレーション代表取締役社長の水上彪だ。以降よろしく頼むよ。」
「あ、よ、よろしくお願いします。しゃ、社長。」
「あっははは、今まで通り水上さんと呼んでくれていいよ。これからも変わらず、私の職場はここだからね。」
そう笑いながら水上さんはコンコンと足で地面を叩いた。
「え?それは……どういう?」
「これからも私はここのウェイトレスとして働くってわけさ。そういうわけだから、これからもよろしく頼むよ。」
状況が理解できずにいると、水上さんは煙草を一本吸い終えて、ぐ~っと大きく背伸びした。
「さ、会社の癌は取り除いたし、今日はパ~っと飲みにでも行こうか。もちろん柊君も同伴だよ?社長命令ってや~つ。」
「水上社長、それアルハラです。」
「うげ、今の社会は難しいなぁ~。」
「い、いえ是非ご一緒させてもらいます。」
「おっ、そう来なくっちゃね~。じゃあ行こうか。」
パンパンと水上さんが手を叩くと、レストランの裏にある駐車場から高級感漂うリムジンがゆっくりと走ってきて目の前に停まった。
いったいどこに連れていかれるのか緊張しながらも、俺はそのリムジンに水上さんに押し込まれるようにして乗せられてしまった。
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