第178話 ミカミの願い
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あの後、夜ももうだいぶ更けていたため、あの場で一度解散となり、俺達はカリンさんが用意してくれた宿へと戻り、朝を迎えることとなった。
そして朝になった今……ふと体に重さを感じて目を開けると、いったいなぜここにいるのか、カリンさんとバッチリ目が合った。
「おはようなのじゃ、ヒイラギ殿。」
「か、カリンさん?あの、どうしてここに?」
「そなたは我が国を救った英雄じゃ。しかしながら、ヒイラギ殿の性格的に、大々的に名を知られるのは避けたいのではないかの?」
「ま、まぁあんまり自分で解決したって実感もないですし……。そ、それと今の状況とその話関係あります?」
「もちろん大有りじゃ。ワシとしては、国を救った英雄のヒイラギ殿を崇め奉り……エルフ全員からの感謝を受け取ってほしい。しかし、それはヒイラギ殿の望むことではない故できぬ。ならば、せめて全エルフを代表して、ワシから感謝を伝えたい。と、ここに参った所存じゃ。」
「は、はぁ……。」
寝起きで回らない頭を無理やり動かして、今の状況を整理していると、カリンさんがニヤリと笑って、ズイッと顔を近づけてくる。
「とは言え、感謝だけ伝えられても嬉しくはなかろう。そういうわけで、ヒイラギ殿にはワシから褒美を授けたい。……というわけでじゃ、そなたはワシに何を望む?無論、何を望んでも構わんぞ。この国にあるものであれば、何でも……な。」
そう言うとカリンさんは自分の顔を指差す。
「ワシ自身を望んでも構わぬ。まぁとうの昔に食い頃は過ぎておるが……。」
シュルリと音を立てて、カリンさんは着ていた服をすこし脱ぎ、真っ白な地肌を露出させる。
「だだだ、大丈夫ですっ!!何も要りませんから!!」
服を脱ぎ始めてしまったことに焦り、俺はすぐに体を起こしてカリンさんの服を着直させた。すると、カリンさんは少し残念そうな表情を浮かべる。
「むぅ……やはりピチピチの若者の方が好みかの?」
「い、いやそういう問題じゃないです。」
そんなやり取りをしていると、俺が体を起こしたばっかりに、ベッドに放り出されてしまったミカミさんが起きてしまう。
「ん〜……柊君、どうしたの?……ってあれ?カリンちゃん?何でここに?」
「ヒイラギ殿にお礼をしたくてやって参ったのじゃ。」
「なるほどね。……これ私の勝手な妄想でしかないんだけど〜、カリンちゃんさ、もしかして自分をお礼として受け取ってもらおう……って魂胆じゃないよね?」
ミカミさんの的確な読みは、ズバリ当たっていて、カリンさんは滝のように冷や汗を流し始めた。
「も、もちろん違うのじゃ〜。ヒイラギ殿はお礼として何を望んでいるのかの〜?と気になって昨晩寝れなかった故、朝一番で伺いに参ったのじゃ。」
「ふぅ〜ん?まぁ、私個人の意見を率直に述べるなら〜……。」
ミカミさんは、カリンさんの反応を見て何かを確信すると、コホンと一つ咳払いをした後に、パッチリとウインクしながら、握った拳の人差し指と中指の間から親指を出した。
「私としては大歓迎っ!!」
「おぉっ!!ミカミ殿っ!!」
ミカミさんなら、何か違う事を考えてカリンさんに伝えてくれるかと思ったけど、そんな事を期待した俺が間違いだった。
「というわけで柊君っ、早速カリンちゃんをお礼にもらおうか!!これで子孫には困らないね、ミカミさんは嬉しいよ……。」
もうカリンさんをお礼にもらうつもりで、何度も頷いているミカミさん。
「いやいや、ミカミさん……お礼は何も要らないって、もう断ったんですよ。」
「なっ、どど、どうして断っちゃったの!?」
ミカミさんは耳元に飛んでくると、必死になって考えを改めるように説得してきた。
「ひ、柊君。私がこの世界でキミに望んでいることが何かわかるかい?できれば血が途絶えないように、たくさんキミには子孫を残してほしいんだよっ!!」
「え?やりたいことをやって生きてほしかったんじゃ?」
「あ゛っ……。」
この世界に転生する直前、ミカミさんが俺に言ったお願いの言葉をボソリと言うと、ミカミさん自身もその言葉を思い出したみたいで、カチンと固まってしまう。
「それは……もちろんそうだよ。」
急に神妙な面持ちになると、ミカミさんはペコっと頭を下げて謝ってきた。
「ごめんよ柊君。私の勝手な願いをキミに押し付けそうになってた。」
「い、いや頭を上げてくださいよミカミさん。大丈夫ですから……。」
必死になってミカミさんを宥めていると、ようやく頭を上げたミカミさんは、フワフワとカリンさんの方へと飛んでいく。
「ごめんよカリンちゃん。やっぱり私は柊君の意見を尊重したいんだ。」
「い、いやまぁ別にそれは構わぬのじゃが……。」
「そういうわけで、カリンちゃん。今回お礼は要らないから、その話とは別に、まずは柊君とお友達っていう関係から始めるってのはどう?」
「恩人と友になれと?」
「うんうん、まずはお友達っていう関係を経て、それから恋仲になって〜……最終的には夫婦に?」
「なるほどの、夫婦になるまでにそういう流れがあるんじゃな。この580年間、そういう経験はなかった故、知らなかったのじゃ。」
どうやらミカミさんは、今俺がお礼は要らないと言ったことは納得したようだが、さっき言葉に出てきた、子孫を残してほしいという、ミカミさんの個人的な願いはどうしても諦めきれていないらしい。
そして俺に聞こえないように、ミカミさんに何かを耳打ちされたカリンさんは、少し恥ずかしそうにしながら、慣れていない上目遣いでこちらに手を差し出してきた。
「さ、先程はすまなかったのじゃ……。お礼は無理に強要はせぬ故、わ、ワシと友になってはくれまいか?……だ、駄目かの?」
「……わかりました。」
俺はチラチラと必死に顔色をうかがってくるカリンさんの手を握り返した。
ミカミさんとカリンさん。2人の意思を尊重するには、ここで俺がカリンさんの手を取るしかない。そう思ったんだ。
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