第121話 恐怖の空の旅
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いざ、王都へと向かう馬車を探しに関所へとやってきたのだが……残念なことに今日の王都へと向かう便は全部出発してしまったらしい。どうしようかと思案を巡らせていると、シアの胸ポケットからグレイスが飛び出した。
「ヒイラギさん、馬車が無いなら自分の出番っすよ!!」
「なるほど、確かにグレイスなら……あぁ、でも俺達が乗れるような乗り物が無いな。」
「自分の背中に乗るとかはどうっすか?」
「背中に全員は乗れないだろ?」
「う、確かにそうっすね……一人ぐらいならぜんぜん大丈夫なんすけど。」
また振り出しに戻るかと思われたその時、ミカミさんが声を上げた。
「じゃあ、柊君以外はマジックバッグの中に入ればいいんじゃない?」
「マジックバッグの中にですか?」
「うん、だって私が入れるのは前に確認しているから、他のみんなも入れると思うんだよね。」
「なるほど……じゃあ試しにやってみますか。」
そして俺以外のみんなにマジックバッグの中に入ってもらうよう促すと、みんな続々と吸い込まれるようにしてマジックバッグの中に入っていった。
「出てこれるか?」
そう問いかけると、シアがひょっこりとマジックバッグの口から顔を出した。
「大丈夫っ!!」
「うん、それならよかったよ。じゃあちょっと中で待っててな?着いたら声をかけるから。」
「はーい!!」
そしてシアが顔を引っ込めると、入れ替わるようにミカミさんがマジックバッグから飛び出してきた。
「よっと!!さ、これなら大丈夫でしょ?」
「ミカミさんもグレイスの背中に一緒に乗るんですか?」
「そりゃあねぇ、ドラゴンの背中に乗るって、誰しもの夢じゃない?こんな機会を逃す手は無いよ!!」
「あはは、間違いないですね。」
問題が解決したところで、ヴェールの外に出て少し歩き、人の往来が少ない場所でグレイスに元の大きさに戻ってもらった。
「んん~っ!!ちっちゃい体も小回りが利いて動きやすいっすけど、元の体がやっぱり最高っすねぇ~。」
「あ、忘れないうちに……こっちの首輪を着けさせてくれ。」
「はいっす!」
さっき外した小さいサイズの首輪の代わりに、まだサイズ感を確かめていなかった大きな首輪を着けてみた。少し大きいようだが、締め付けられないからこのぐらいでいいのかな。
「よし、オッケーだ。」
「これがあれば大きくなってる時でも人間に襲われないっすかね?」
「わからない。この首輪の存在を知らない人からは襲われる可能性もあるから、大きくなってるときは気をつけたほうが良いだろう。」
「了解っす~。いよっし、じゃあヒイラギさんにミカミちゃん、背中に乗ってくださいっす!!」
屈んでくれたグレイスの背中に跨ると、グレイスは力強く羽ばたいて一気に大空に飛びあがった。
「おぉぉぉぉわぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
さながら絶叫系のアトラクション……最後にそういうアトラクションがあるような遊園地に行ったのは、高校生の時だったかな。その時以来だから、正直滅茶苦茶怖かった。
「み、ミカミさん、大丈夫ですか?」
「私は全然大丈夫~。柊君の方こそ大丈夫かい?」
「い、いや……正直滅茶苦茶怖かったですよ。」
「あっはっは、柊君は絶叫系のアトラクションは苦手だったかな?」
「免疫はないです。」
「そういうのを苦手っていうんだよ。グレイスちゃん、速度控えめで飛んでくれる?」
「了解っす~ゆっくり飛べばいいんすね?」
「そうそう、私達が落ちないようにお願いするよ。」
「お任せっすよ~。じゃあ……どっちに飛べばいいっす?」
「今グレイスちゃんが向いてる方向に真っすぐ飛んで~。」
「了解っす!!行くっすよ~!!」
グレイスはまた一つ大きく翼を羽ばたかせると、グン……と一気に加速して王都へと向かって飛び始めた。俺の胸ポケットに収まっているミカミさんは、絶叫マシンを楽しむかのように笑顔だけど、必死に落ちないようにグレイスに掴まっている俺は楽しむどころの話じゃない。言ってしまえば、シートベルトや安全装置が無い絶叫マシンに乗っているようなものだからな。少しでも足の力を緩めたら……なんて、そんなことは考えないでおこう。
王都に着くまでの空の旅の間、必死にグレイスにしがみつくことだけを考えていたのだった。
どれぐらい時間が経っただろう?永遠とも思えた空の旅にようやく終わりがやってくる。
「あっ、なんか大きなお城が見えるっす。」
「大きなお城……そこが王都に間違いないね。グレイスちゃん、人気のないところに降りてちょうだ~い。」
「了解っす~。」
着陸の時は垂直落下……もう絶叫をする気力もなかった。だが、ようやく地面に足をつけることができたときには、本当に心の底から安堵のため息が出てしまった。
「ようやく……地面に足が。」
「あはは、柊君は楽しむ余裕なんてなかったもんね。」
「帰りは絶対に馬車を借ります。」
「え、飛んで帰らないっすか?」
「もう少し優しい飛行をしてくれるなら、考えても良いぞ。」
次にグレイスの背中に乗せてもらうときは、何かしら落っこちないように体を押さえるものを買っておいたほうが良い。できれば安心して乗りたいからな。
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