第139話 心強い協力者
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自分達で作ったスポンジケーキを食べ尽くしたミハエルさん達のところに戻って、俺は彼等に残ってる材料を指差しながら言った。
「それじゃあこれからは反復練習って事で、調理工程に慣れてもらうために、ここに残ってる材料を全部使い切るまで、スポンジケーキを作ってもらいます。」
「えっ!?こ、この小麦粉と卵を全部使い切るまでですか!?」
思わずミハエルさんは驚くが、彼の問いかけに対して俺は大きく頷いた。
「もちろんです。明日はきっとこの倍……いやもっとかな?とにかく、たくさんスポンジケーキを焼くことになりますから、それまでにある程度の調理工程に慣れてもらいたいんです。」
「な、なるほど……。で、ですがかなり量が余ってしまいそうですが。」
「それに関しては……ミースさんにちょっと相談があるんですけど。」
「はいはいっ!!なんでしょうか!?」
「ミハエルさん達が作ったスポンジケーキを、ギルドで売ってくれませんか?」
「おっ任せくださいっ!!お値段はいくらにしますか?」
「スポンジケーキ1つ、銀貨2枚でお願いします。」
「わっかりました!!すぐに手配してきますね!!」
すると、ミースさんは慌ただしく階段を登って行ってしまった。それを呆然と見送っていたミハエルさん達の前で、俺はパンと手を叩く。
「さっ、呆けてる暇は無いですよ。早速調理に取り掛かりましょう。」
「「「は、はいっ!!」」」
そしてヴェイルファースト一家3人は、一斉に調理に取り掛かり始める。そのタイミングで俺はリタに声をかけた。
「リタ、ちょっと良いかな?あ、作業の手は止めないで聞いてくれ。」
「はいっ、なんですの?」
「さっき、自分で失敗をたくさんしたって言ってたよな?」
「そう……ですわね。」
「でも最終的には、みんなの中で1番美味しく出来上がってた。それが何でなのかわかるか?」
「自分でもそれが、わ、わからないですわ。」
「その答えはな、失敗しても諦めず、丁寧にレシピ通りに作ったからだ。まっ、何が言いたいかっていうと、失敗なんて気にするなって話だ。初めてなんだし、失敗するのは当たり前だからさ。」
「失敗は気にしない……ですわね。」
「そう、でも一度やってしまった失敗は、繰り返しちゃダメだ。1度目の失敗で学んで、同じ失敗をしないように取り組んでいくのが大事。わかったか?」
「わ、わかりましたわっ!!」
フンスと鼻から勢い良く息を吐き出し、やる気に満ち溢れているリタの様子を見て、一安心したところで、ミハエルさん達にも声をかけた。
「何か分からないことがあったら、すぐに声をかけてください。俺はすぐそこで別のことやってますから。」
そして後のスポンジケーキ作りは、ミハエルさん達に任せて、俺は先程から蒸していた砂糖芋の様子を見てみる事にした。
「さてと、どうなってるかな〜。」
鍋の蓋を開けようとした時、突然上の方から何かが割れる音とか、バキッと何かが折れるような大きな音が聞こえてきた。
「なんだ?」
何か様子がおかしいと思ったのも束の間、急にシン……と静まり帰り、誰かがコツコツと階段を降りてくる音が聞こえてきた。
「ヒイラギ〜?なんかアンタに用があるって客が来てたよ。」
「ドーナさん?」
階段を下りてきたのはドーナさんだった。彼女は顔面がほぼ陥没してしまっている男達を、引き摺りながら階段を下ってきていたのだ。
「もしかして今の上の大きな音って……。」
「あぁ、それはコイツらが急に暴れ出した音だねぇ。」
「ち・が・い・ま・すっ!!ドーナさんがその人達を吹っ飛ばした時に、棚が倒れた音ですよ!!」
すっとぼけていたドーナさんに、後を追いかけてきていたミースさんが厳しく突っ込みを入れた。すると、ドーナさんは少しバツの悪そうな表情を浮かべた。
「だってしょうがないだろ?ギルドの中で急に武器構えて、「ヒイラギってやつはいるか~!!」って叫び出したんだからさぁ。制圧するしかないだろ?」
「まぁ、それはありがたいことなんですけど、ドーナさんならもうちょっと穏便に済ませられましたよねっ!?」
「ん~、まぁ否定はしないよ。……で、ヒイラギはこいつらに見覚えは無いのかい?」
「無いですけど……まぁ、狙われるような心当たりは一つだけ。」
「……?なんだい?」
俺はドーナさんとミースさんに、向こうで少し不安げな表情でスポンジケーキを作っている、ヴェイルファースト家の人達のことについて話した。
「な~るほどねぇ。つまり、アイツ等はそのオークションでヒイラギ達と競り合ってたっていうやつの、差し金かもしれないってわけだ。」
「でもそうなると、厄介な人に目を付けられちゃいましたね。もしその人が有名貴族って場合だと、かなり影響力もあるでしょうし、これからずっとミハエルさん達を狙ってくるかも。」
「そう、それが問題なんだよね~。できれば主犯をとっ捕まえてやりたいところだけど、こういう風に差し向けられた輩が情報を持っているとは思えないし、現状行き詰ってるんだ。」
「それでも試しに情報でも吐かせてみるかい?一応こいつらに仕事を依頼した奴は間違いなくいるんだし、そっから芋蔓式で引っ張り上げてけば……。」
「それもアリだけど、どうやって情報を吐かせるの?」
「アタシの知り合いに、そういう事に関して専門分野の奴がいるよ。どうせギルドの修繕費も請求しないといけないし、吐かせるだけ吐かせてみようじゃないか。」
「ドーナさん、それ……自分で壊した備品の弁償するのが嫌だから、情報を吐かせようとしてませんか?」
「な~んのことかアタシにはさっぱりわかんないねぇ~。」
ミースさんの追及から逃れるように、ドーナさんは口笛を吹いて知らんぷりしている。ドーナさんの目的が何にしろ、協力してくれるならこれ以上に心強い味方はいないな。
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