第171話 世界樹の芽増産
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カリンさんに例の世界樹の芽らしきものを見せると、彼女は表情を引き攣らせた。
「これの状態は分かっているが……念の為聞いておくぞ?これは世界樹の種を植えて、それから出てきた芽じゃな?」
「あ、良くわかりましたね。」
「葉の形が世界樹と全く同じじゃからな。」
1つ大きくため息を吐くと、カリンさんは俺とミカミさんを交互に見つめる。
「そなたらと出会ってからというものの、この580年の間に経験したことのない事ばかりで、退屈せんのじゃ。……して、どのような魔術で芽を出させたのじゃ?」
「え、特に何も特別なことは……。」
「ちょっと洗って土に埋めただけだよね。」
「そうですね。」
「そんな訳なかろうっ!!世界樹を増やす研究は、何百年も前から、ワシと我が子らの植物について博識な者達とともに進めていたのじゃ!!ただ洗って埋めるなんて方法は、一番最初にやって失敗しておる!!」
すると、カリンさんは何もない空間から、カラカラと音が鳴る何かが入った袋を取り出すと、テーブルの上に置いた。
「これは研究用に保管してある世界樹の種じゃ。そなたらがやった方法を、ワシに見せてみよ!!植木鉢も土もくれてやるのじゃ!!」
「わ、わかりました……。」
カリンさんは有無を言わせないとばかりに、こちらに世界樹の種と袋に入った土、植木鉢を手渡してくる。少し戸惑いながらも、世界樹の種を1個手に取った瞬間だった……。
「え?」
「なぁっ!?」
思わず驚いて素っ頓狂な声が漏れてしまった理由……。それは手に取った世界樹の種が植木鉢に植えてもいないのに、ビョコッと殻を割って芽を出したのだ。
「ば、馬鹿な……。」
唖然とするカリンさんを尻目に、ミカミさんはもう1個種をこちらに持ってきてくれた。
「もう1個やってみようよ柊君。」
「やってみますか……。」
もう1個……また1個と世界樹の種を手にしていくと、全部最初と同じくビョコッと種の殻を割って芽が出てきた。その光景を呆然と眺めていたカリンさんは、今にも口の中から魂が抜けそうになっている
「い、今ワシが見ておる光景は現実か?わ、ワシが世界樹のために歩んできた数百年は何だったのじゃ……。」
ぽつぽつと絶望したように言葉を口にしながらも、カリンさんは目の前で芽を出している世界樹の種へと再び視線を向ける。
「いったいどういう原理で芽が出たのじゃ?ヒイラギ殿が何か特別な魔法を使ったような痕跡はなかったのじゃ。」
カリンさんは説明しろという意味のこもった視線をこちらに向けてくるけど、これをやった当の本人の俺も何が起こっているのかわからない。
「あ、あのそんな視線を向けられても俺も何が起こっているのかさっぱりで……。」
「当の本人にもわからないのであればどうしようもないのじゃ。……もし可能ならば、ヒイラギ殿をワシらの国の研究機関で体の隅々まで調べたいところじゃ。」
「そ、それは遠慮したいですね。」
「厄介な病の早期発見もできるぞ?」
「え、それホント!?」
俺以上にカリンさんの言葉に食いついたのはミカミさんだった。ミカミさんは目をキラキラと輝かせながらカリンさんに詰め寄る。
「発見した病気ってその場で治療出来たりするっ?」
「無論可能じゃ。エルフを舐めてもらっては困る。現在判明しておる病の9割はわが国で完治可能じゃ。」
「おぉ~、素晴らしいね。」
満足そうにミカミさんは頷くと、俺の方に視線を向けてきた。
「柊君、1か月に1回ぐらいそれを受けてみるのはありじゃないかな?症状が出にくい病気にかかっちゃってたりしたら大変だし、それが原因で死んじゃうなんて洒落にならないよ。」
「ちょ、ちょっと過敏じゃないですかミカミさん?」
「い~やっ!!これは過敏なんかじゃない。」
ミカミさんは俺の耳元に近寄ってくると、俺にしか聞こえない小さい声で語り掛けてくる。
「柊君、キミのスキルの中には病気を無効化できるものは無いんだ。だからもし病気を早期発見できるならこんなに美味しい提案は無いんだよ。そもそも、どんなことがあっても私が柊君に渡したスキルは他人からは見えないんだからさ。」
「そ、そう言われると確かに……お得かもしれないですけど。」
「じゃ、そういうことでねっ!!」
軽く同意してしまったら、ミカミさんがそれを完全同意とみなしてしまったようで、ビュンとカリンさんの方に飛んでいく。
「カリンちゃん、それ受けるよっ!!」
「む、本当に良いのか?」
「その代わり、ちゃんと柊君の健康診断もやって頂戴ね?これ約束~。」
「うむ、エルフを束ねるものとして約束するのじゃ。では早速日程を組むとしようかの。」
「今日でも良いよ?」
「えっ!?」
「だって今日は特に美味しい依頼もないし~、お菓子販売の方はミハエル君達に任せてて大丈夫そうだし~……ねっ?」
「い、いやそう言ったってカリンさんの方にも準備が……。」
「ワシのことならば別に気にする必要は無いのじゃ。寧ろいつでも歓迎なのじゃからなぁ。」
興が乗ってしまったらしいミカミさんとカリンさんに、俺はまたエルフの国へと連れて行かれることになったのだった。
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