第174話 薬湯でのおもてなし
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世界樹の研究施設でいろいろと実験に付き合わされた後、カリンさんに例の薬湯というものに浸かって行けと誘われたけど、せっかくの温泉ならシア達もミハエルさん達も連れてきたいと思ったので、そのことを伝えると、カリンさんは快く了承してくれた。
それから一度エミルへと戻り、ミハエルさん達のことを手伝って、今日の分の営業を終わらせた後、みんな一緒にカリンさんにエルフの国へと連れてきてもらった。
「こ、ここがエルフの国なんですね。」
世界樹の方を見ながら、ミハエルさんが物珍しそうに言った。
「ミハエルさん達は来るの初めてですか?」
「エルフの国の審査はすごく厳しいことで有名で……一度私も家族と観光したくて、申請を出したことがあるんですが、その時は断られてしまったんです。」
「フィースタのことじゃ、恐らく人間の貴族がただ観光のために来るとは思えなかったのじゃろう。何か裏があるのではないかと勘繰り、結果拒否した……と言ったところじゃな。ま、ヒイラギ殿が信用しているのであれば問題は無いのじゃ。」
そしてカリンさんの案内で道を進んでいくと、一軒の建物が見えてきた。その建物の奥からは湯気がモクモクと天へと向かって昇っている。
「あそこが薬湯じゃ。今の時間は貸し切りにしてある故、思う存分湯に浸かって疲れを癒すと良い。」
建物の中に入ると、すぐに男湯と女湯を区切る入口と、もう一つ……専用と書かれた入口があった。
「さて、ヒイラギ殿とミカミ殿以外は男湯と女湯の入り口に従って進むと良い。」
「あ、あのカリンさん、俺は?」
「ヒイラギ殿とミカミ殿は専用部屋じゃ。」
カリンさんの言葉に従って、俺とミカミさん以外の人々は、各々自分の性別専用の暖簾をくぐって中に入っていった。それを見送った後、カリンさんがニヤリと笑ってこちらを向いた。
「さぁて、要人には特別待遇を受けてもらわねばならんからな。ヒイラギ殿とミカミ殿にはこちらに入ってもらうのじゃっ!!」
ぐいぐいと背中を押されて、専用と書かれた暖簾をくぐると、そこには普通の銭湯と同じくまずは脱衣所が広がっていた。
「さきほどヒイラギ殿は自分の裸を他人に見られたくはないと言っておったからな。ここはワシが少々力添えしよう。」
パチンとカリンさんが指を弾くと、俺の着ていた服が一瞬で湯浴み衣装に変わってしまう。チラリとミカミさんの方を見て見ると、ミカミさんも湯浴み衣装に着替えさせられていた。そしてカリンさんの方に視線を戻すと、カリンさんも湯浴み衣装に着替えていて、いつ来たのか、その隣に同じく湯浴み衣装のフィースタさんが控えていた。
「ヒイラギ殿とミカミ殿には、ワシら族長と副族長による接待を受けながら薬湯を楽しんでもらうぞ。もちろん断るなんてことはしないじゃろ?ん?」
「う、は、はいぃ……。」
「あっはっは、良かったじゃないか柊君。これも経験ってやつさ。」
愉快そうにケタケタと笑うミカミさんとは対照的に、俺はガッチガチに緊張しながら湯船の方に繋がる扉を開けると、ふわりとハーブのようないい香りの湯気が脱衣所に溢れ出してきた。
「あ、良い匂い……。」
「いろいろな薬効のある薬草を粉末にしたものを湯に浸してあるのじゃ。温泉自体の効能は疲労回復と、滋養強壮。それに薬草のエキスが温泉に溶けだすことにより、その効果が何倍にもなっておるのじゃ。」
ひとしきりカリンさんがこの薬湯というものについて説明してくれると、フィースタさんがスッとミカミさんの背後に立った。
「さ、ミカミさんは私がお背中を流させていただきますね。」
「わ~ありがと~。敏感肌だから優しくお願いね。」
「もちろんです。」
そしてミカミさんがフィースタさんと行ってしまったのを見送っていると、カリンさんがニヤリと笑ってこちらを向いた。
「もちろん柊殿の背中はワシが流すのじゃ。」
「あ、あの自分でやるっていう選択肢は……。」
「そんな選択肢はないのじゃ。」
ポンっとカリンさんに背中を押されると、いつの間にか足元にあった柔らかいマットにうつ伏せで体が沈みこんだ。すると、すかさずカリンさんが、俺の背中に体重がかからないように座った。
「さぁてと、まずは温かい湯を温泉から拝借。」
カリンさんがそう言った直後、温泉から水の塊がぷかぷかとこちらに運ばれてきた。
「では早速背中にかけるぞ~。熱かったらすぐに言うのじゃぞヒイラギ殿。」
「わ、わかりました。」
そしてその水の塊からちょろちょろと心地よい温度の水が流れ出して、背中を濡らしていく。それと同時進行で、カリンさんがわしゃわしゃと石鹸を泡立てていた。
「さ、背中を洗っていくのじゃ。体の力を抜いてたも。」
こんな状況でリラックスできるわけがない……そう思っていたんだけど、カリンさんがマッサージするように背中を洗ってくれると、すごく気持ちよくてすぐに体の力が抜けて、蕩けそうになってしまった。
「くっくく、心地よいじゃろう?これも何百年と培ってきた技術の一つであるぞ?さ、存分に味わうがよい。」
温泉に入る前に施されたカリンさんの背中を流すという体でのマッサージは、本当に溶けてしまうかと思うほど心地よく、思わず俺は目を閉じてしまった。
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