第135話 ヴェイルファースト一家との話し合い
ブックマークやいいね等とても励みになりますのでよろしくお願いいたします。
グレイスにエミルまで運んでもらって、前々から借りていた宿に戻った後、そこで改めてヴェイルファースト一家と話し合いの場を持つこととなった。
「改めまして、この度は私達を救って頂き、心より感謝を申し上げます。」
ミハエルさんとフレイアさん、そしてリタまでもが座りながら深く頭を下げてくる。
「奴隷から解放して頂いた恩は、私達の一生をかけても返し切れないとは思いますが……どうかこの身を御身のためにお使いください。」
ミハエルさんが真剣な面持ちで言ったその言葉に、ミカミさんは彼らの緊張を解くように明るい口調で話し始めた。
「まぁまぁ、そんなに気負わないでよ。私達がキミ達を助けたっていう事は、一先ず事実としてあるわけなんだけど、こちらとしては別に恩を返してもらわなくたって構いやしないんだ。」
「で、ですがそれは……。」
「そう、私達がいらないって言ったって、キミ達ヴェイルファースト家の人間はそうはいかないんだよね?」
心情を見透かされたことで、ミハエルさんは静かに一つ頷いた。
「そこで、私は一つあることを考えたわけだよ。柊君、ケーキとプリン、ドーナツってストックある?」
「ありますよミカミさん。」
「それを彼らに食べさせてあげてくれないかな?」
「わかりました。」
俺はすぐにマジックバッグの中から、ミカミさんが言った3種類のお菓子を取り出してミハエルさん達の前に差し出した。
「こ、これは……いったい?」
「果物が使われているところを見るに、お菓子……でしょうか?」
「そうっ!!今フレイアちゃんが言った通り、これはぜ~んぶお菓子なんだ。それも私達が販売しているものだよ。」
「えっ!?ひ、ヒイラギさんとミカミさんは、お菓子職人なのですか?」
思わずフレイアさんは両手で口を押さえながら驚愕していた。
「あはは、お菓子職人だけじゃないよ。魔物ハンターと兼業でお菓子を売ってるのさ。どちらかというと、魔物ハンターの方が本業だよ。」
「そ、そうだったのですか……どおりでお強いわけですね。」
「まま、私達が魔物ハンターと兼業でお菓子を売っているっていうことを頭に入れながら、そのお菓子を食べてほしいんだ。」
「こ、これを食べてもよろしいのですか?」
恐る恐るフレイアさんとミハエルさんは俺とミカミさんに交互に視線を送ってくる。その視線に対して、俺は少し微笑みながら一つ大きく頷いて返事を返した。
「どうぞ、遠慮なく食べてください。貴族の人達の口に合うかはわかりませんけど……。」
そう少し謙遜しながら言うと、リタが激しく首を横に振りながら、自分の両親の方に顔を向けた。
「こ、この方はこんな謙遜したように言ってますけれど、お父様もお母様もこの方の作ったものを食べたら、きっと驚くと思いますわ!!」
「ふふふっ、子供の頃あんなに食べ物にこだわりがあったリタがそこまで……余程美味しいものをヒイラギさんに食べさせてもらったんですね。」
リタの頭を撫でながら、フレイアさんは笑みを浮かべてこちらにぺこりとお辞儀をしてきた。
「フレイア、リタ、お2人がせっかく食べろと言ってくださってるんだ。早速いただこう。」
「そうですね貴方。」
「じゃ、じゃあありがたく頂きますわ。」
3人そろってこちらにぺこりと一礼した後、各々気になったお菓子を一口、口に運んだ。するとまたまた3人そろって口元を両手で押さえながら、驚愕の表情を浮かべていた。
「どうどう?感想言える?」
そのミカミさんの言葉を聞いて、やっと3人は同時に言葉を絞り出した。
「「「す、すごく……美味しい。」」」
それを皮切りに、3人はあっという間に目の前にあったお菓子を食べつくしてしまった。
「「「ご、ご馳走様でした。」」」
「美味しく食べてくれたようで何よりだよ。」
空になったお皿を見つめながら、口元を拭いたミハエルさんが感想をまた口にする。
「こ、こんなに美味しいお菓子は貴族だった頃でも食べたことがありません。そもそもこれはこの国のお菓子なのですか?」
「いいや、この国のお菓子ではないね。これは私達の故郷のお菓子なのさ。妖精の国のね。」
「そ、そうだったのですか。それを聞いて、ただのお菓子がこんなにも幻想的で芸術的な見た目だったことも納得できました。」
「うんうん、さて……これからの話に戻るんだけど、これからキミ達には柊君の指導の下、このお菓子を作れるようになってもらいたいんだ。」
「こ、これを……ですか。」
ミハエルさんはすこし表情をしかめた。そんな彼の隣にいたフレイアさんは彼とは真逆の反応を示し、目をキラキラと輝かせていた。
「このお菓子の作り方を教えてくださるのですか!?」
「もちろんです。今日はもう夜も遅いですし、皆さんも疲れていると思うので、明日から始めましょうか。」
「ひ、ヒイラギさん。私とリタは、そ、その……料理の経験というものが無いのですが……。」
「経験が無くても大丈夫ですよ。みんな料理の経験が無いものだと思って教えますから。足並みをそろえて、頑張って覚えていきましょう。」
「っ、わかりました。このミハエル・ヴェイルファースト……ご恩に報いるために粉骨砕身で取り組ませて頂きます!!」
「わ、わたくしも頑張りますわっ!!」
「うんうん、やる気があるのは結構結構。それじゃ、明日の朝……この部屋で待ち合わせようね。ひとまず今日はゆっくり休んで、久しぶりの家族との時間を楽しんでよ。」
その後、何度もこちらに頭を下げるミハエルさん達とは一度別れて、同じ宿の別な部屋で休んでもらうことになった。
それを見送った後、俺もシャワーを浴びてベッドに入ると、ベッドに横になった俺の胸の上にちょこんと座ったミカミさんが申し訳なさそうな表情で、あることを謝罪してきた。
「ごめんよ柊君。」
「え?いきなりなんですかミカミさん?」
「私はキミのレベルアップと、大量のお金が手に入ると思って、今回作戦を立てていたんだけど……そのどちらもキミに提供することができなかった。」
「そんなことですか……別になにも気にしてませんよ。お金が手に入らなかったのは、俺が自分で稼いだお金で夢を叶えたいって言ったからですし、レベルアップだってどのぐらい上がるかなんて予想は誰にもできませんでしたから。つまり、ミカミさんに非はありません。」
「う゛ぅ~~~……柊ぐん。」
ぐずぐずと鼻をすすりながら、らしくもなく涙目になっているミカミさん。なんとなく放ってなくて、頭を撫でるとミカミさんはきょとんとした表情を浮かべた。
「ひ、柊君?」
「明日からまたよろしくお願いしますねミカミさん。」
「~~~っ、う゛んっ!!」
そしてお互いに笑った後、今までの疲れがどっと襲ってきたように眠りに落ちたのだった。
この作品に対する感想、意見などなどお待ちしています。こうしたほうがいいんじゃない?とかそういったものは大歓迎です。単に面白くないとかそういった感想は豆腐メンタルの作者が壊れてしまいますので胸の内にとどめていただければ幸いです。