第166話 年の功
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早速、世界樹の果実の調理に取り掛かった俺は、 世界樹の果実を適当な大きさに切って、想像魔法で創り出したミキサーにかけてジュースにする。
「一先ずこれでよし。あとは……。」
またまた想像魔法を使い、さっき感じた色々な味を一つ一つ分離させるイメージを、頭の中で想像する。
「な、何が起こっているのじゃ!?これは……魔法なのか!?」
カリンさんが驚いている間に、俺が用意していた複数のグラスに、それぞれ違う味の世界樹の果実のジュースが注がれていく。
「ふぅ〜……よっし、できた。」
これで準備はできた。次は……………。
次の工程に移ろうとすると、突然カリンさんにガッチリと手を握られた。そして、サファイアのような青い目でこちらをじっと見つめてくる。
「え?」
「薄々勘付いてはおった……。そなた、天恵持ちじゃな?しかも複数のっ!!」
「て、天恵持ち?なんですかそれ?」
疑問に思っていると、肩に座っていたミカミさんがうんうんと頷きながら、カリンさんへと語りかける。
「カリンちゃん、キミ……柊君のステータスを覗き見たね?それで不思議だったんでしょ?魔法のスキルが1つもないのに、こんな風に魔法を扱うんだからさ。」
「それだけではない。そなたらの語り口も異であった。先ほど、獣人の童に語りかけておるとき……ワシの耳に入ったそなたの言葉はエルフ語じゃった。獣人に話しかけるのにエルフ語を使う者はおらんじゃろう?」
「なるほどね。いやぁ〜流石に鋭いなぁ。580年は伊達じゃないねカリンちゃん。」
「その語り口……まるでそなたの方が、ワシよりも歳を食っているように聞こえるのじゃ。」
「うん、そうだよ?正確な年数までは覚えてないけど〜……ま、キミの倍以上歳は食ってる。認めたくないけどね〜。」
ケタケタとミカミさんは笑うと、その様子にカリンさんが少し動揺を見せた。
「嘘を吐いている目ではない。スキルでも嘘を検知できんかった……。妖精がこの世に誕生したのは、エルフよりも後のはずじゃ。ならば、なぜじゃ!?どうなっておるのじゃ〜!!」
脳で理解できるキャパシティを超えてしまったらしく、カリンさんの頭から文字通り、しゅぅぅ……と煙が吹き出す。
「あっはっは、そんなに複雑なことじゃないと思うけどね〜。ただ、柊君と私はちょっぴり特別な存在……それだけのことでしょ?」
「ぐぬぬ……わ、ワシにはそなたらは随分この世の理の枠を超えた存在に見えるのじゃ。」
「ま、私達のことをどう捉えるのかはカリンちゃんに任せるよ。」
ミカミさんがそう言うと、カリンさんは頭からまだ煙を立ち昇らせながら、こちらをジッと真剣な眼差しで見つめてきた。
「か、確認しておきたいことがあるのじゃ。」
「何かな?」
「そなたらの事を人間の王は知っておるのか?」
「知らないと思うよ。第一、私達まだ会ったこと無いし……ねっ?柊君。」
「そうですね。知らないと思います。」
俺とミカミさんの両方の目を交互に見て、何かを確信したのか、カリンさんは深く息を吐き、俺の手を握っていた手を離して、近くの棚に寄りかかった。
「……それを聞いてほんの少し安心したのじゃ。」
どうやらこちらの言葉に嘘がないかを、慎重に見極めていたらしい。1つ大きく安堵の溜め息を吐いた後、またカリンさんはこちらに視線を向けてきた。
「最後にもう一つ確認させてほしいのじゃ。そなたらは、その力を乱を起こす為に振るえと言われれば……振るうか?」
「う〜ん、私は別に乱を起こせるような大した力があるわけじゃないし、柊君はどう?」
「乱を起こす……っていうと具体的にはどんな事ですか?」
「例えばの話じゃ、人間の王に、ワシらの国を攻め落とせと言われれば……その命に従うかの?」
「あ、それは無いです。普通に嫌です。」
キッパリとそう断言すると、その言葉を聞いてやっと安心できたのか、カリンさんはくつくつと笑った。
「くく、そうか……。漸く懸念が払われたのじゃ。」
ようやく落ち着いたらしく、カリンさんの頭から煙が消える。
「すまなかったのじゃ、ヒイラギ殿にミカミ殿。この国の長ともあろう者が無礼じゃった。」
「別に良いんだよ〜、カリンちゃん。秘密を知られちゃったのはちょっと予想外ではあったけど、別に他言するつもりも無いんでしょ?」
「勿論じゃ。」
そう頷きながら、カリンさんはパチンと指を鳴らすと、こちらを見守ってくれていたエルフの人の頭を黒い霧が通り抜けていった。それと同時に、彼女に異変が現れる。
「あ、あら?私……。」
「ヒイラギ殿とミカミ殿のことはワシが見ておく故、そなたは下がって休んでいて良いぞ。」
「あ、しょ、承知致しました。」
カリンさんの言葉で、すぐに彼女はどこかへと行ってしまった。
「今のやりとりを見ていた者の記憶も消した……これで良いじゃろう?」
「わぉ、魔法ってそんな事もできるの?」
「伊達に580年生きとらん。この世で最も魔法を知り、最も魔法に長けておるつもりじゃった。ま、今のほんの数分の出来事で、そんな自負が崩れ去ってしまったがの。」
カラカラと乾いた笑いがカリンさんから溢れた。
「っと、暫し調理の邪魔をしてしまったの。すまなかったのじゃ。」
「あ、それなら大丈夫ですよ。もう出来ましたから。」
「なんと!?」
カリンさんに手を握られていた間に、触手を召喚して、裏で調理作業は進めていた。炊き込みご飯も出来上がったし、食後のデザートも完璧だ。
「さ、そういうわけだから、早くみんなのところに戻ってご飯にしよ〜!!ミカミちゃんは腹ペコだぞ〜!!」
出来上がった炊き込みご飯と、食後のデザートを手に、俺達はみんなが待っている大広間へと戻るのだった。
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