第140話 薬師グライ
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ドーナさんがさっき話に出てきた人物を連れてくると言って、ギルドを出て行ってから数十分……。順調にミハエルさん達の作ったスポンジケーキが売れていく最中、ドーナさんが一人の女性を連れてギルドに戻ってきた。
「待たせたね。連れてきたよ。コイツは薬師のグライ。名の通り、薬の研究者だ。」
「はわ……あ、あの、お薬の被検体って、あ、あなた方ですかぁ?」
ドーナさんが連れてきたグライという女性は、オドオドしながら、俺の顔をじっと見つめてくる。そんな彼女の体を軽々と持ち上げて、未だ気絶したままのごろつき達の方へと体を向けさせた。
「アンタの薬を試していいのは、あっちの奴らだよ。そこにいるのは、ヒイラギ。アンタが助手に買ってきてもらってるお菓子を作ってる張本人だ。」
「えっ、えぇっ!?あの摩訶不思議なほどに美味しいお菓子は、あ、あなたが作っていたんですかっ?」
先ほどのおどおどした様子から一変、目をキラキラと輝かせながら、彼女はこちらに詰め寄ってきた。すると、とんでもないことをこちらに問いかけてきたのだ。
「あ、あのお菓子には、いったいどんな薬品を使っているんですか!?」
「え?い、いやあれには別に何も使ってないんですけど……。」
「へ?な、なにも使ってないんですか?この世のものとは思えない程美味しいのに?み、味覚に直接働きかける何かとかも?」
「は、はい……何も使ってません。」
彼女がポカーンとしていると、ゴチンとドーナさんが彼女の頭に拳骨を落とした。
「はぅあぅっ!!」
「アンタねぇ、そいつはちょっと失礼ってもんさ。いっくら研究室に籠りっきりだからって、それぐらいの判別ぐらいそろそろつけな。」
「はぅぅ……、しゅみませんでしたぁ。」
頭にできたたんこぶを両手で押さえて、涙目になりながら必死に彼女は謝ってくる。別に悪気は無いみたいだし、美味しく食べてくれてたって事実も分かったから、特に咎めることはしなかった。
「だ、大丈夫ですよ。お菓子を買って食べてくれて、ありがとうございます。」
必死にペコペコとこちらに頭を下げてくる彼女に、思わず俺も頭を下げてしまいそうになった時、ドーナさんがごろつき達を指差しながら、声を上げた。
「……で、グライ?そろそろ、アイツらから情報を聞き出したいんだけど?」
「あ、あぁっ!!そそ、そうでした。」
思い出したようにグライさんは、白衣の内側からドロリと粘性のある紫色の液体で満たされた小瓶をとりだした。
「ふ、ふへへへ。」
「わっ、いかにもヤバそうなのが出てきた……。それ何なのグライちゃん?」
ミカミさんが問いかけると、誇らしげにグライさんがその液体について説明を始めた。
「こ、これはですねぇ、私が開発中の自白剤スナオニナールの試作品第一号です。」
「「スナオニナール……。」」
俺とミカミさんは、思わず同時にその名前を口にしてしまった。
「あ、ち、ちなみに薬としての安全基準はクリア済みですから、飲んでも死んじゃったりはしませんよ。そ、その代わり、飲んだら二度と嘘をつけない体になってしまいますけど……ふへへへ。」
「まっ、コイツらもどうせ悪人だろ?そこんとこ、どうだったんだいミース?」
「はいっ!!私ミースが調べたところ〜、この2人組は強盗と傷害、脅迫で投獄された前歴がありましたっ!!」
ミースさんは、ドーナさんが帰ってくるまでの間に、この2人の男について調べ上げていたのだ。
「ん、そいつを聞いて安心したよ。悪人には、グライの〜……その、なんだっけ?」
「スナオニナールですっ!!」
「そう、そのスナオニナールって薬が、文字通りいい薬になるだろ。っつうわけで、ガブガブ飲ませてやりな。」
「ふへへ、で、ではでは遠慮なく……。」
暗い笑みを浮かべながら、グライさんはスナオニナールが入った小瓶の蓋を開けて、男達の口の中にドロドロの液体を流し込んでいく。
その直後、意識を失っていた男達の意識が突然戻り、喉を押さえてその場でゴロゴロとのたうち回り始めた。
「ぐがぁぁっ!!か、辛ぇぇぇっ!?」
「く、口がっ!喉が焼けるッ!!」
どうやらスナオニナールはめちゃくちゃに辛いらしく、大の大人2人が涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、叫びながらのたうち回っている。
その様子を満足そうに眺めながら、グライさんはレポートをとっていく。
「ふひっ、き、気付け作用を追加するために加えたデスピルマの効果も上々ですねぇ。」
レポートをとっているグライさんのところにミカミさんが飛んでいくと、ある質問を投げかけていた。
「グライちゃん、デスピルマって何?」
「ピルマっていう苦ぁい野菜があるじゃないですか。それの変異種で、こ、この世のものとは思えないほど辛ぁい植物ですねぇ。……ち、ちなみにコレが現物です。」
グライさんはキュッと手袋をはめると、白衣のポケットから、毒々しい紫色の唐辛子のような物を取り出した。
「ほへぇ〜……それ、面白そう。いろんなことに使えそうだね。」
ミカミさんが手で触れようとすると、すぐにグライさんがそれを制止する。
「あ、だ、ダメです。こ、コレに触れた手にも辛い成分が付着しちゃうんです。普通に洗ってもとれないんですよ。」
「そうなんだ……面白そうだなって思ったけど、扱いは難しそうだね。」
「で、でも面白いのは間違い無いですよ。こ、この成分を上手く使えば、もっと色々な薬が……ふへへへ。」
グライさんが妄想に耽っているしばらくの間、男達はずっとデスピルマの辛さに悶絶していたのだった。
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