第142話 砂糖芋のスイートポテト
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ミハエルさん達がお互いに声を掛け合い、調理に余裕が出てきたのを俺は横目で見守りながら、ミルタさんから購入した砂糖芋の味見をすることにした。
「うん、ちゃんと芯まで火が入ってる。」
串を刺して、中心までしっかり火が入っていることを確認し、鍋から蒸かした砂糖芋を取り出す。
「んっ?この感じ……しっとり系の芋だな。」
手に取ってみると、当然ながら生の時とは状態が一変していて、少し力を加えると指が沈むほど柔らかくなっていた。しっとり食感のサツマイモによく見られる特徴だ。
「中身はどうなってるかな。」
試しに半分に割ってみると、ふわっと湯気が上がりながら、黄金色に輝く断面が姿を現した。それだけでなく、断面から蜜が糸を引いていた。
「おぉ~、砂糖芋って名前が付けられたのも頷けるぐらい、甘いですってこの芋が主張して来てるな。」
断面に顔を近づけて香りを嗅いでみると、芋の香りというよりも、複雑な花の香りが入り混じったようなハチミツのような香りがしていた。
「味はどうかな。」
蜜が糸を引く砂糖芋に齧り付いてみると、しっとり、ねっとりと濃厚でコクのある甘さが口いっぱいに広がった。
「おぉぉ……ただ蒸かしただけなのに、めちゃくちゃ美味しいなこれ。ただ甘いだけじゃなくて、深いコクもある。これを素材の味を活かすお菓子に使ったら、きっとすごく美味しくなるぞ。」
味見をした後、俺はもう動き出していた。蒸かした砂糖芋の皮を剝き、潰し、裏漉して溶かしたバターと、甘さを引き立てるために少々の塩を混ぜ合わせた。
「これであとは形をラグビーボール状に整えて、表面に卵黄を溶いた卵液をひと塗りしてオーブンへ。」
焼いている途中で一度取り出し、表面に卵黄をもう一度塗り直してサッと焼き上げれば……。
「よしできた。スイートポテト。」
この砂糖芋自体がすごく甘い芋だから、砂糖は一切加えてないけど、味はどうかな?完成したスイートポテトを味見をしようとしたとき、ふと下から視線を感じた。
じ~~~っ。
指を咥えてこちらを見つめていたのは、いつの間にか厨房に足を踏み入れてきていた、ミカミさんとシア、グレイスだった。
「柊君、それなぁに?」
「この前ミルタさんから買った砂糖芋を使って、スイートポテトを作ってみたんです。素材の味がもともとかなり美味しかったので、素材の味が大事なお菓子に仕上げてみました。」
「スイートポテトっ!!ヒイラギお兄ちゃん、シアそれ食べてみたいっ!!」
両手を上に伸ばして、必死にぴょんぴょん飛び跳ねておねだりしてくるシアに、少し冷ましたスイートポテトを手渡した。
「やった!!お兄ちゃんありがとう!!」
「柊く~ん?もちろん私にもくれるよねっ?ねっ?」
「自分も食べてみたいっす~!!」
「そ、そんなに詰め寄ってこなくても、ちゃんと数はある程度作りましたから。はい、どうぞ。」
ミカミさんとグレイスにもスイートポテトを手渡すと、2人は嬉しそうにそれを受け取った。
「「「いただきま~す!!」」」
そして3人は一斉に砂糖芋のスイートポテトを頬張った。するとすぐにミカミさんとグレイスは、ほっぺたを押さえながら、幸せそうな表情を浮かべている。
「甘くて美味いっす~。」
「んんっ!?これめちゃくちゃ美味しいよ柊君っ!!すぐにでも商品化するべきだね。」
「獣人族側からの供給が安定したら商品化してもいいんですけど……。獣人族の国の方の問題が解決したら、商品化してみましょうか。」
ミカミさんとそう話した後、俺は一口食べて固まってしまっているシアに声をかけた。いつもなら美味しいものを食べたら、すごくいい反応をしてくれるんだけど……今回は少し様子が変だ。
「シア?」
「あ……。」
「どうかしたのか?もしかして、あんまり美味しくなかった?」
「ち、違うのっ!!」
我に返ったシアは、フルフルと全力で首を横に振って、スイートポテトを全部口の中に押し込んだ。それを呑み込んだ後、さっき固まっていたことについて少し話してくれた。
「この味……シア知ってた。すごく前に食べたことがあって……で、でもヒイラギお兄ちゃんが作ってくれたこれの方が、すっごく美味しかったよ。」
「砂糖芋は、もともと獣人族の国で採れたものらしいからな。多分、シアがもっともっと小さかった頃に食べたのかな。」
「も、もっと食べてもいい?」
「あぁ、好きなだけ食べたらいいよ。」
ぽんぽんと頭を撫でてあげると、シアの表情が一気に明るくなった。それと同時に俺の一抹の不安も拭われた。
「お兄ちゃんありがとう!!」
シアの嫌な思い出を掘り起こしてしまったのかと、すこしヒヤッとしたが、今こうしてまた美味しそうに食べてくれている様子を見る限り、問題はなさそう……かな。
でも、これから獣人族の国の食材を扱うときは、少し気をつけたほうが良いか。いつ、何がシアの嫌な記憶……トラウマを刺激してしまうかわからない。
……できれば嫌な記憶が、俺達と過ごして楽しかった記憶とか、美味しい料理の記憶とかで上書きされてくれたらいいんだけどな。
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