第165話 世界樹の果実の味は……
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カリンさんの屋敷のキッチンは滅茶苦茶広く、そこには調理を担当している使用人らしきエルフの人達がいた。
「ちと邪魔をするのじゃ~。」
「あっカリン様、どうかいたしましたか?」
「ヒイラギ殿に少々キッチンの設備を使わせてやってほしいのじゃ。構わぬな?」
「カリン様の願いとあらば、もちろんです。」
「すみません、ありがとうございます。」
「あら、人間なのにエルフ語がずいぶん達者ですね?カリン様からお許しが出ていますから、施設を使うことは構いませんが、お怪我をなさらないように気をつけてくださいね。」
そう優しく忠告してくれたエルフの女性に、俺は再び頭を下げる。
「ありがとうございます。じゃあ早速……。」
カリンさんと彼女に見守られながら、俺はさっそく調理に取り掛かった。
「まずはいつも通りホワイトライスを研いで水に浸けておいて……その間にウォークマッシュからもらったキノコの調理をしよう。」
今回は炊き込みご飯にするから、ご飯を炊くときに使う出汁も必要だ。それにもキノコを使おう。
「キノコは、さっとぬるま湯で洗って直火で香りが出るまで炙る。」
その間に、一番出汁を引いていく。一番出汁に使うのは昆布と鰹節だけ。昆布を水で戻し、じっくりと沸騰直前まで茹でた後に取り出して、引けた昆布出汁に鰹節を散らして濾してあげれば美味しい一番出汁の抽出は完了だ。
「ん、キノコもそろそろいいかな。」
軽く焼き目がつき、香りが出てきたキノコを手で割いて食べやすい大きさに整え、抽出した一番出汁の中に沈める。これでキノコの香りと旨味が余すことなく出汁の中に閉じ込められる。
「あとはこの出汁を醤油と煮きり味醂で味を調えれば……。」
醤油と煮切った味醂で味を調えた出汁を味見すると、最初にキノコの強い香りが鼻を抜け、その後に優しい一番出汁の香りへと移り変わっていく。
味の方もキノコの旨味成分……こっちの世界でもグアニル酸なのかな?それが、一番出汁の旨味成分のグルタミン酸とイノシン酸と混ざって引き起こされる相乗効果によって、さらに奥深いものとなっている。
本来炊き込みご飯には二番出汁っていう、一番出汁の出汁ガラを、さらに煮詰めて引いたものを使うのが適してる……と言われているが、俺はどちらかと言えば、香り高い一番出汁を炊き込みご飯に使うのが良いと思っている。これは料理人の好みによると思う。
「うん、これで良し。」
水に浸しておいたホワイトライスを鍋に移し、そこに先ほど作った炊き込みご飯用の出汁を注いでいく。
「あとは上にキノコを散りばめてっと……。」
ここまでの工程を経たら、あとは炊き上げるだけだ。今回は少し火加減に気をつけながら炊いていこう。
炊き込みご飯を炊いている間に、さっきもらった世界樹の果実を使って、簡単なデザートを1品作ろうか。
そして、さっきもらった世界樹の果実をバッグから取り出すと、こちらをじっと見つめていたカリンさんが口を開いた。
「ヒイラギ殿よ、それをどうするつもりなのじゃ?」
「1年に1回しか食べられないものみたいですから、せっかくならみんなで味わいたいと思って……。」
「ふむ、ではいくつかに切って、皆でかぶりつくかの?」
「素材の味を楽しむなら、それも良いかなって思ったんですけど、今回はこれを使って、ちょっとしたお菓子を作ろうかなって思ってました。」
「むっ!?世界樹の果実で甘味を作るじゃと!?……普通のエルフならば、恐れ多くて至らん思考じゃな。」
「今まで、ずっとこのまま切って食べてたんですか?」
「うむ。ワシが族長になって300年ほど経つが……ずっとそのまま食っておったな。」
「それじゃあもしかすると、新しい発見になるかもしれないですね。」
だが……まずお菓子にする前に、この世界樹の果実というものがどんな味なのか、自分で味見してみないとな。どんなお菓子にするのかはそれから決めよう。
「カリンさん、この世界樹の果実は、皮を剥いて、中の実を切って食べてましたか?」
「そうじゃ。面倒な時は、そのままガブリといく時もあるがの。」
「なるほど……ありがとうございます。」
じゃあ一先ず桃と同じように皮を剥いてみようか。そう思って、手にしていたレヴァの切っ先を世界樹の果実に当てた瞬間……世界樹の実と皮が一瞬にして別れた。
「なんじゃ!?いったい何が……。」
カリンさんは、一瞬で皮が剥けてしまったことに驚いているが、レヴァならコレができる。本当に使い勝手が良い。
「じゃあ少し端っこを……。」
世界樹の果実の端っこを少しだけ切り、口の中に放り込んだ。すると、ほんの少量にも関わらず、濃厚なマンゴーのような甘さが口いっぱいに広がる。
だが、驚くのはここからだった。この世界樹の果実の味は段々と段階を経て変化していき、最終的には、さくらんぼのような甘みと酸味を口の中に残していったのだ。
「あぁ……美味しい。」
「不思議な味じゃろ?味が濃厚なものから、甘酸っぱく爽やかなものへと変わっていくのじゃ。」
「はい、こんな味の果物は初めて食べました。」
1度で2度も3度も美味しい果物か……本当にこっちの世界は面白いものがたくさんあるな。
改めてこちらの世界に面白さを感じつつ、俺はこの世界樹の果実の調理へと臨むのだった。
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